パチンコ店での攻防
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
廃墟と化したパチンコ店内部。旧き教団のプレイヤーが持つライフルが、私めがけて火を噴いた。
ドォン!
銃弾は、霊子銃のそれとは比べ物にならない轟音を響かせ、私の立っていた場所のコンクリートの床を抉った。銃弾が触れた場所からは、黒い粘液のような煙が立ち上る。旧支配者の力を込めた、異形の兵装だろう。
【戦闘予測。敵兵装:『深淵のライフル』。装甲貫通率:極大。回避優先。】
ディテクターが警報を鳴らす中、私のホムンクルスの肉体は、既に次弾の射線を予測していた。
私は、右斜め後方へ、迷いなく跳躍した。その動きは、数十年の病床生活を送った老人のものではない。郵便局の窓口で何万という郵便物を瞬時に、正確に仕分けしてきた、極度の集中力と予測能力が、この新しい肉体で『戦闘の正確性』として具現化していた。
ライフルを撃ったプレイヤーは、黒いローブの下から顔を覗かせ、狂信的な笑みを浮かべていた。
「アブクマ!貴様が、我が主の復活を阻むというのか!愚かなるNPCめ!」
(NPCではない。私は、この世界で復活を遂げた、阿武隈 遼司だ。)
感情はないが、私の中の『郵便局員』の魂が、**『不正確な呼称』**に対して、微かな反発を覚えた。
私は、跳躍の勢いを利用し、霊子銃を、プレイヤーの右手に向けた。
パン!
私の一発目は、決して急所を狙わない。相手の武装、もしくは行動力を削ぐことを優先する。
青白い光の弾丸が、プレイヤーのライフルの銃身を正確に直撃した。銃身は根元から折れ曲がり、黒い粘液と共に床に落ちた。プレイヤーは驚愕の叫びを上げ、崩れ落ちた。
「局長!素晴らしい命中精度です!」
その時、後方で日本刀を振るっていた早乙女 **星**の声が響いた。彼女は、残りのNPC三体を一瞬で黒い粒子に変え、私の方へと駆け寄ってきていた。その動きの美しさは、まるで夜空を舞う一筋の流星のようだ。
「あなたには、**『精密性』**のデータが完璧に同期している。その射撃術を、私との連携に組み込みます。」
星。彼女の口調は相変わらず厳格だが、先程までの私に対する不信感は薄れ、作戦への確信に変わっていた。
「私の役割は、あなたの射線を確保し、敵の『不純な行動』……すなわち、任務を妨害する迷いを断ち切ることです。」
星は、残りの二人のプレイヤーを鋭く見つめた。彼らは祭壇に駆け寄り、中央に鎮座する**『巨大な卵状の偶像』**に手をかざし、何事か呪文のようなものを唱え始めた。偶像は、黒い粘液が波打ち、内部から不気味な赤紫色の光を放ち始めている。
「儀式を完了させるつもりだ!あれが起動すれば、この街全体が『混沌』に呑まれる!局長、あなたには、あの祭壇を支えている三つのデジタル・ノードを破壊してもらいます!」
星はそう指示すると、再び刀を構え、私から最も遠い位置にいるプレイヤーへと猛然と突進した。
「裁きの剣!——悪意は許されない!」
彼女の刃は、迷いのない正義そのものだ。それは、彼女が何千年にもわたり、邪悪と戦ってきた『正義の女神の化身』としての経験を物語っている。
その時、私のホムンクルスの思考回路に、八千代さんの通信が割り込んできた。
【緊急情報。佐伯の解析結果。早乙女 星は、かつて彼女が最も信頼していた仲間の神を、任務の失敗により『混沌の深淵』へと見送った過去を持っています。彼女にとって、あなたの『情』や『迷い』は、任務失敗に直結する『恐怖』なのです。】
(彼女は、私を、かつての仲間のようにはさせたくない……)
私が『情』によって判断を誤れば、彼女がまた、大切なものを失うことになる。彼女の厳格すぎる正義感は、彼女が背負った悲劇の歴史から生まれていたのだ。
私は、星の背中を見た。彼女は今、残りのプレイヤーの一人と激しく交戦している。黒いローブのプレイヤーは、刀を避けるために跳躍したが、星は空中で体勢を変え、完璧な軌道で追撃を加えた。
「局長!残りのノードはあなたに任せます!」
彼女が切り開いてくれた射線。祭壇を支える三つのノードは、それぞれが小型の電源ボックスのような形をしている。
私は深呼吸をした。感情はゼロ。心臓の鼓動も、極めて安定している。私の全ては、**『精密性』**のためにある。
一つ目のノードへ、霊子銃の銃口を向けた。
パン!
弾丸は、ノードのロック機構をわずか0.5ミリの誤差で破壊した。ノードから青い火花が散り、機能停止を示す赤ランプが点灯した。
二つ目のノードへ、即座に銃口を移動。プレイヤーたちが焦燥に満ちた叫びを上げているのが聞こえる。
パン!
二つ目のノードも、瞬時に沈黙した。
そして、三つ目。それは、最初に私が倒したライフルのプレイヤーが、負傷した身体で最後の力を振り絞り、肉体を盾にするかのように覆い隠していた。
「やめろ!我が主は、必ず復活する!お前は、この世界の真実を知らぬ!」
プレイヤーは、私を罵倒しながら、必死にノードを守ろうとする。
私は、霊子銃を構えたまま、冷静に問うた。
「お前たちが信じる『真実』とは、何だ。」
「この世界は、醜い神々によって支配された偽りの世界だ!我が主こそが、真の解放者……!」
彼の狂信的な眼差しに、私の心にまた、微かな引っかかりが生じた。私と妻の30年を奪ったのは、誰なのか。本当に神々だけが正義なのか。
その瞬間、星が叫んだ。
「局長!迷わないで!ノードを破壊しなさい!あなたの情は、罪を生む!」
星の声が、私の思考を打ち消した。そうだ、今は、任務の遂行が最優先。彼女の悲劇を繰り返させてはいけない。
私は、プレイヤーの頭部ではなく、彼の身体とノードの間にわずかに開いた数センチの隙間を狙った。
パン!
三発目の弾丸は、プレイヤーの耳元を通り抜け、寸分違わず三つ目のノードを破壊した。
祭壇全体が、激しい光を放った後、急速に沈黙した。中央の『卵状の偶像』は、黒い粘液が乾いた膜となり、機能を停止した。
プレイヤーたちは、力を失い、その場に崩れ落ちた。
「任務完了です、局長。」星は、静かに刀を鞘に収めた。その背後には、黒いローブのプレイヤーたちが、無力化されたまま残っている。
「……ああ、完了した。」
私は霊子銃をホルスターに戻しながら、改めて星を見た。彼女の表情は、達成感よりも、深い疲労に覆われていた。
(星。私は、君の信頼を裏切らない。)
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




