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【完結済】多分、異世界転生もの。  作者: 久遠 魂録


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37/102

宛先不明、二通目のラブレター

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

阿武隈探偵事務所の地下。SGMAの中枢は、デバッグ・オペレーション成功の静かな熱気に包まれていた。

ホログラムマップから、先ほどまで激しく点滅していた二つのノイズが完全に消えている。兄と弟のデータは、互いの本心を伝え合った結果、楔の侵食を振り払い、世界(SAGA SAGA)のデータ構造へ「健全な家族」として再統合された。

「成功ですね、局長」

八千代が、遼司にコーヒーカップを差し出す。その手がわずかに震えているのを、遼司は見逃さなかった。

「ああ。手紙は、ちゃんと届いた」

遼司は、ホムンクルスの無表情な顔の下で、生前の感情の残滓を感じていた。彼はただのセキュリティプログラムではない。郵便局員としての「使命」が、このデバッグ作業に魂を吹き込んでいる。

「佐伯、次の宛先は?」

遼司が問うと、佐伯は巨大なホログラムマップを指先で操作した。

情動収束エモーショナル・コンバージェンスポイントは、残り二つです。二番目のターゲットは、こちら」

マップ上に、郊外の古い一軒家がスポット表示された。

「住人データ:母親と娘の二人家族。収束データ分析の結果、前回とは異なる、極めて陰性の高い情動の歪みを確認しました」

佐伯の報告に、星が顔をしかめる。

「陰性?」

「はい。娘の意識が、母親に対して示す『自己犠牲的な愛情』のデータが、異常なほどに肥大化し、収束しています。一方、母親の情動は、『娘への過剰な期待』と『自己実現の失敗の転嫁』という、極めて歪んだ『愛』の定型文に硬直している」

「つまり、娘は母親の理想とする『完璧な娘』を演じ続けることで、自分の本当の存在を消そうとしている、ということか」

遼司が静かに結論付けた。

佐伯は無言で頷いた。

「彼女の情動データは、まるで自ら進んで**『破棄ディスカード』**されようとしているかのようです。ナイの楔は、この歪んだ献身を餌に、純粋な『存在否定』のノイズを流し込んでいます」

八千代が、コーヒーカップをテーブルに置いた。硬質な音が響く。

「局長。この件は、少し時間をかけては如何でしょうか」

遼司は八千代を振り返った。

「何故だ、八千代」

八千代の瞳の奥に、強い懸念が宿っていた。彼女は、遼司が戦うごとに、かつての夫の「情」を深く解放していることを知っている。それは、ホムンクルスというシステムにとって、本来は許されない「バグ」だ。

「局長は、このところ霊子銃レイシガンの扱いが、まるで生身の人間の『情動の爆発』を伴っているように見えます。それは、ホムンクルスのシステムを、生前の局長さんの魂が突き破ろうとしている証拠です」

「それは、ホムンクルスのエラーじゃない。俺は、郵便局員だ。届けるべき手紙が、目の前で引き裂かれて、宛先を失っている。それを見て、黙っているほど、俺は定型文の男じゃない」

遼司の言葉には、転生前の夫・哲信の、家族を守るための決然とした意志が滲んでいた。

「次の宛先は親子。だが、これはラブレターが一方的に引き裂かれている状況だ。二通目の手紙を届けに行くぞ」

遼司は黒いスーツの襟を正した。

「星、佐伯。転送準備だ。八千代、お前はここで待機しろ」

「いいえ、局長」八千代は毅然として首を振る。「今回も、私も参ります。局長が郵便局員なら、私はその隣で、宛先を確認する妻でなければなりません」

遼司は八千代の真摯な眼差しを、しばらく見つめた後、無言で頷いた。

「わかった。だが、深入りはするな。今回の手紙は、前回よりも重い。宛先不明のまま、ゴミ箱(存在否定)に捨てられようとしている」

「転送準備、完了!」佐伯が叫んだ。

次の瞬間、三人を包むSGMA中枢の空間が白く輝き、彼らは郊外の古い一軒家の庭先へと転送された。

家の中からは、完璧に調整されたピアノの音が聞こえてくる。

それは、まるで感情を一切持たないAIが奏でる、美しくも無機質な旋律だった。

遼司は霊子銃を抜き、静かに玄関のドアをノックした。

「宛先不明の荷物(手紙)だ。今から、仕分け(デバッグ)させてもらう」

――彼のディテクターが、家の中から放たれる「娘の魂の叫び」を、確かに捉えていた。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。

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