表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】多分、異世界転生もの。  作者: 久遠 魂録


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/102

風の便りと、デジタルな落ち葉

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

アトランティア市の空が、高く、透き通った秋の色に染まっていた。 メイン通りの並木道では、エンジニアたちが丹精込めて作り上げた「紅葉データ」が、物理演算に従ってひらひらと舞い落ちている。

「……もう、秋ですね」

阿武隈探偵事務所の窓辺で、八千代がティーカップを手に呟いた。 その視線の先では、ケン太が落ち葉を掃き集めるふりをして、カインの「送風機能」で遊んでいる。

「……そうだな。向こうの世界でも、そろそろ初霜が降りる頃か」

遼司はデスクで古い手帳を開き、現実世界の日付を計算していた。 八千代がこちらへ完全移住してから、この世界では穏やかな時間が流れたが、現実世界でも数ヶ月の月日が流れているはずだ。

「哲人君、どうしているかしら。……きっと、一人で寂しくお豆腐を食べているんじゃないかしら」

「あいつの心配か? ……あいつには天下無敵な奥さん(憂)が傍にいるからな!3人の曽孫達も超優秀(デミゴット=半神)で孝行者らしいし…。

孫と曽孫は立派なんだけどなあ…。その親の子育ては残念ながらだったから…。」

子らは八千代よりも先に旅立った事を遼司は知っている…。

「因果応報」…。例えるなら、その言葉しか浮かばない。哲人は随分、酷い目にあったらしい…。

「へっ。案外、ばあさんの分まで羽を伸ばして、美味いもん食ってるんじゃねえのか」

遼司は強がってみせたが、その指先は無意識に、右腕の通信デバイスを弄っていた。 直接的な通信は不可能だ。だが、この世界(SAGA SAGA)の根幹には、哲人のプログラムが血脈のように流れている。

『報告。……システム・ログの深層に、微弱な「更新パケット」を確認。……メッセージは暗号化されていますが、感情タグは「安寧」と「感謝」に設定されています』

カインが、空気を読んだように告げる。

「更新パケット? ……哲人の野郎、隠しファイルでも送り込んできたか」

遼司が解析画面を開くと、そこには短いテキストデータが、落ち葉のプログラムに紛れ込むように存在していた。

『じいちゃん、ばあちゃん。……庭のコスモスが綺麗に咲いたよ。……僕は、大丈夫だ』

それは、管理者権限を持つ哲人だけに許された、粋な「風の便り」だった。

「……まあ」

八千代がモニターを覗き込み、目元を潤ませた。

「コスモス……。私たちが新婚旅行で見た、あの花ね。……あの子、ちゃんと覚えていてくれたのね」

「……当たり前だ。誰の孫だと思ってる」

遼司は少し照れくさそうに、画面を閉じた。 現実世界で一人、キーボードを叩きながら祖父母を想う孫の姿が目に浮かぶ。 血の繋がりは、たとえ次元が違っても、データのパケットに乗って届くのだ。

「……あなた。今日は、あの子の好きなアップルパイを焼きましょうか」

「ああ。……匂いだけでも、あっちに届くといいんだがな」

キッチンから甘いリンゴの匂いが漂い始める。 それにつられて、掃除をサボっていたケン太と、食いしん坊の星が事務所に飛び込んできた。

「わあ! アップルパイ!? お姉さん、僕も手伝います!」 「私も、味見の担当として全力を尽くします!」

賑やかな事務所。 外では、秋の風がデジタルの枯れ葉を舞い上げている。 その風の一部は、世界の境界線を越えて、遠い現実世界の病室や書斎まで、優しい温もりを運んでいるのかもしれない。

「……さて。秋が終われば、冬が来る」

遼司は、八千代が淹れてくれたコーヒーを一口飲み、満足げに微笑んだ。

「冬が過ぎれば、また春だ。……そうやって、俺たちの物語は積み重なっていく」

一歩一歩。 一日一日。 幸せのスタンプを押し続ける、静かで贅沢な時間。

アトランティアの街角で、一葉の赤い葉が遼司の肩に止まった。 それはまるで、現実世界からの「元気でね」という返信のようだった。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 ★★★ブクマ・ポイント評価お願い致します!★★★


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ