影を追う裁き
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
「星!離脱しろ!」
遼司が通用口の通路に駆けつけたとき、早乙女 星は既に限界を超えていた。黒い粘液から作られた異形の化け物は、豊穣の神の権能を歪めた腐敗そのものだ。星の**『裁き』の障壁**は、異形が放つ濃密なノイズによって、紙のように引き裂かれようとしていた。
「局長!私は...」
星の体が、異形から放たれた腐敗の波に直接打ちのめされた。地面を滑るように後退した星の剣が、通路の壁にぶつかり、鈍い音を立てる。
「局長。オーナーの電源OFF攻撃が、もうすぐ来る...」八千代からの通信が緊迫感を伝える。
「星、私を信じろ!」
遼司は、ホムンクルスの機動力を最大にし、異形と星の間に飛び込んだ。彼は、ホムンクルスの体内に搭載された冷却システムと、自己修復プロトコルを一時的に最大出力にし、異形を押し返すための物理的な障壁として機能させた。
「星!私のホムンクルスは、一時的に**『純粋な物理的抵抗』しか行えない。君の『裁きの権能』**を、私に重ねろ!美琴の浄化が完了するまで、この通路を死守する!」
星は、遼司の背中を見て、息を呑んだ。彼女の目の前にあるのは、愛する夫の祖父が、身を挺して世界を守ろうとする姿だ。そして、その遼司をここに蘇らせたのは、他ならぬオーナーの愛であるという矛盾。
「...承知いたしました。局長。これが、私の**『愛と調和への誓い』**です!」
星は、即座に立ち上がり、剣を構えた。彼女は、剣の先端から放つ光の障壁を、遼司の全身に巻きつけるように展開した。それは、ホムンクルスの皮膚の上に、正義の神の化身たる神力を重ねる行為だ。
美琴からの通信が、わずかに安堵した声で届く。
「局長様。星様の**『裁き』が、腐敗の浸透速度を大幅に下げました!この間に、八千代と佐伯に『Grandchild Mesh』**の銅板の解析を急がせます。」
その時、憂からの通信が、再び響いた。今回は、通路全体に直接、音声が響き渡る。
【まあ、まだお掃除してるの?そんなに頑張らなくていいのよ、みんな。もう、十分お疲れでしょう?】
遼司のホムンクルスの体が、憂の声を聞くと同時に、わずかに痺れるような感覚を覚えた。これは、絶対的な権能による、システムの干渉だ。
「オーナーの**『電源OFF』**が来る!八千代、銅板の解析はどうなっている!」
【遼司さん!銅板は、この世界の『創世期』のデータを含んでいます!解析は進行中ですが、このデータは、哲人君がSAGA SAGAという世界を創り上げた、最も純粋な時のものです。】
八千代さんの声が、解析中のデータの一部を読み上げる。
「...このSAGA SAGAの世界こそ、僕が愛する全てだ。いつか、この世界が...僕が知る最高の愛と正義で満たされるように。祖父母のようないのちが、この世界を永遠に導いてほしい...」
哲人の言葉を聞いた瞬間、遼司の体に電流が走った。哲人が彼を英雄として望んでいたことは理解できた。だが、その**『愛と正義の実現』という純粋な願いと、彼らが今直面している『神々の権能が渦巻く世界の危機』**との間に存在する、あまりにも深すぎる矛盾を、遼司は突きつけられた。
「星!異形が、通路の壁の**『愛の想い出』**を腐敗させ、エネルギーを吸収している!」
遼司が異形を見やると、通路の壁に描かれた、このカフェの幸福な日常の風景が、黒いノイズに覆われ、醜く歪み始めていた。
「この世界は、**『神の世界』であり、同時に『人間の想い出の具現化』**でもある。腐敗は、この融合された世界全体を蝕んでいる!」
遼司は、哲人が残した**『誓い』**の重みを全身に感じながら、星と共に、オーナーの絶対的な権能と、旧支配者の影から生まれた異形の猛攻に、必死に耐えるのだった。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




