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「……ちなみにそれ、誰からの依頼なんですか」
一応、聞いておく。何となく予想はついているが……。
「ああ、先生だよ」
「まあ、そうだと思ったが……」
「ドブ掃除って!無理無理!俺そんなのやったことねーもん!」
「零士先輩に同意!業者にやらせときゃいいでしょそんなの!生徒がやることじゃないよ!」
「ドブの臭いなんて嗅いだら死にます、無理です」
次々と反対する部員達。
そりゃそうか。俺だって出来れば断りたい。
「まあまあ落ち着いてくれたまえ。何もタダでそんなことさせようなんて言ってないだろう?……1万円さ」
会長が金額を告げた途端、部員から批判の声が止んだ。
学生の1万円は結構デカい。しかも一日働いただけで、だ。
「そ、そんなこと言って。どうせ1万を5等分とかなんでしょ」
「そんなケチなことする訳ないじゃないか!しっかり一人に1万円、ちゃんと手渡しさせて貰うよ」
「ふーん……ほんとにちゃんとくれるんだね」
会長に食ってかかっていた直樹も満更でも無さそうな様子を見せた。
しかし、本当にコイツら現金なヤツだな。学生だから仕方ないか。いや、俺も学生なんだが。
「もう反対する部員はいないね?じゃあ担当する場所なんだけど……」
「……何なの!ほんっと、最悪なんだけど!!」
俺の隣で作業をしている直樹が、不満そうな大声を上げた。
基本的には全員バラバラに配置され、それぞれ一人での作業だったんだが、俺と直樹の担当部分だけかなり広めだったらしく、俺達だけは2人で作業することになった。
「一応調べたんだが、ドブ掃除の相場は1立方メートルで12000円から23000円らしいぞ」
「はあ!?こんなの全然損じゃん!」
「返事する前に、ちゃんと調べとくべきだったな」
「神凪先輩、アンタドヤ顔してるけどアンタだって騙されてんだよ」
……う。別にドヤ顔なんてしているつもりは無かったが。
しかし、俺には反対する理由は特に無かった。やりたくない作業なのは確かだが。
「俺は記憶も無いし、家族も居ない。少しの収入でも助かる」
「え……」
直樹の口と手が止まる。次に発する言葉を選んでいるようにも見えた。
……何だ。おかしなことでも言ったか?そんなに気にすることでもないのに。というか、俺の話なんてどうでもいいから手を動かしてくれ。早く終わらせたい。
「……その、大丈夫なの。それ」
「何が」
「いや、住むところとか、食事とか、色々」
「それを保証してくれてんのが、会長なんだと」
記憶喪失である俺がいとも簡単に入学出来て、寮にまで住まわせて貰えたのは教師の計らいでは無く、全て会長がやってくれたことらしい。
俺の口座も用意され、ある程度の生活費はそこに振り込まれている。それも全て会長の「ポケットマネー」で、だ。
だから俺は会長に逆らおうとは思わない。ここまで尽くされておいて、文句なんて言える立場では無い。
まあ、この話は本人からではなく担任であるユガミ先生とやらから聞かされた訳だが……。
「どんな人間か知らない奴によくここまで尽くせるよなって」
「まあ、会長って変人で有名だし……」
それでも俺が学校に迷い込んだ当初は、会長は俺にすら出会っていない筈だ。
幾ら変人とはいえ、見ず知らずの人間にそこまで尽くせるものだろうか。
というかそれ以前にあまりにも用意が早過ぎないだろうか。迷い込んだその日に入学で、その日に寮の部屋まで用意なんて普通出来ないだろ。
……そんな、まるで俺がここに来るのが最初から分かっていたみたいに───────……
「うっ……」
「ど、どうしたの?神凪先輩!」
突然気持ち悪さが俺を襲う。
頭がぐるぐるして、立っていられない。
「気持ち悪くなっちゃった?休憩する?」
「いや、これは……」
この前何度も経験したせいか、流石に理解した。
これは、ループする前触れ。
そして何処かで、楪が死んだ……。




