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「なあ、とりあえず聞きたいことがあるんだが」
「ん?なあに?」
「ここは何処だ。そしてお前は誰だ」
少女が何者かも分からないまま、俺は引っ張って来られたのである。
名前くらい聞いてもいいだろう。
……まあ、俺自身の名前は思い出せないんだが。
「ああ!自己紹介してなかったよね!ぼくは楪 有翔!ここは私立富士見学園だよ!ぼくはね、高等部2年A組の生徒なんだ!」
まさかの高校生。
てっきり小・中学生くらいだと勝手に思っていた。
「高等部ってことは、中等部もあるのか?」
「うん!ここは初等部からのエスカレーター式だから!勿論、途中から入学してくる子もいるよ!」
「へえ、楪は?」
「ぼくは……高等部からだよぉ。あっ、職員室ついたよ!」
話している間に職員室に到着したらしい。
しかし、記憶喪失なんてどうやって話したものか。
というか、信じて貰えるのだろうか。
色々不安になって来た。
本当に大丈夫か……?
「……転校生の神凪古です」
……嘘だろ。
教師が簡単に信じてくれた上に即入学だと。
その上学生寮にも住まわせて貰えるだと。
どうなってるんだ、この学校のジョーシキとやらは。
いや、考えるのはよそう。
ジョーシキがぶっ飛んでる学校のおかげで俺の生活が保証されたんだ。
ここは有難く思うべきだ。
「こさきぃ?変わった名前だな!」
うるせえ。俺だって好き好んでこんな名前名乗ってる訳じゃない。
名前が無いと不便だから、楪が「名前考えてあげるー!」って言い出して、勝手に名付けられて、反論も許されないでそのままこの名前に決まってしまっただけだ。
第一お前の髪色の方が変わってるだろ。オレンジ色って。チャラ男って呼ぶぞお前。
そういや楪もピンク髪に紫メッシュとかいう変わった髪色だったな。
この学校の風紀はどうなってるんだ。
そして教師に指さされた俺の席は不運にもチャラ男の隣であった。
「よー!こさきっち!これからよろしくな!」
なんだこいつ。
初対面なのに距離感ゼロかよ。
俺が冷めた目線を送ってやってもチャラ男はノーダメージで話しかけて来た。
どうやら空気も読めないらしい。
「俺、犬飼零士。お隣さんだしよろしくな」
「ふーん」
「何だよノリ悪いなあ。そういやこさきっちって名前の由来って親に聞いたことある?」
「知らん。楪に聞いてくれ」
「へ?何でアリちゃんに」
「そこ。私語は慎むように」
ナイス教師。
出来ればもう少し早くこいつのお喋りを止めて頂きたかったところだが。
「何だよせんせー!俺がうるさいのなんていつものことだろー!?」
またノーダメージ。
こいつ無敵かよ。