表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】多分、異世界転生もの。  作者: 久遠 魂録


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/102

神々の墓標と、命の欠片

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

第2層、最深部「封印の谷」。

そこは、SAGA SAGAのきらびやかな表層とは対極にある、死と静寂の世界だった。

見渡す限りの荒野。

地面には、朽ち果てた巨大な剣や、半分埋もれた石像の顔――かつて「神」と呼ばれた存在の残骸が、墓標のように突き刺さっている。

「……ひどい場所ですね。神気が腐敗して、淀んでいます」

早乙女星が、顔をしかめて鼻を覆った。

彼女のような清廉な神格を持つ者にとって、この場所の空気は猛毒に等しい。

「無理はするな、星。……ヤバくなったら、すぐに退がれ」

遼司は、右腕カインをかざして周囲を警戒しながら進む。

カインのセンサーが、絶えず警告音を鳴らしている。

『警告。周囲の空間線量、致死レベル。……ここにあるのは、システムに還ることも、消滅することも許されなかった「怨念」のデータです』

「ああ。……だからこそ、ここに『命の欠片』があるんだろ?」

佐伯がタブレットを操作しながら答える。

「はい。怨念が凝縮する過程で、その核となる純粋なエネルギー結晶が生成されます。それが『魂の欠片ソウル・フラグメント』。……いわば、神々の命の燃えカスです」

「燃えカス上等だ。……八千代を照らす灯りになるなら、何だって拾ってやる」

遼司は足早に進んだ。

谷の奥、黒い霧が渦巻く中心部に、微かに青白く輝く光が見える。

あれだ。

だが、墓場を荒らす者を、亡者たちが許すはずもなかった。

ズズズ……。

地面が揺れ、朽ちた石像たちが動き出す。

首のない天使、翼の折れたドラゴン、泥にまみれた英雄。

それらが一斉に、虚ろな眼窩を遼司たちに向けた。

『侵入者……。光ヲ……寄越セ……』

「……チッ。やっぱりタダじゃ通してくれねえか」

遼司は霊子銃レイシガンを抜いた。

「星! 佐伯! 道を開けるぞ!」

「御意! 天秤流・破邪顕正!」

星が神気を纏った斬撃を飛ばし、石像を粉砕する。

「解析完了。敵の弱点は『関節部のデータ結合部』です。座標を送ります!」

佐伯が冷静に指示を出し、遼司の視界にターゲットマーカーを表示させる。

「サンキュー、佐伯!」

遼司は跳躍し、ドラゴンの背中に飛び乗った。

右腕カインの出力を全開にする。

「カイン! ブーストだ!」

『了解。……モード・パイルバンカー』

遼司の右腕が変形し、巨大な杭打ち機のような形状になる。

それをドラゴンの首元に突き立てる。

「眠ってろ! 過去の遺物!」

ズドン!!

衝撃波が走り、ドラゴンの巨体がデータとなって霧散した。

だが、敵は無限に湧いてくる。

倒しても倒しても、泥の中から新たな怨念が這い出してくる。

「キリがありません! 局長、先へ!」

星が複数の敵を引き受けながら叫ぶ。

「頼む!」

遼司は敵陣を突破し、光の中心へと走った。

そこには、黒い水晶の中に封じ込められた、美しく輝く「青い宝石」があった。

魂の欠片だ。

「……見つけたぞ」

遼司が手を伸ばそうとした瞬間。

『……触レルナ』

水晶の番人――全身が黒い炎に包まれた騎士が、音もなく現れた。

その手には、遼司の背丈ほどある大剣が握られている。

『警告。対象、識別不能。……推定ランク「特級」。第1層のボス(ナイ)に匹敵する高密度エネルギー反応です』

カインの声が緊張する。

「……ここが正念場か」

遼司は霊子銃を構えた。

だが、騎士のプレッシャーは圧倒的だ。

一歩でも動けば、その瞬間に首が飛ぶ。

(……力押しじゃ勝てねえ。だが、引くわけにはいかねえんだよ!)

遼司は、懐から一枚の写真を取り出した。

写楽が撮ってくれた、八千代との写真。

その笑顔が、遼司に無限の勇気をくれる。

「どけ。……その石は、俺の嫁に必要なんだ」

『……嫁?』

騎士の動きが、一瞬だけ止まった。

その兜の奥から、くぐもった声が響く。

『我モ……守リタカッタ……。愛スル者ヲ……』

騎士の身体から、悲しげなノイズが溢れ出す。

こいつもまた、何かを守ろうとして、守れずに散った敗者なのか。

「なら、分かるだろ。……男には、引けねえ時があるってことが」

遼司は、霊子銃を捨てた。

そして、丸腰のまま、騎士に向かって歩き出した。

『……兄さん!? 自殺行為です!』

「黙って見てろ、カイン!」

遼司は、騎士の間合いに入った。

騎士が大剣を振り上げる。

だが、振り下ろされない。

遼司は、騎士の胸(と思われる場所)に、自分の右腕を押し当てた。

攻撃ではない。

「共感」のデータを流し込んだのだ。

「……辛かったな。悔しかったな。……でも、もう終わりだ」

遼司は、自分の「後悔の記憶」――30年前に妻を残して死んだ無念――を、騎士に共有した。

「俺もお前と同じだ。……だからこそ、今度こそは守り抜く。その覚悟だけは、誰にも負けねえ」

騎士が震えた。

そして、振り上げていた大剣を、ゆっくりと下ろした。

『……行ケ。……愛ヲ、繋ゲ』

騎士は黒い炎となって消え、後には一本の錆びた剣だけが残った。

彼は、遼司の覚悟に、かつての自分を重ねたのかもしれない。

「……ありがとな」

遼司は水晶を砕き、中から「青い宝石」を取り出した。

それは、氷のように冷たく、けれど確かな脈動を持っていた。

「確保した! 撤収するぞ!」

遼司が叫ぶと、星と佐伯が駆け寄ってきた。

二人ともボロボロだが、無事だ。

「やりましたね、局長!」

「計算外の攻略法でしたが……結果オーライです」

三人は、崩壊を始める封印の谷から、全速力で脱出した。

***

早朝。阿武隈探偵事務所。

遼司たちが帰還すると、八千代はまだ眠っていた。

「……間に合った」

遼司は、眠る八千代の胸元に、持ち帰った「魂の欠片」をそっと置いた。

宝石は溶けるように八千代の身体に吸い込まれ、淡い光となって彼女を包み込んだ。

ドクン。

八千代の顔色が、さっと良くなる。

時折走っていたノイズも消え、呼吸が深くなった。

『確認。対象の存在維持係数、安定域まで回復。……これで、当面の発作は抑えられます』

カインの報告に、遼司はその場に座り込んだ。

泥だらけのスーツ。傷だらけの身体。

だが、その顔には安堵の笑みが浮かんでいた。

「……ん……。局長……?」

八千代が目を覚ました。

彼女は、ボロボロになった遼司を見て、目を丸くした。

「そ、そのお怪我……! まさか、また無茶を……!」

「……へっ。ちょっと現場で転んじまってな」

遼司は、痛む身体を起こして、八千代の頭を撫でた。

「おはよう、八千代。……今日も、いい天気だぞ」

八千代は、自分の身体が以前より軽くなっていることに気づいた。

そして、目の前の夫が、何をしてくれたのかを悟った。

「……馬鹿な人」

八千代は、涙をこぼしながら遼司に抱きついた。

泥の匂い。血の匂い。

そして、何よりも愛おしい、夫の匂い。

「ありがとう。……ありがとうございます、あなた」

「礼には及ばんよ。……さあ、朝飯にしようぜ。腹ペコだ」

探偵事務所に、再び穏やかな朝が戻ってきた。

だが、これは一時的な延命に過ぎないことも、遼司は知っていた。

それでも。

今日という一日を、笑顔で始められるなら、命を懸ける価値はある。

朝日の中で、二人の影が重なり合った。

砂時計の砂は、まだ落ち続けている。

だが、その輝きは、以前よりも強く、美しく見えた。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 ★★★ブクマ・ポイント評価お願い致します!★★★


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ