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【完結済】多分、異世界転生もの。  作者: 久遠 魂録


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28/102

家族とノイズ

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

幾何学的な光が収束すると、遼司、八千代、星の三人は、SAGA SAGAのランドマークである**「正義とロマンの塔」**の広大なエントランスホールに立っていた。

ここは第1層(表層)の領域であり、大理石と真鍮で装飾されたホールは、多くの観光客やNPCで賑わっている。外観はかつて佐賀県庁であった建物を模しており、哲人の「愛と正義の世界」の象徴だった。

「マスター権限による強制転送、完了。しかし、この人混みは…」

八千代が周囲を見回す。人々は皆笑顔で、家族連れや恋人たちが楽しそうに写真を撮っている。平和な日常の風景だ。しかし、この中に「ノイズ(偽装情動データ)」を注入されたNPCが潜んでいる。

星は周囲のNPCに警戒心を露わにした。「ここが、旧支配者が仕掛けた『家族の物語』の舞台ですか。最も清浄であるべき場所に、混沌の悪意が忍び込んでいるとは」

遼司は、腰のホルスターから**魂魄解析機ディテクター**を取り出し、起動させた。

「憂オーナーの指示通り、まずはノイズの検出を行う。目標は最上階の『未来郵便局』。八千代、ルートの確認を」

ディテクターの液晶画面には、周囲の人間から発せられる「情動データ」が数値化されて表示される。大多数は**『安心(0.9)』や『歓喜(0.85)』**といったポジティブな数値で満たされていた。

「局長、塔の最上階へはエレベーターと階段がありますが、エレベーターは現在、団体客専用で停止しています。階段を使用しましょう」八千代が冷静に報告する。

彼らが階段に近づくと、一人の少女が駆け寄ってきた。

「お父さん!お母さん!」

少女は、遼司の目の前にいる八千代にしがみついた。

「どうしたの?迷子?」八千代は優しく頭を撫でようとした。

その瞬間、ディテクターが甲高い警告音を発した。

データ・アラート:偽装情動データ

遼司は即座にディテクターを少女に向ける。液晶画面に映し出された数値は、周囲のNPCとは異質なものだった。


【情動データ/数値=アラート】

①家族愛(偽装):0.99 (最大)=異常検知

②敵意/憎悪:0.82=高反応

③清浄度:0.05=著しい汚染


「八千代、退避!」遼司が叫ぶ。

少女は八千代の腕に抱きつきながら、その可愛らしい笑顔を歪ませた。その瞳の奥に、一瞬、黒い粘液のような**楔(Wedge)**の光が宿る。

「お母さん!どうして私を見てくれないの?私、あなたの娘よ!**『愛の情念』**が足りないわ、足りないわ!」

少女の体から発せられる「家族愛」のデータは、あまりにも純粋で、あまりにも強烈だった。それは、八千代が遼司に抱く愛にも匹敵するほどの高レベルな情動データ。しかし、その根底には、遼司たちをシステムから排除しようとする明確な憎悪が混じっていた。

「これが…偽装された情動データか!」

遼司は霊子銃レイシガンを構えた。旧支配者は、遼司が起動したGrandchild Meshの核である「愛の情念」に対抗するため、最も強力な情動である「家族愛」を偽装データとして使用してきたのだ。

星は冷静に天秤の日本刀を抜いた。「混沌の魔神は、愛を最も効率的な武器として利用しようとしている。彼らの真の目的は、この『家族の絆』を穢すこと」

少女は八千代の腕から離れると、床に散らばっていた観光客たちが持っていたパンフレットや、子供向けのおもちゃを吸収し始めた。

「デバッグしてあげるわ!私の**『家族の物語』**を壊そうとする者には、罰を与えなきゃ!」

吸収された物体は、黒い粘液(楔)で覆われ、みるみるうちに異形の怪物へと姿を変えていく。それは、**「巨大な猫のぬいぐるみ」**のような形をしていたが、複数の目と触手状のケーブルが飛び出し、見る者を混乱させる外見だった。

「くっ...!」

遼司は銃口を向けるが、ホールのNPCたちは異形の姿を見ても、まるでそれが当然であるかのように驚かない。彼らもまた、僅かなノイズによって、現実の認識を歪められているのだ。

「霊子銃、霊子散弾レイシ・ショット!」

遼司はためらわず、異形の巨大な猫型ぬいぐるみに向けて、魂魄をデータ化した弾丸を撃ち込んだ。弾丸が当たった場所から、黒い粘液が蒸発するように消える。

「局長、ここは第1層。騒ぎを大きくすれば、NPCのパニックと**『ノイズの増幅』**を招きます!」八千代が叫んだ。

「わかっている!星隊長、あの異形を階段の踊り場まで誘導できるか?一般NPCへの影響を最小限に抑える!」

「了解!正義の女神の剣は、偽りの愛など断ち切ってみせます!」

星は天秤の日本刀を閃かせ、異形と化した猫型ぬいぐるみの触手を正確に切り裂いた。異形は悲鳴を上げ、ノイズを撒き散らしながら、階段を上るように誘導されていく。

遼司はディテクターを握りしめた。これから向かう「正義とロマンの塔」の各階には、偽装された「家族の物語」が、様々な形で待ち受けているに違いない。彼の戦いは、ただの戦闘ではない。「愛」と「偽りの愛」を見抜く、祖父としての審判の戦いだった。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。

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