片腕の番人と、最悪の援軍
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
「……はぁ、はぁ……」
阿武隈遼司は、駅の改札口にもたれかかっていた。 目の前には、破壊された「システム・ガーディアン」の残骸が山積みになっている。 一体、何体倒しただろうか。十体か、二十体か。
「……しつけえな。暇なのかよ、お前らは」
遼司は、折れかけたタバコ(電子データ)を口に咥えた。 右腕は完全に沈黙している。エネルギー切れだ。 霊子銃の弾も、残り一発。
そして、崩れた天井からは、まだ新たな巨人が降りてこようとしている。
『排除。……排除。……』
無機質な声が響く。 この世界は、どうしても八千代を消したいらしい。
「……させるかよ」
遼司は、左手で霊子銃を構えた。 視界が霞む。 ホムンクルスの身体も限界だ。 だが、心臓だけは、まだ熱く脈打っていた。
「ここを通るなら、俺を倒してから行け。……俺がいる限り、この改札は『準備中』だ」
巨人が腕を振り上げる。 遼司は、最後の一発を撃とうとして――指が動かなかった。 身体が、言うことを聞かない。
(……ここまでか)
遼司が覚悟を決めた、その時。
ドゴォォォォン!!
巨人の頭部に、凄まじい衝撃が走った。 巨人がよろめき、後退する。
「……あ?」
遼司が顔を上げると、瓦礫の山の上に、一つの影が立っていた。 ボロボロのコート。 不吉なオーラを纏った男。
「……予言者、か」
かつて遼司たちと敵対し、世界の削除を目論んだ男。 なぜ、今ここに。
「……見苦しいですね、探偵さん」
予言者は、瓦礫の上から見下ろして言った。
「貴方は、運命を変えると大見得を切った。……そのザマはなんですか」
「……うるせえ。野次馬なら帰れ」
「野次馬? ……いいえ。私は『観客』ですよ」
予言者は、手にした黒い本(複製された予言書)を開いた。
「貴方が書き換えたシナリオ……『つづく』の続きを、私は見届けなければならない。……ここで貴方に死なれては、物語が完結してしまう」
予言者が指を鳴らすと、虚空から無数の「文字」が出現した。 【拒絶】【遮断】【停止】。 それらの文字が、巨人の動きを縛り付ける鎖となる。
「……何の真似だ」
「言ったでしょう。私はこの世界の『免疫』だと。……システムが暴走し、物語を強制終了させようとするなら、それを止めるのもまた私の役目」
予言者は、ニヤリと笑った。
「貸しにしておきますよ。……さあ、立ちなさい! 主役が座り込んでいては、幕が下りない!」
「……へっ。悪役のくせに、いいこと言うじゃねえか」
遼司は、瓦礫を杖にして立ち上がった。 敵だった男が、今は背中を守ってくれている。 皮肉な話だが、悪くない。
「カイン! 起きろ! ……サボってんじゃねえ!」
遼司が右腕を叩くと、カインが微かに応答した。
『……再起動。緊急用予備電源、使用します。……兄さん、本当に人使いが荒いですね』
右腕に、僅かな光が戻る。
「行くぞ、予言者! ……あいつが帰ってくるまで、この『舞台』を持たせるぞ!」
「フン。……仕方ありませんね」
遼司と予言者。 かつての敵同士が並び立つ。 巨人の群れに向かって、二人は同時に駆け出した。
「デバッグ・ショット!」 「因果の鎖!」
光弾と鎖が交錯し、巨人を粉砕する。 泥臭い探偵と、気取った予言者。 凸凹コンビの防衛戦が、崩壊する駅の中で繰り広げられる。
その時。 改札口の向こう、光のトンネルから、微かな「風」が吹いた気がした。
(……八千代?)
遼司は振り返った。 まだ、姿は見えない。 だが、確信があった。 彼女は、今まさに「帰路」についている。
「……急げよ、八千代」
遼司は、迫りくる巨人を殴り飛ばした。
「お前が帰ってきたら……とびきりの『おかえり』を言ってやるからな!」
戦いは続く。 だが、その音はもはや絶望の悲鳴ではない。 希望を繋ぐ、命の鼓動だった。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




