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83:贈り物探し

 お義姉様たちに励まされて、私は翌日からラルクへの贈り物探しを始めた。

 ラルクの用事が何なのかは分からないけれど、連日どこかへ出掛けているからちょうど良かったわ。


 お義姉様たちも一緒に探すと言ってくれたけれど、それは断った。

 ラルクは冒険者だから、贈り物に丁度いいのは貴族街ではなく平民街にあると思うの。貴族用の品は装飾の凝った物が多いから、普段使いには難しいと思ったのよね。


 私一人で平民街へ出掛けてくると言うと、お母様から馬車を使うよう言い渡された。ラルクと歩いて屋敷まで来たし、見間違いさえしなければ同じ道を歩いて行き来出来ると話したのだけれど、また迷子になったら困るからって言われたのよ。

 正直考え過ぎだと思うけれど、半年前に東西を間違えて隣国へ行ってしまったし、心配させたのは悪かったと思うから渋々ながらも頷いたわ。


 行きは家の馬車で平民街へ向かって、帰りは辻馬車を拾って屋敷へ戻る事にする。

 平民街は道も入り組んでいてとても迷いやすいけれど、おかげでどうにか毎日ちゃんと帰宅出来ているのよ。決して方向音痴ではないと思うけれど、何も悩まなくても座ってるだけで目的地へ運んでくれる馬車は便利だと改めて思ったわ。


 そうして毎日のように町へ下りてプレゼントを探したけれど、何を贈ればいいのか悩んでしまってなかなか決められなかった。

 お母様は家のお金を使ってもいいと言ってくれたけれど、私が贈るのだから、自分の稼いだお金で用意したいのよ。殿下から頂いた指名依頼の報酬はかなりの額だったから、懐も潤っていたしね。


 でもお父様からお許しが出たら、今後も冒険者として活動していくわけで、それなりに資金は残しておきたい。中義姉様は魔道具や武器防具と言ったけれど、特級冒険者に相応しい品となると値の張るものばかりだ。

 かといって他に贈り物といっても、ラルクがどんな物を好むのかが分からない。よく考えてみれば、私はラルクの趣味すら知らないのだと愕然としたわ。


 仕方ないから料理に使えそうな物でもどうかと思って、料理人がよく行くお店にも足を運んでみた。

 油がなくてもくっ付かずに焼けるフライパンや、水無しで調理出来る鍋、珍しい調味料なども王都にはあったけれど、どれも決定打に欠けるのよね。便利にはなるだろうけれどあまりに実用的過ぎるから、それを贈っても女性として意識してもらえるのだろうかと疑問に感じてしまった。


 そんなわけでたくさんの店を回ってもなかなか決められなかったけれど、買い物に出掛けて四日目にしてようやく納得出来る品を見つける事が出来た。

 私が選んだのは、最近出来たばかりだという小さな輸入雑貨店にあった一見すると綺麗なだけの髪紐だ。

 海の向こうにあるセルバ国から輸入した品だというそれには、実は特殊な魔法陣が編み込まれていて、危険が迫った時に防護結界を張ってくれるらしい。町の女性たちに人気のようで、店の前には行列まで出来ていた。


 というのも、この髪紐はただの護身用ではなかったの。使用者の無事を願って魔力を込めると、いざと言う時にはそれに応じた強さの防護結界が現れるという品なのよ。

 魔道具とはいえ髪紐だし、魔力は自分で込めなければならないからお値段も比較的お手頃だ。髪紐なら普段使い出来るからと、恋人や家族、友人同士で贈り合うのが流行っているらしい。相手を思う気持ちの代わりに魔力を込めるというのが、魅力的だったみたいね。


 ケンカに巻き込まれたり、不意の転倒時に怪我をしないようにと贈り合うらしいけれど、冒険者の私たちにとっては背後からの攻撃を防いでもらえるという優れ物になる。

 セルバ国はラルクが爵位を持つ国だから、きっと知っているんじゃないかと思ったけれど、店主の話によるとセルバ国でも最近になって新しく作られ始めた品だそうから安心だ。


 これならラルクにプレゼントするには丁度いいわよね。私の魔力ならかなり強力な防護結界になると思うし、こっそり色違いで自分用も買えばお揃いになるもの。

 そんな下心もありつつ、ラルク用にと選んだ黒地に深い紅色でさり気なく模様の入った髪紐を綺麗な箱に入れて包んでもらう。自分用に選んだのは、白地に金糸で模様の入った髪紐だ。

 こっそり互いの瞳の色が入った物を選んでしまったけれど、ラルクは受け取ってくれるかしら。防具になると話せば、自然と渡せるはずよね。


 ソワソワした気持ちで辻馬車に乗り込み、屋敷へ帰りつつしっかりと二つの髪紐に魔力を込めた。

 心臓破りの坂は人だけでなく馬にも辛いと思うから、私はいつも坂の手前で馬車を降りている。今日も同じように辻馬車を下りて、ついつい頬を緩めながら急な坂を上っていく。


 けれどこの日はいつもと違って、坂の途中に見慣れない馬車が立ち往生しているのが見えた。

 道を間違えて、馬が疲れてしまったのかしら? 不思議に思いつつ近づいていったけれど、その車体に描かれた家紋を目にして無視を決め込んだ。


「おい、待て! エルメリーゼ!」


 気付かぬふりで横を通り抜けようとしたけれど、唐突に馬車の扉が開いた。

 下りてきたのは、全く会いたくなかったイルネオだった。

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