プロローグ
「…い…おき….やがれ!」
「ゴフッ!?」
途切れ途切れだった俺の意識を完全に覚醒させたのは、ドスッとお腹に感じた重い衝撃と野太い男の声であった。
「イタイ…..」
まだお腹がジンジンしている。今来ている服を脱げば赤くなっていること間違い無いだろう。
「何するん!………ですか?」
ガツン!と言ってやろうと俺を殴った男を一目見ようと身を起き上がらせると目に入ったのは、デコボコの鱗の生えた、いわばトカゲ人間だった。
「やっと起きやがったか!テメェが最後だぞ!」
「…………最後…とは?」
突っ込みたいところが10個くらいあるが最後という言葉に敏感に反応してしまい、その意味を聞き返す。最後と言われると何か悪いことをしているような気分になるのは日本人の習性だ。
…….あれ?ニホンってなんだっけ?
「あ?起きたのが最後って意味だよ!周り見ろや。」
彼?に促されるまま俺は周囲を見渡す。
「……なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
周囲にはトカゲ人間を除いて三匹?の人外たちがいた。
一人目は顔は完全にライオンなのに体だけ人間というアンバランスな格好をした生物だ。しっぽは蛇なのも特筆すべき点だろう。なんか口から火を吹いてる気がするけどきっと気のせいだ。うん。
二人目は頭に角を生やした人のような生物であった。女性型?の生物のようだがニタァと笑う顔は本で見た地獄の鬼を思い出させる。
三人目の生物はもはや人型ではなかった。
青く、プニプニした座布団サイズの柔らかい物体、つまりスライムであった。ただただ、プルプル震えているだけであったが、そこにはどこか知性を感じさせるものがあるので恐らく生物なのだろう。
「えっと……ここはどこなのですか?貴方達は誰ですか?なんで顔がトカゲなんですか??」
溢れ出てきた疑問を抑えることができず俺はトカゲ人間に質問攻めした。
「…ここがどこだかはしらねぇよ。俺も気がついたらここにいたんだよ。
俺が誰なのかについては覚えてねぇ。てかしらねぇ。多分ここで生まれた。トカゲ顔はほっとけ。」
生まれた?ここで?どう見ても大人サイズだぞこの人。などと思考を張り巡らしていた時、
『……うん、全員目覚めたかな?』
と、無邪気な小さい子供のような声がした。
その声は周りから聞こえてきるものではない。まるで頭の中で直接喋っているような……。
『初めまして!僕はダンジョンを管理する神のような者だよ。そして君たちを創造した存在でもある。』
神?何を言っているんだ?と一瞬そう思ったが、なぜか彼(?)の言葉は嘘ではないと理解してしまう。
なんというか……これが本能というものなのだろうか。
いや……でもありえないぞ?俺は日本生まれの日本育ちで名前は………
あれ?なんだっけ?
「……貴方様が私たちを作った創造主なのは理解しました。
では、私たちは何のために作られたのでしょうか?」
俺が動揺している間にライオン顔の男が意外にも礼儀正しくその声の持ち主に問うた。
『うん、その疑問は想定内だよ。質問に答えるとすると、まず“僕の世界“について説明しなきゃね。』
自称神がそう言うと俺たちの目の前に画面が‘あらわれた。
そこに写っていたのは鮮やかな緑に覆われたあたり一面の草原、少しの汚れもない蒼海。
そう、そこにはあるべき自然の姿があった。
『そして、次はこれを見てほしい。』
そういうと画面が一瞬にして全く違うものへと変わった。
画面に映ったのはマグマが溢れ出て、今にも噴火しそうな火山、
紙面の穴から噴き出す紫色のガス。おそらく有害なのであろう。
周りにはたくさんの動物たちの死骸がある。
『これはね、何も考えずに魔法を使いまくった現地の人類のせいだよ。』
人類の……せい?
『人類たちは何も考えずにあちこちで魔法を使って強力な魔物を倒していった。でもね、そのせいで世界中に幅広く広がる魔素が減ってしまった。それだけならいいんだけど…..』
そういって彼は声に悲しそうな感情を示しながら続きを語る。
『本来ならその事態を解消するのは世界各地にばらけて配置された魔物なんだ。彼らが吐く息には大量の魔素が含まれている。だけど調子に乗って人類が魔物を絶滅寸前まで追い込んでしまった。そのせいで補われるはずだった魔素が枯渇し世界各地に影響を及ぼしている。』
今の調子なら十年以内に世界は滅びるだろうと彼は語る。
『そこで君たちの出番だ。』
彼はより一層声を大きく、力強く言う。
『君たちには力をあげる。魔物を生み出すという能力を。その力を使って君たちにはダンジョンという建物を運営してほしい。』
話はようやく本題へと突入するようだ。
『人類にはもうお告げを出している。今から一年以内にダンジョンという遺跡が出現しそこの最下層に世界を侵略させんがための魔物を配置したと。』
なるほど…..少しづつ分かって来た。
『僕はね、別に世界が滅びてもいいと思っているのさ。』
そう語る彼の声色には諦めの感情と少しの呆れの感情が込められていた。
『だから、これは勝負だよ。君たち魔物が世界を支配して救うか、はたまた人類が全ての魔物を滅亡させ、世界を滅ぼすか。』
誰かを揶揄うような無邪気な声で彼は世界の命運を俺たちに託したのだ。
『…….説明は以上かな?…じゃあ時間もないし転送するね。』
彼が言い終えた途端俺たちの足元に摩訶不思議な魔法陣が展開された。
『頑張ってね…我が最愛の子よ。』
最後に聞こえた声はどこか威厳を感じさせるもので彼の真剣さを表していた。
『さぁ、始めようか……姉さん。』