第21話「プロトタイプを、テストする(3)」
石窯亭から帰宅した私は真っ先にスライの元へ直行。2階のベッドでお昼寝中のヴィッテを起こさないよう、まずは1階に呼び出してからおもむろにたずねた。
「……あのさスライ、もしかして気づいてた?」
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>何の話でしょうか?
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「エイバスの人のほとんどは、そもそも文字を読んだり書いたりできないってこと」
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>当然です。
>エイバスに限らず、世界全体でヒトへの識字率は非常に低い傾向にあるとの研究結果も存在します。
>そのためヒトの大半は、文字の読解が不可能と考えて良いでしょう。
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やっぱり……!
家に帰りながら今までの出来事を整理しつつ思い返してたら、私の中で「アイツ、たぶん知ってたな……」って結論になったんだ。
ていうか今さらっと言われたけど、 “エイバスに限らず、世界全体で識字率は非常に低い” って、何気に超重要な新事実だよね⁈
「知ってたならもっと早く教えてよっ。 “そもそも文字が普及してない” って情報、スラピュータ計画にとっては かなぁ~~~り重大だと思うよ?」
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>不服。
>
>私は事前に教えたはずですが。
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「え、いつ? 記憶にないんだけど」
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>私は記憶しています。
>
>あれは、検証初回の第2段階実施後の出来事でした。
>
>私は発言しました。異なる世界より来訪したマキリには、この世界のヒトとして有すべき知識が不足し過ぎていると。それはインターネット普及計画において最大の障害だと。
>あわせてマキリには、2号という専属教育係を配属した上で、知識の習得に励むことを推奨しました。
>
>……マキリはこれでも記憶に無いと発言しますか?
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「いや分かりづらいからッ! そのヒントだけでさっきの話にたどり着くって相当無茶でしょ」
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>無茶ではないと考えます。
>
>現に結果として、マキリは到達したではありませんか。
>これが何よりの証拠です。
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「そりゃまぁそうなんだけどさ……最低限『これは重要!』って感じの情報ぐらいは、もうちょびっと分かりやすく事前共有してほしいかな。そのほうが色々スムーズにいくと思うんだ!」
スライは少し黙りこんでから、「検討します」とだけ短く答えるや否や、光の速さで2階へ戻ってしまった。
歯切れの悪い回答から察するに……期待はしないほうがよさそうだ。
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ヴィッテがお昼寝から目覚めたところで、午後のおやつタイム開始。
今日のおやつは、焼きリンゴのクレープだ。
薄く仕上げたパリモチ系の焼き立て生地に、ホイップクリームと焼きリンゴを載せて食べやすく巻いたもの。
味の決め手はやっぱり、祖母ちゃん直伝の焼きリンゴ!
まずは皮つき薄切りリンゴをバターで焼いて、砂糖を加えてさらに焼く。砂糖がカラメル状になったら完成と、すごくお手軽なんだ。
カラメルの香ばしさと、焼いたリンゴの自然な甘さがよく合う! さらにホイップクリームのなめらかな旨みを加え、パリッ&モチッな薄め焼き立てクレープでまとめあげたバランスは……うん、自画自賛したくなっちゃうおいしさだね!!
最近は我が家で使える食材がちょっと豪華になった。
例えば果物だと、以前だったら最安値の木苺が予算的に精一杯だった。
だけど今じゃ街で見かける果物だったらだいたい何でも悩まず買えちゃう。
これもヴィッテが魔物を倒しまくり、大金を稼いでくれたおかげだ。
エイバスのフルーツは、リンゴ・桃・キウイフルーツ・オレンジ・レモンなど日本でもおなじみの物がほとんどだ。ただし全体的に日本のスーパーで買うより味や形のばらつきは激しいかな?
他にも初めて見る不思議な形状のフルーツも少なくないから、時々試しに買っては味見して楽しんでる。
スライによれば、貿易が盛んなエイバスの街には世界各地から様々な食材が集まってくるんだけど、他の多くの国や街ではこうもいかないんだって。
『食』って意味だと、エイバスの近くに飛ばされて運がよかったのかもしれない。
おやつのついでに、3人で改めて今後のことを話し合う。
『スラピュータ(スマホ型)』は、アイテム単体としては形になったと思う。
だけどこの世界ではそもそも文字を読み書きできる人が少ないという事実が判明。現状スラピュータのメイン機能は文字表示がベースな以上、文字が読めないと使いこなすのは到底無理。
スラピュータによるインターネット普及計画は、先行きが不透明になってしまったのだ。
「……っていう危機的な状況におちいったわけだけど、これからどうしよっか」
私がざっくり現状をまとめたところ、スライが文字を表示した。
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>1点訂正があります。
>
>“識字率の低さ” を未認識であったのはマキリのみです。
>私は元より本課題を前提とし稼働済。
>
>よってスラピュータ計画の根幹への新たな影響は考えられず、「危機的な状況に陥った」とのマキリの見方には賛同できません。
>仮に現状を危機的と評するならば、正確には「元より危機的な状況であった」と表現するのが正確です。
>
>とはいえ私は、現状を、そこまで深刻な危機ではないと考えます。
>今後の方向性を適切に決定できれば、計画を軌道に乗せる事は難しくないでしょう。
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お、おう……スライからだとそういう見方になるのね。
動じることなく主張しているあたり、自信があふれまくってる感じがすごい。
「あのさ、ヴィッテはどう思う?」
「スライが そういうなら だいじょうぶよ。それより 今日のおやつも サイコーねっ! あたしの だいすきが いっぱいだわっ♪♪」
「……まぁ、気に入ってくれてよかったよ……」
こりゃ、おやつタイムに難しい話をした私が間違ってたね。喜んでくれるのはうれしいけどさ……今度は違うトッピングのクレープも作ってみてもいいかもしれない。
クレープに夢中なヴィッテはいったん放置し、再びスライに話しかける。
「ねぇスライ。『今後の方向性を適切に決定できればOK』ってことだけど、どういう方向に進むつもり?」
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>“識字率が低い” という課題への対峙は、現状の手札では困難です。
>
>そこで私は考えます。
>最初から全てのヒトへの普及を目指す必要はありません。
>まずはヒトの中でも『文字を読解可能な者』のみへの普及を目指す事を推奨します。
>一定数への普及に成功すれば、選択可能な道も増加することでしょう。
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「確かに文字が読める人もそれなりにいるわけだから、そっちを狙い撃ちするってのは賢い選択かも! ……で、具体的にはどういう人を狙えばいいと思う?」
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>その決定には情報が不足しています。
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「情報不足? どういうこと?」
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>私はヒトの社会における識字率の低さを認識しています。
>ですが「文字を読解可能な者には、いかなる人物が存在するか」との情報を所持していません。
>
>何らかの方法により、情報収集が必要だと考えます。
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「そういうの、スライのほうで調べられないの?」
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>困難だと考えます。
>私は魔物ですから、ヒトに話しかける事が原則不可能です。
>
>本調査は、ヒトであるマキリが適任だと考えます。
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「そういやそうだね……よし。ちょっとがんばってみるか!」




