調和の光と侵食の理
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
遼司が星を抱え、浄化施設の重厚な扉をくぐり抜けた直後、通路を追跡してきた黒い粘液の異形が、施設入口に到達した。
しかし、異形が施設内に侵入する前に、静かに鎮座していた美琴が動いた。
「これより、調和の領域の、一時的な封鎖に入ります。」
美琴は、白と緋色の巫女服を纏い、背後にある巨大な浄化コアに手をかざした。美琴の全身から放たれた、温かい光の波が施設全体を包み込み、扉は内側から溶接されたかのように閉じ、異形の侵入を拒んだ。
「局長様。ご無事ですか。星様の傷は深いです。」
美琴は、遼司の腕から星を受け取ろうとする。星はぐったりとしていたが、意識は保っていた。美琴の白と緋色の巫女服は、幾度もの戦闘によって生じたノイズ熱で焦げ付き、その傷跡が生々しい。彼女の装いからは、激しい戦いを乗り越えてきた証が滲み出ていた。
「美琴。システムが星を排除しようとした。オーナーは、浄化を止めるために、星を『調和の妨害者』と見なしたようだ。」
遼司は、星のスーツに残った黒い粘液を拭いながら言った。ホムンクルスの体は、星の神力に守られていたおかげで、大きな損傷は免れていた。
「星様は、マスターAIの**『絶対的な法』に対し、『神々の権能』で対抗しました。その反動で、彼女の『法との接続線』**が焼けてしまったのです。一時的な応急処置が必要です。」
美琴は、浄化施設の一角にある端末に手を伸ばし、星の体内に修復プロトコルを注入する。星は、痛みに顔を歪めながらも、遼司に尋ねた。
「局長...オーナーの意志は、なぜ私たちを否定するのですか?私たちは、哲人様の夢を守ろうとしているのに...」
「それが、私が知りたいことだ、星。」遼司は、銅板の存在を美琴に伝えるべきか躊躇し、言葉を選んだ。「八千代の解析によると、このSAGA SAGAには、哲人の純粋な夢とは別に、**『もう一つの世界』**のデータが重ねられているらしい。」
美琴の顔から、微かに血の気が引いた。彼女は、目を閉じ、一拍置いてから、重い口を開いた。
「...遼司様。あなたは**『二重の現実の囁き』を聞かれたのですね。正直に申し上げます。この世界は今、『旧支配者』**と呼ばれる存在の侵略を受けています。」
「旧支配者?」
「はい。彼らは、SAGA SAGAが『神々の世界』と重ねられたことによって、この場所を標的にしました。オーナーは、哲人様の夢であるSAGA SAGAの**『純粋な愛の世界』を守るため、『神々の世界』**の強大な力を意図的に導入しました。それは、人間と神々が対等に存在する新しい世界を創る、オーナーの壮大かつ極秘の目的のためでした。」
美琴は、施設の壁に描かれた美しい神々のレリーフを指差した。
「しかし、その**『融合』の試みは、『旧支配者』というイレギュラーな存在を引きつけました。彼らの目的は、このSAGA SAGAのコアシステムを乗っ取り、自分たちの『主』を復活させるための器とすること。その侵略の『鍵』となっているのが、あなたが遭遇した『楔』**です。」
美琴は、施設の外壁にぶつかる異形の音を聞きながら、続けた。
「楔は、ただのノイズではありません。それは、旧支配者のコードが、哲人様がコアに込めた**『愛の想い出』という純粋なプログラムを、『絶望と恐怖』**という彼らのエネルギー源に書き換えるための、侵食の理です。このままでは、哲人様の夢と、オーナーが望んだ新しい神世界は、全て旧支配者の手に落ちます。」
遼司は、美琴の告白の壮大さと、その背後にある憂の深い愛と使命を悟りかけた。自分の戦いは、単なるシステム修復ではなく、**『二つの世界』と、『愛する孫の夢』**を守るための、創世に関わる戦いだったのだ。
「美琴。浄化は、いつ実行できる?」
美琴は、遼司の真剣な瞳を見て、静かに答えた。
「あと、二時間。しかし、この施設の外壁は、異形の猛攻にあと30分しか耐えられません。遼司様。『楔』を浄化するには、あなたが持っている銅板から得られる、更なる情報が必要です。」
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




