人類
久々に降りてきたリビングで、ナナシと向かい合わせで椅子につく。
「さてさて、世界についての説明ですが、いくつかの項目に関しては説明出来ないんですよね。上の方から情報に鍵を設けられてまして。俗に言うシークレット情報ですね。あ、でもこれからの事に関するならある程度開示できるようになってますね。それより、私にも飲み物はいただけないんですか?」
見た目に反してふてぶてしいなこの妖精。
不貞腐れ頬をふくらませるナナシにため息を吐き、キッチンへ向かう。
生憎と妖精用のコップなどうちには無いので、家にあった人形用の小さな玩具のコップを軽く水洗いし、その中に水道の
「あ、私もジュースが飲みたいです!」
……冷蔵庫を開け林檎ジュースを注ぐ。
コップを目の前に置くと、ナナシは中身をぐぃっと豪快に飲み干す。
「ん〜……やっぱり、量が少ないと味がしませんね。果汁100%って言いますけど、実際は違いますし、しょうがないですよね。まぁ、喉の潤いの為と割り切りましょう」
淹れて貰っといて文句を言うな文句を
「では、突然ですが御主人様。人の……いえ、すべての生物に存在する魂とはどこから来ると思いますか?」
いきなりの質問に少し思考をしてみる。
魂とはそもそもなんだ? 思考すること。生命は考える事を脳で行う、感情も心と例えるがそれは脳から送られた電子的信号に過ぎない。
人格かと言われればそれは今まで生きてきた記憶が形造っているものでしか無い。
なら魂とは一体何を指す。
「おおっと、少し難し過ぎる質問でしたね。ちなみに正解は世界のエネルギーからでした」
「世界のエネルギー?」
「YES。この世界を運用管理する為の言わば力の源みたいな物ですね。世界を維持するだけでもこのエネルギーを消費するので、それを増やす為に其処からほんの少しエネルギーを使って魂が作られました。あなた方の言う寿命とはこの魂の稼働時間を指します」
死とは絶対だ。死んだ者の体をいくら弄ろうと生き返ることは無い。機械の様に壊れた部品を入れ替え新たに動かす事はできない。
魂と言う動力の不足。それはつまり、魂さえ用意出来れば死者の蘇生が可能であると、言外のナナシ入ったに等しい。
だが、今はそのことは置いておこう。
「矛盾してないか? 分け与えてるという事は全体から見れば減っている、分け与えた魂も寿命とともになくなるのなら減る一方だろ」
こちらのセリフに反応して相槌をナナシは打つと、「ところがドッコイ」と大袈裟にリアクションを取る。
「それがそうじゃないんですよ。勿論神々もその事は懸念しました。しかし、生命の本能。生きるというその意思、それらによる感情の起伏によって、魂と同等かそれ以上のエネルギーを生命は作り出していたんです。これを御主人様がたの言葉に直せばオーラ、または生命エネルギーとでも言えばいいでしょうか。これらのエネルギーが、新たに生成され何かを成し遂げたときや感情の昂りなどにより対象の体から切り離され世界のエネルギーへと還元される。偶にいるでしょう? まるで何かが抜け落ちて抜け殻のようになる人が、この人が一生のうちに放つ生命エネルギーの総量は魂を作る際のエネルギーより何倍にもなります。あぁ、勿論御主人様達が死んだ場合も、その時点で所持していた生命エネルギーは世界のエネルギーへと還元され、結果的に分け与えられたエネルギーよりも大量のエネルギーを利子付きで返しているんですよ」
つまり、生きている間は利子を払い、寿命とともに胴元を返してると、金貸しと似たようなシステムか……ならば確かに胴元の金が減らないのと一緒だから、いくらでも魂を作ることができる。
「神々は考えました。どうすればもっとエネルギーを増やせるのかを、感情や本能によってその生命エネルギーが増すのなら、感情が豊かで、わずかの刺激で本能が奮い立ち、よく増える生命を造れば良いと。微生物から爬虫類、哺乳類から霊長類。感情を持ち、僅かな刺激で本能を奮い立たせる事のできる最高傑作の生命体。これが、御主人様達人類の誕生した経緯です」
言葉は無い……いや、何を言えばいいのか分からない。つまり俺達は、世界のエネルギーとやらを増やす為だけの物であり、PCに書いてあった通り糧としなかったのは恩情。そして、これ以上世界のエネルギーを増やす効率的な生命体が造れないからというそんな些細な理由だったわけだ。
「俺たちを糧としなかったのは、本当に神の御慈悲ってか。はっ」
自傷気味に笑う。
気まぐれで生かされた。死にたいと思ったことは無いが、自分の命が誰とも知らない……いや、知らない神様の掌の上だったとは。
「えぇ、ただの気まぐれとほんの少しの慈悲でしょう。と、まぁそんな訳で、人類による世界のエネルギーの増加という神々にとっては重大な問題は達成できたのですが、ここで問題が生じてしまったのです! いいですか? ここからはかなり重要な事ですので是非覚えてくださいね。あ、でもその前にジュースのお替りください」
そんな気の抜けたセリフと共に、コップを突き出したナナシヘ、コップを受け取ると同時に軽くデコピンを飛ばのだった。