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【完結済】多分、異世界転生もの。  作者: 久遠 魂録


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51/102

探偵事務所、本日より通常営業開始

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

アトランティア市に、穏やかな朝が戻ってきた。

空の亀裂は綺麗に塞がり、黒い雨の痕跡も、オーナー・憂の「お掃除」によって跡形もなく消え去っている。

「前線cafe SAGA SAGA店」のテラス席。

阿武隈遼司は、湯気の立つコーヒーカップを片手に、新聞(電子ペーパー)を広げていた。

「平和だなあ」

しみじみと呟く。

世界の滅亡をかけた神話的大戦から、まだ数日しか経っていないとは信じられない静けさだ。

「ええ。本当に、嘘みたいです」

向かいの席で、南山八千代がトーストにバターを塗りながら微笑む。

彼女のエプロン姿は、かつて昭和の食卓で見せていたそれと重なり、遼司の心を温かくする。

「お二人とも、朝からラブラブですねぇ」

店員の祈里が、お冷を注ぎながら冷やかす。

「もう、祈里ちゃん。邪魔しちゃダメよ」と、神那がたしなめる。

平和だ。あまりに平和すぎて、逆に背中がムズムズする。

「……で、だ」

遼司はカップを置き、隣の席でたい焼きをかじっている早乙女星を見た。

「星。お前、いつまでここにいるんだ? SGMAの任務は終わったんだぞ」

星はたい焼きの尻尾を飲み込むと、真面目な顔で答えた。

「何をおっしゃいますか、局長。平和ボケは禁物です。それに、私の神としての直感が告げています。『阿武隈探偵事務所には、まだ私が必要だ』と」

「ただ単に、八千代のコーヒーと、ここのスイーツが気に入っただけじゃないのか?」

「……否定はしません」

星は開き直って、二個目のたい焼きに手を伸ばした。

かつての厳格な正義の女神も、この「人間臭い日常」にすっかり毒されてしまったようだ。

カランコロン。

カフェのドアが開き、エプロン姿の憂が顔を出した。

「あら、みなさん。そろそろ『出勤』の時間じゃなくて?」

憂は、壁掛け時計を指差した。針は午前9時を回ろうとしている。

「おっと、いけねえ。今日から『通常営業』だったな」

遼司は慌てて残りのコーヒーを飲み干し、立ち上がった。

帽子を被り、ジャケットの襟を正す。

「行ってきます、オーナー」

「ええ。いってらっしゃい、お爺様たち」

憂に見送られ、三人はカフェを出て、すぐ隣の路地にある「阿武隈探偵事務所」へと向かった。

***

「さて、と」

遼司は、事務所のデスクに座り、パソコン(という名の高性能端末)を起動した。

地下中枢の佐伯とも回線が繋がる。

『おはようございます、局長。本日のシステム稼働率、オールグリーン。敵性反応なし。平和すぎてあくびが出そうです』

佐伯のやる気のない声が響く。

「贅沢言うな。……で、依頼は?」

『来てますよ。山ほど』

佐伯がモニターにリストを表示した。

世界を救った英雄への依頼。さぞかし重大な事件かと思いきや――。

・迷子のサイバーキャットの捜索

・亡くなった祖母のレシピデータの復元

・隣人の騒音トラブル(カラオケの音漏れ)

「……なんだこりゃ。町内会の掲示板か?」

「いいえ、局長。これこそが『探偵』の本分です」

八千代がお茶を出しながら諭す。

「世界の危機を救うのも大事ですが、街の人たちの小さな『困った』を解決するのも、立派な郵便局員……いえ、探偵の仕事ですよ」

「へいへい、分かってますよ」

遼司はリストの一番上、「迷子の猫探し」をタップした。

依頼人は、近所に住む老婦人のNPCだ。

「よし、リハビリには丁度いい。行くぞ、星」

「猫探しですか……。私の『断罪の剣』が泣きそうですが、仕方ありません」

二人が立ち上がった瞬間。

遼司の右腕――かつて弟・カインから託された「最強の義手」が、微かに脈動した。

『検索開始。ターゲット:サイバーキャット(三毛)。アトランティア市内の全監視カメラ映像と照合。……特定完了。現在地、第33区画の公園ベンチ下。推奨ルート表示。所要時間、徒歩で5分12秒』

遼司の視界(HUD)に、赤いナビゲーションラインが浮かび上がった。

冷徹な機械音声が、脳内に直接響く。

(……おいおい、カイン。猫探しに全力出しすぎだろ)

遼司は苦笑いしながら、右腕をさすった。

カインの遺したデータは、遼司の身体能力を強化するだけでなく、超高性能な「演算サポートAI」として機能しているようだ。

ただし、その思考はあくまで「効率至上主義」。

『補足。対象の猫は、空腹係数80%。捕獲には「高級マグロ缶」の使用が、成功率を98%まで引き上げます。コンビニでの購入を推奨』

「……へいへい。お前の言う通りにするよ、優秀な弟分」

遼司は帽子を目深に被り直した。

「八千代、ちょっと出かけてくる。昼飯までには戻る」

「はい。お気をつけて」

事務所のドアを開けると、アトランティアの街は活気に満ちていた。

人々が行き交い、笑い声が響く。

数日前まで、絶望の雨が降っていた場所とは思えない。

「……いい街だ」

遼司は呟いた。

哲人が作り、俺たちが守り、そしてカインが残してくれたこの世界。

「さあ、仕事だ! 迷子の猫ちゃんに、飼い主の『愛』を届けてやるか!」


今日の依頼は、世界平和よりも少しだけ大切な、小さな「再会」の手伝いだった。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

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