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【完結済】多分、異世界転生もの。  作者: 久遠 魂録


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猫神様の恩返しと、金のキャットフード

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

「うわぁ……! これ、全部猫ですか!?」

阿武隈探偵事務所の前で、ケン太が悲鳴を上げた。 事務所の周りが、数十匹の猫たちに包囲されていたからだ。 三毛、黒、白、トラ。あらゆる種類の猫が、整列して玄関を見つめている。

「……何かの集会か?」

遼司が窓から覗くと、猫たちは一斉に「ニャー!」と鳴いた。 その声は、威嚇ではなく、何かを訴えるような響きを含んでいた。

「あら。お客様かしら」

八千代がドアを開けると、先頭にいた優雅な黒猫が、スッと中に入ってきた。 その黒猫は、他の猫とは明らかに違うオーラを纏っている。 金色の瞳。しなやかな肢体。 そして、首輪の代わりに「黄金の鈴」をつけていた。

「……久しぶりね、お爺様。それにお婆様」

黒猫が、鈴を転がすような声で喋った。

「……バステト様!?」

星が慌てて正座し、頭を下げる。 家庭の守護神にして、上位の超絶神・バステト。 かつて「正義とロマンの塔」で遼司たちに試練を与えた女神が、なぜこんな所に。

「ふふっ。驚かせてごめんなさいね。今日は、ちょっとした『お礼』に来たの」

バステトは、ソファに飛び乗って優雅に座った。

「お礼?」

「ええ。……貴女が、現実世界から無事に帰ってこられたのは、誰のおかげだと思っているの?」

バステトは、八千代を真っ直ぐに見つめた。

「あの時、貴女の魂が『冥府の門』を潜り抜ける際……少しだけ、私の権能コネを使わせてもらったわ。……家庭を守る妻が、迷子になるなんて許せないからね」

「……そうだったんですか」

八千代は驚き、そして深く頭を下げた。

「ありがとうございます、バステト様。……あの日、暗闇の中で『道しるべ』が見えた気がしました。あれは、貴女だったのですね」

「勘違いしないで。大神様(憂)に頼まれたから、仕方なくやっただけよ」

バステトはツンと顔を背けたが、その尻尾は嬉しそうに揺れていた。

「で、だ。……そのお礼参りに、なんでこんな大群を引き連れてきたんだ?」

遼司が外の猫たちを指差すと、バステトはニヤリと笑った。

「私の眷属たちがね、『伝説の夫婦』を一目見たいってうるさいのよ。……それに、今日はアトランティアで『猫フェス』があるのを知らない?」

「猫フェス?」

「そう。街中の猫(NPC)が集まって、一番の美猫を決めるお祭りよ。……その審査員を、貴方たちにお願いしようと思って」

「……はぁ?」

***

第33区画の公園。 そこは、猫、猫、猫の楽園となっていた。 特設ステージには、着飾った猫たちが並び、観客のNPCたちが黄色い声を上げている。

「エントリーナンバー1番! 第5区画のアイドル、ミケちゃん!」

司会の声と共に、リボンをつけた三毛猫が登場する。

「……俺たちが審査員って、どういう基準で選べばいいんだ?」

審査員席に座らされた遼司は、困惑していた。 隣には八千代、星、ケン太も並んでいる。

「フィーリングですよ、局長! ……私は、あの太っちょな猫推しです!」 星が目を輝かせてメモを取る。

「僕は、あっちの強そうな猫がいいな!」 ケン太も楽しそうだ。

「……まあ、平和でいいか」

遼司が肩の力を抜いた時、会場に不穏な空気が流れた。

「エントリーナンバー99番! ……『野良の帝王』、スエゾー!」

現れたのは、傷だらけの巨大な野良のトラ猫だった。 その目つきは鋭く、他の猫たちを威嚇している。

「シャーッ!!」

スエゾーが吠えると、会場の空気が凍りついた。 可愛らしさの欠片もない。ただの暴力の化身だ。

「……あれは、バグか?」

遼司が身を乗り出すと、右腕のカインが解析した。

『否定。正規のNPCデータですが……情動パラメータが「孤独」と「飢え」に偏っています。……彼は、誰にも愛されず、ただ生き延びるために戦ってきたようです』

スエゾーは、ステージの中央で暴れ始めた。 飾り付けを壊し、他の猫を追い散らす。

「俺を見ろ! 俺が一番強いんだ! ……誰か、俺を褒めろよ!」

言葉にはならないが、その行動は悲痛な叫びだった。 愛されたい。認められたい。 だが、その方法を知らない不器用な魂。

「……やれやれ。手のかかる猫だ」

遼司は審査員席を立ち、ステージへと上がった。

「局長! 危ないですよ!」 星が止めようとするが、遼司は構わず進む。

「グルルルル……!」 スエゾーが遼司を睨みつけ、飛びかかってきた。

ガシッ!

遼司は、スエゾーを受け止めた。 鋭い爪がスーツを引き裂くが、遼司は動じない。

「……痛えな。爪切れよ、この野郎」

遼司は、暴れるスエゾーの首元を掴み、抱き上げた。 そして、その傷だらけの頭を、無骨な手で撫でた。

「頑張ったな。……一人で、よく生き抜いた」

その言葉に、スエゾーの身体が強張った。 威嚇の声が止まり、代わりに「ニャァ……」という、か細い声が漏れる。

「お前は強い。……だが、強さってのは、誰かを傷つけるためのもんじゃねえ。……大切なもんを守るためにあるんだ」

遼司は、ポケットから一缶のキャットフードを取り出した。 バステトが手土産に持ってきた、最高級の「金のキャットフード」だ。

「食え。……腹が減ってちゃ、喧嘩もできねえぞ」

スエゾーは、恐る恐る缶詰に口をつけた。 一口、二口。 そして、ガツガツと貪り食った。 食べながら、その目から涙のようなデータが溢れ出す。

会場から、拍手が湧き起こった。 それは、美しさを称える拍手ではなく、一つの命が救われたことへの祝福だった。

「……ふん。やるじゃない、お爺様」

ステージの袖で見ていたバステトが、満足げに笑った。

「貴方はやっぱり、最強の『飼い主(守護者)』ね」

***

コンテストの結果は、該当者なし(全員優勝)となった。 帰り道、遼司たちの後ろを、満腹になったスエゾーがついてきた。

「……おい。ついてくんなよ」

「ニャー」

「……チッ。仕方ねえな」

遼司は諦めて、スエゾーを抱き上げた。

「ケン太。……事務所の警備員が増えたぞ」

「やったー! よろしくね、スエゾー!」

「まあ。賑やかになりますね」 八千代が微笑む。

夕暮れのアトランティア市。 一行の影に、一匹の猫の影が加わった。 神様のくれたお礼は、金品ではなく、新しい「家族」との出会いだったのだ。

探偵事務所の看板の下。 スエゾーは満足そうに丸くなり、喉をゴロゴロと鳴らし始めた。 その音は、平和な日常を奏でる、最高の子守唄のようだった。


この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

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