女神たちの休日と、パレードの先頭
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
「……それで? 結局、何を着ていけばいいのかしら?」
阿武隈探偵事務所の応接セットで、美琴が雑誌をめくりながら悩んでいた。 彼女の隣では、祈里と神那、そして沙希が、大量の服を広げてファッションショーを繰り広げている。
「今日は、アトランティア市の『創業記念パレード』ですよ! もちろん、一番可愛い服で決まりです!」 祈里が、フリルのついたドレスを体に当ててはしゃぐ。
「動きやすさ重視なら、やはりジャージでは……?」 神那が真面目な顔で提案する。
「そ、そんなの着ていったら、目立っちゃいます……。私は、透明マントがいいです……」 沙希が物陰から小声で言う。
「……あのな。うちの事務所を楽屋にするのは勘弁してくれ」
遼司はデスクで頬杖をつき、溜息をついた。 今日は、この世界(SAGA SAGA)が正式リリースされた日を祝う記念日だ。 街全体がお祭り騒ぎで、前線cafeも休業。 その暇を持て余した店員(神様と眷属)たちが、なぜか探偵事務所に集結しているのだ。
「あら、いいじゃないですか。賑やかで」
八千代が、お茶とお菓子を運びながら微笑む。 彼女は、若返ったことでファッションへの関心も戻ったのか、美琴たちと楽しそうに服の話をしている。
「八千代さんは、何を着るんですか?」 美琴が尋ねると、八千代は少し照れくさそうに答えた。
「私は……主人が選んでくれた、このワンピースで十分です」
その言葉に、女性陣が一斉に「ヒューヒュー!」と冷やかす。 遼司は顔を赤くして、新聞で顔を隠した。
「……うるせえ。行くならさっさと行け」
「ふふっ。照れ屋さんですね」
美琴は立ち上がり、背伸びをした。
「じゃあ、行きましょうか。……今日は特別に、私たちがパレードの先導をしてあげるわ」
「えっ? 美琴さんたちが?」 ケン太が驚く。
「ええ。……実はね、私たち『前線cafe』のメンバーは、この街の守り神(という設定のアイドル)として、フロートに乗ることになってるのよ」
「マジかよ。……神様と神の眷属がアイドルか」 遼司が呆れる。
「これも『お仕事』よ。……さあ、皆さんも特等席にご招待するわ」
***
パレードは盛大だった。 大通りを、巨大なフロート(山車)が練り歩く。 その先頭を行くのは、豪華絢爛な「神輿」に乗った美琴たちだ。
「わあー! 美琴ちゃーん!」 「祈里ちゃーん! こっち向いてー!」
沿道のNPCや転生者たちが、熱狂的な声援を送る。 彼女たちは、この世界で本当に愛されているのだ。
「……すごい人気ですね」 八千代が感心して見上げる。
「ええ。彼女たちは、ただの店員じゃありませんから」 隣にいた星が、誇らしげに言った。 「彼女たちは、この世界の『境界線』を守りながら、人々の心も守っているのです。……アイドル活動も、その一環ですよ」
「へっ。……いい商売だな」
遼司は、フロートの上で手を振る美琴と目が合った。 美琴は、遼司たちを見つけると、マイクを持って叫んだ。
『みなさーん! 今日は特別ゲストを紹介しまーす!』
「……おい、嫌な予感がするぞ」
『この街を、悪い神様から守ってくれたスーパーヒーロー! 阿武隈探偵事務所の皆さんです!』
スポットライトが、遼司たちに集中する。
「ええっ!?」 「うわぁ! 僕たちだ!」
ケン太がパニックになり、星がドヤ顔でポーズを決める。 八千代は「まあ」と口元を押さえて驚いている。
「……あの野郎、やりやがったな」
遼司は帽子を目深に被り、逃げ出そうとしたが――。
「逃がしませんよ、お義祖父様」
いつの間にか、背後にオーナー・憂が立っていた。 彼女もまた、今日は華やかなドレスに身を包んでいる。
「オーナー!? あんたまで!」
「今日は記念日よ。……この世界を愛してくれた人たちへの、感謝の日。貴方も、その一人でしょう?」
憂は、遼司の背中をポンと押した。
「行ってらっしゃい。……たまには、主役になりなさいな」
遼司は、観衆の波に押し出され、パレードの列に加わることになった。
「局長! 手を振ってください!」 星が促す。
「……ちっ。仕方ねえな」
遼司は観念して、小さく手を挙げた。 すると、沿道から割れんばかりの拍手が巻き起こった。
「ありがとう!」 「探偵さん、ありがとう!」
その声は、遼司の胸に深く染み込んだ。 自分たちが守ったのは、システムやデータだけじゃない。 この人々の「笑顔」だったのだと、改めて実感する。
「……あなた。素敵ですよ」
隣を歩く八千代が、そっと遼司の手を握った。
「……よせ。恥ずかしい」
「ふふっ。……私も、誇らしいです」
パレードは、アトランティア市を一周し、中央広場でフィナーレを迎えた。 空には、第63話で見上げたような、色とりどりの花火が打ち上がる。
「……綺麗だな」
遼司は夜空を見上げた。 哲人、見てるか。 お前が作った世界は、こんなにも賑やかで、温かいぞ。
「……さて。祭りの後は、後片付けだ」
遼司は、はしゃぎ疲れて眠ってしまったケン太を背負った。
「帰ろう、八千代、星。……明日はまた、日常が待ってる」
「はい、局長」 「御意!」
賑やかな広場を後にする三人の影。 その足取りは、祭り囃子の余韻に合わせて、軽やかに弾んでいた。
神様も、英雄も、ただの人も。 みんなが笑って過ごせる場所。 それが、SAGA SAGAという世界なのだ。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




