とある誰かの日記
俺の名は、佐藤 正樹。どこにでも居る普通の大学生だ。……いや、今となっては「だった」が正しいかな。ついこの間、食糧確保の為に避難所の人達と探索に出た際、コンビニでノートを見つけたのであまり良い顔されなかったが持ち帰り日記を記すことにした。
もしこの日記を見つけた人が居るなら、そのとき俺は死んでるか少なくとも無事ではないことだろう。だが、この日記を見た君の、役に立つことはこの日記には書かれてないことだろう。
6/7
あの空から響いた謎の声、俺達が『超震災』と呼ぶあの事件から約一月がたった。今日も避難所に数名の人が訪れて来たがこれ以上ここの人口を増やせないと追い返した。そして、その夜『変異』した者を避難所から追い出した。避難所の食料は今のところ問題ないほど備蓄がある、追い出すことはなかったが、俺一人が言ったところで変わらない。『変異』した者を追って避難所を出たものもいたが、もう会うこともないだろう。
6/15
今日は避難所のメンバーと共に食料や薬などの探索に出掛ける。自分の防具や武器の点検をしつつ仲間にも異常が無いか確認をしてもらい避難所の人に見守られながら市街地へ向かう。『超震災』から半月、市街地には変なものが蔓延った。あれが何かは正確にはわからない。黒い、薄いモヤのような煙……不思議なヤツだ。ただわかっているのは、そのモヤに纏わりつかれると死ぬということだけ、一応物をぶつけモヤを散らすことが可能なので探索に致命的というわけではない。足?移動速度もそこまで早くなく、攻撃手段も纏わりつくのと軽いものを浮かしての投擲しかないし、数もそこまで多くなく、避難所に近づく程出現率も減少する。が、そこに油断して命を散らしたメンバーを知ってるため俺達は油断せず探索を行った。結果、今回は避難所の一週間分の水と食糧、医療品の入手に成功した。
6/19
今日は雨が降ったため、探索は中止だそうだ。他のメンバーは強行しようとしたが、ここの避難所のリーダーをしてる忠彦が不測の事態に備えて中止というと大人しく従った。忠彦はよくやってるよ、古くからの知り合いだがアイツはいつも誰かの先頭に立ってる人間だ。そして、いいこともあった、どうやら探索チームの半数に例の『指標』がついに発現した。不思議なことにゲームで言うところの魔法みたいなものの呪文が頭に浮かんだらしく、それを唱えた瞬間、水の矢が勢い良く避難所の壁に放たれ小さな穴が空いていた。他にも武器の強度を増すことができたり、跳躍力?脚力?が強化されたらしく軽くジャンプしただけで、避難所の二階へ飛び乗るほどだ。忠彦に関しても探索チームのメンバーの力を増すことができるらしく、軽く模擬戦をした結果、体の奥底から力が溢れいつもの何倍も増してるのが分かる。結局今日は『指標』の検証をして一日が終わった。
6/23
しばらく続いた雨がやみ探索が再開された。新しい力を手に入れどこか浮足立つメンバーを纏め探索に出る。途中、例のモヤのやつが何体か出現したが今までより楽に簡単に討伐することができた。どうやら新たに『指標』が発現したメンバーがいたらしく、そのメンバーはあの黒いモヤを感知することが可能になったみたいだ。半信半疑ながらも4回、モヤのやつが現れるのを予告したら疑いようがない。これのお陰で今回の探索は何時もより何倍も捗った。今夜の避難所での晩飯が何倍も豪華で避難所の人達もとても喜んでくれた。
6/24
嬉しいことがあった。どうやら俺にも『指標』が発現した。体に薄いガラスのような物を纏うことができ、それを俺や他者に付与することができる。ある程度の強度があるらしく、バットでのフルスイングを2回ほど耐えることができる強度だった。これで、仲間の安全も守れるようになった。次の探索が楽しみだ。
6/25
朝起きたら俺の身体がへ、…変化してた。『変異』だ。まだ、一部だけ……人としての耳が縮み、頭の天辺に獣の耳が生えてきていた。ニット帽を深く被ることで隠していたがいつかバレるだろう。『変異』した者はいつか化け物に変わると言われている。理性をなくし仲間を襲うようになるらしい。俺もいつかそうなるだろう……これがバレればここにはいられなくなる。誰にもこれは話せない……
6/26
また新たに『変異』したものが出た。そいつは少しずつ体が大きくなり始めていたが、始めは『指標』の発現かと思っていたがどうやら違うらしい。たった6歳の子供が2メートルを超えその親も隠せなくなったと白状した。結局、親子は避難所から出ていくこととなった。俺も隠せなくなったら……
6/30
ついに、人間としての耳が消え、獣の耳が頭に生えた。口の犬歯も更に鋭くなり顔にも変化が見え始めた。体には獣の毛が生え始め隠せなくなった。ここ3日前から体調不良ということにして部屋にこもり誰とも合わないようにした。見舞いに探索チームの奴らや忠彦も来てくれた。嬉しかった。嬉しくて悲しくて涙が止まらない。……今夜ここを出るつもりだ。リーダー、忠彦……アイツには話さず行くつもりだ。知り合いがこんな風になったのを知れば、……いや、余計なお世話か。『指標』の、仲間からは薄板の守護と名付けられたこの力があれば、ある程度なら生きていけるだろう。書き置きは残して行かない、この日記がその代わりでいいだろう。忠彦、お前は昔から眩しいやつだ。何時でも、どんなときも率先して先を走る。そんなお前に俺は憧れていたよ。お前の力はきっとこれからも皆を率いていくことになるそんなお前にピッタリな力だ。こんなクソッタレな世界で他者のため……そんな事ができる奴は少ない。お前のその性格はきっと、これからも誰かの助けとなるだろう。俺はここでリタイアらしい。すまない、此れからというときにもう俺は力になれそうにない。いつも迷惑かけたし、馬鹿なことしてとても楽しく、アホみたいに笑うこともあった。でも、いつもお前と、楽しく……さよならだ、親友。生きて……生きてまた会おう。
最後のページは涙で滲みとても読みやすい状態とは言えなかった。ただ……ただ一言。そのページにはある言葉が殴り書かれていた。
ばかやろう
と。