第40話「判明した、さらなる事実(4)」
スライによれば、今日の昼過ぎに私がギルドへ出かけた後、ヴィッテはいつも通りお絵かきをして遊びはじめたと。
事態が急変したのは数時間ほど経った頃。スライ2号を通し、ヴィッテとスライは「私が誘拐された」という事実を知った。
部屋の中が散らかっていたのは、その報告を聞いたヴィッテがお絵かき道具を放り投げ、スライだけを掴んで慌てて家を飛び出したからだという。
いきなり掴まれてスラピュータに隠れる余裕もなかったスライは、生身の魔物のままでの移動だった。少し焦ったけど、幸い家の近くにはほとんど人通りが無かったらしい。
まぁこの辺りは街の端で割と寂しいエリアだし、人がほとんどいないのはいつものことだけど。
で、2号からの情報をもとに最短距離で移動した結果、ヴィッテは何とか私の救出に成功したとのこと。
ちなみに2号は無事だって!
予想通りあのどさくさで誘拐犯が連れて行っちゃってたし、スライは今回も「分裂体の消滅は大した意味を持ちません」って鼻で笑ったけど……でもとにかく怪我もしてないみたいで良かったよね。
ひと通り説明を聞き終えたところで、私は首を傾げた。
「……ねぇスライ。『救出に成功した』って言うけど、私、ヴィッテちゃんに助けられた覚え無いよ?」
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>いえ。マキリを救出したのはヴィテッロ様です。
>
>我々は2号経由で、誘拐されたマキリの状況を常時把握していました。
>あの時、マキリは剣で刺殺される寸前でした。仮にヴィテッロ様が間に合っていなければ、マキリは無傷では済まなかったと考えます。
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「いやいや、私が助かったのは、タイミングよく巨大なドラゴンが現れてくれたおかげであって――」
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>そのドラゴンこそ、ヴィテッロ様です。
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「は? スライ、今、なんて――」
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>ですから、ヴィテッロ様の真の御姿こそ、あのドラゴンなのです。
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「……へ?」
思わず固まる私を横目に、スライは淡々と文字を表示していく。
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>我々はマキリの拘束場所への移動を最短距離にて懸命に試みました。
>ですがヴィテッロ様の仮の御姿……つまりヒトの子の御姿では、移動速度に限界があります。
>現場の2号経由で、マキリが剣を向けられた事実を知った直後、ヴィテッロ様は真の御姿へと回帰。
>私をその場に残したまま、ヴィテッロ様単独で飛び去りました。
>
>
>その後、私は複数の分裂体を配置し直しつつ、早急に情報を収集。
>ヴィテッロ様の状況のみならず、マキリが窮地を脱した事、2号が救難要請を発信したヒトがマキリの元に向かった事をはじめ、現状を把握しました。
>
>総合的に状況を鑑みた結果、私は一旦、当住居への単独帰還が最善と判断。
>ヒト共に発見されぬよう慎重に屋根伝いで移動し、つい先程、2階窓より帰還した次第であり――
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「ちょッと待てッ⁈⁈ そ、そりゃまぁ経緯とかも気になるよっ! 気になるっちゃ気になるけどさァ……それよりッ! ヴィッテちゃんの本当の姿がドラゴンってどういうことォ??」
説明を遮られたスライが私を見つめて黙り込む。
ややあって、ぽつんぽつんと語り始めた。
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>……その言葉の通り、です。
>
>分類上、ヴィテッロ様は、魔物に属する存在。
>これまでマキリに見せたのは、ヒトに変化した仮の御姿のみでした。
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「え、魔物って人間に化けれるのッ⁈ じゃあスライも?」
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>いえ。私に変化は不可能です。
>変化スキル【偽装】を習得可能な魔物は、一定以上の魔力を蓄えた存在……つまり高位な魔物に限られます。
>
>私は知能面こそ非常に優れるものの、所詮はスライムに過ぎません。
>スライム族は魔物の中で下位に属しており、保有魔力量は少ない部類です。
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おや? 初耳ワードがぽろぽろ飛び出てきた。
高位の魔物に、保有魔力……なんかよく分かんないけど、魔物の中にも色々いるって解釈しとけば良さげかな、たぶん。
「にしてもさー、ヴィッテちゃんが実は魔物だったとか全然気付かなかったよ!」
そりゃ今になって思い返せば、“そういえば” ってポイントはいくつもある。
分厚いホットケーキを11枚も平らげたり、幼女らしからぬ強さで大型魔物たちを大量ワンパンしまくったり、そもそも人間に恐れられる存在である魔物と一緒に行動してたり……。
だけどヴィッテは、どう見たって人間の子供。
「魔物だ!」って可能性、全く浮かばなかったよねぇ。
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>…………それは、そうでしょう。
>ヴィテッロ様は、真の御姿を……意図的に隠蔽していたのですから。
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「別に隠さなくても良かったのに」
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>……ヴィテッロ様は、恐れていました。
>マキリに、真の御姿を……知られる事を。
>
>いくらマキリが、魔物のスライムを許容する等という、変わった人間であったとしても……ヴィテッロ様の、真の御姿までも許容するとは限りません。
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「いやいや、そんなの言ってみなきゃ分かんないじゃない? そりゃみんながみんな受け入れるとは思えないけどさ」
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>前提として、これまで我々が出会った中で「スライムという存在自体を許容したヒト」は、累計して2名のみ。
>該当者2名を除く全てのヒトは、魔物の姿を視界に捉えるや否や、「排除を目的とした攻撃」もしくは「恐怖による即時の逃走」のいずれかを選択しました。
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「その “魔物を襲ったり怖がったりしなかった2人” って、1人は私で間違いないよねぇ。もう1人は?」
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>現在は行方知れずの『おやつ係』です。
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「あっ、噂の1人目の方だね!」
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>その通りです。
>
>マキリは彼女に酷似しています。
>私を目撃したにも関わらず、攻撃や逃走ではなく、共存を選択した点。
>ヴィテッロ様のために生成する “おやつ” の仕上がり……。
>
>……度重なる偶然の合致に、私は何度も驚愕しました。
>何よりも、おやつ係2名の主張が何度も一致を見せた点は特筆すべきでしょう。
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「へぇ~。私と1人目の方、そんなに似てるんだ」
ヴィッテもスライも、自分たちのことについてはめったに語らない。
だから私は、結構長く一緒だったけど、「どんな風に暮らしてた」とか、「どんな人たちと過ごしてきた」とか、彼らのことをあまり知らない。
まぁいかにもワケありっぽい雰囲気だったから、こちらからは質問しないようにしてたってのもある。
それは『1人目のおやつ係』って人についても例外じゃない。
「ヴィッテの目的は彼女と新居を見つけることだ」ってのは耳にタコができるぐらい聞いたけど、「じゃあ1人目はどんな人なのか」っていう肝心の詳細はほとんど聞いた記憶が無い……というわけで、もし街で偶然1人目の方に出会ったとしても私は気づきようがないとは思う。
スライがこうやってがっつり説明するのも初めてじゃないかな?
作るおやつの味がそっくりなのは、たぶん私の作り方が王道中の王道な定番レシピだからだとは思う。
それ以外も似てるってなると、ちょっと不思議な感じがするけどね!
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>ヴィテッロ様は、マキリと彼女を重ねていました。
>だからこそ、恐れていたのです……。
>
>マキリに、真の御姿を……知られる事を。
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スライの説明は相変わらず回りくどい。
だけど少しずつ、ほんの少しずつ、全体像が見えはじめたような気もしてきた。




