82:女傑たちとのお茶会
お待たせしました!
昨日は急遽お休みしてごめんなさい!
久しぶりに帰宅した日の晩餐の席では、お母様からこの半年どう過ごしていたのかを根掘り葉掘り聞かれた。
よほどラルクを気に入ったのか、いきなり「馴れ初めは?」なんて聞かれたから、私は危うく噴き出しそうになったし、ラルクはものすごく微妙な顔をしていたけれど、どうにか夜は乗り切ったわ。
けれどこれで終わりにはならなかった。翌日、ラルクは話していた通りにどこかへ出掛けて行ったのだけれど、私はお兄様の奥様たちに捕まってしまったの。
我が家の庭は訓練場のようになってるので、お茶会には到底向いていない。でも屋敷は急傾斜地にあるから、サロンの窓から見える王都の景色は素晴らしい眺めなのよね。
そんな我が家で唯一貴族らしいと言えるサロンへ、私は大兄様の奥様と中兄様の奥様、そしてお母様に呼び出された。
私たちはお茶とお菓子の乗ったテーブルを囲んでいるけれど、室内には生後二ヶ月になったばかりの大兄様の息子を連れた乳母もいた。
大兄様が討伐で留守にしている今、生まれたばかりの息子の顔見せも兼ねて、大義姉様は一時的にご実家へ泊まりに行っていたみたいだけれど、普段は後継である大兄様一家もこの屋敷で暮らしている。
大兄様夫妻は政略結婚だけれど、幼い頃から婚約者として交流し続けた結果、相思相愛の間柄なのよね。元は伯爵令嬢だった大義姉様にとって、この屋敷はあまりに無骨で面白味のない家だろうけれど、不満なんて全く見せずに大兄様を支えてくれているとても素晴らしい女性だった。
討伐が無事に終わった事と、私が一足先に帰ってきた事を知って、大義姉様は今朝、息子と乳母を連れて屋敷へ帰ってきてくれた。前から私を可愛がってくれたけれど、突然消えた私の帰宅を喜んでくれて有り難かった。
小さな甥に会えたのも嬉しいわ。まだ首も座っていないのに、ニコニコ笑っていてとても可愛らしいの。
中兄様は結婚後、別な家に独立して住んでいるから、中兄様の奥様だけは今日わざわざ訪ねてきてくれた。
中兄様夫妻は、中義姉様から猛アタックした恋愛結婚だ。侯爵令嬢時代、魔物に襲われそうになった所を中兄様が助けたそうで、中義姉様は一目惚れしたと聞いている。
後継でもない騎士の元へ嫁に出すのは侯爵家も渋ったし、中兄様も自分で良いのかとかなり葛藤していたのは私も覚えている。
けれど中義姉様は諦めなかった。貴族の誰もが嫌がるあの階段を物ともせず、中義姉様は我が家を何度も訪ねて中兄様を口説き落とし、ご実家も説得したの。
だから今日も私が帰ってきたと聞いて、中義姉様はドレス姿にも関わらず階段を駆け上がりやって来てくれた。
集まっているのはこんな気骨ある女性たちだから、当然私が逃げられるはずもなく。ラルクのいない中、私は昨夜以上に何もかも洗いざらい喋らされた。
「すごいわね。冒険者ってそんなこともしてるのね」
「あー、うー」
「ふふ。あの子もすごいって言ってるわ。でもそのラルクスさんに、私もお会いしたかったわ。お義母様、どんな方でしたの?」
「すごく良い男だったよ。あれはかなり強いね」
ちなみにお父様とお母様も政略結婚だけれど、女騎士でもあったお母様は強い男が大好きで、お父様とも相思相愛であり同志のような関係だ。
でもね、お母様。お義姉様方は、ラルクの強さを知りたいわけじゃないと思うの。
「エルメリーゼはどう思ってるの? 強さはお義母様のお墨付きのようだけれど」
「とても綺麗な人よ。筋肉ももちろんだけれど、顔も芸術品みたいに整っているの。あまり人を寄せ付けなくて素っ気ない所もあるけれど、悪い人ではないし。むしろ優しい所もあって、たくさん助けてもらったわ」
案の定、困惑した様子のお二人から話を向けられたから正直に答える。私たちは屋敷にしばらく滞在するのだから、中義姉様はともかく大義姉様はいずれラルクと会うはずだもの。それが今夜か明日かは分からないけれど。
するとお義姉様方は、キラキラと目を輝かせた。
「まあ、そうなのね! あなたがそこまで褒めるということは、かなり素敵な方なのね」
「そんな素敵な人と二人きりで旅をしていたのでしょう? 特別な気持ちを持ったりはしていないの?」
「それは……」
「今はラルクスもいないんだ。いい加減、正直な気持ちを話しなよ。あんなに楽しそうな笑顔をお前が出すのは、本当に久しぶりに見たんだ。私の目は誤魔化せないよ」
これはさすがにどう答えるか迷ってしまう。でもお母様にまで改めて問い質されて、結局本音を話すしか出来なかった。
「好きだけど、好みがわからない、ねえ」
「子どもと思われていて、女性と見られていないって? 私が見た感じ、そこまで脈がないようにも見えなかったが……。私もあまり恋愛には詳しくないからな」
この半年の話から、いつの間にか私の恋愛相談になっていて。どうにも気恥ずかしくて俯いてしまう。
大義姉様とお母様が考え込んでいる中、中義姉様がニコッと笑った。
「やっぱりそれは、押して押して押しまくるべきよ。エルメリーゼ!」
「押しまくるって……どうやって?」
「まずはプレゼントよ! 胃袋から掴むのが定石だけれど、胃袋を掴まれてるのはむしろあなたのようだし。腕利きの冒険者相手じゃ何でも持ってるかもしれないけれど、この国には素敵な魔道具も強力な武器防具もたくさんあるわ! 他では手に入らない物を贈って、興味を引くの。意識してもらえるようになったら、お洒落して告白するのよ! これで完璧だわ!」
「こ、告白⁉︎」
確かにいつかは言わなければ始まらないと思うけれど、中義姉様のあまりのやる気に気後れしてしまう。恋を叶えた中義姉様の提案だから、きっと上手くいくのだろうけれど、告白なんて恥ずかしくてとても出来る気がしないわ。
けれど大義姉様も、乗り気な様子で頷いた。
「お洒落なら私に任せてちょうだい。その冒険者の服も可愛らしいけれど、だいぶ傷んでるみたいだし。もっと良い物を用意してあげるわ。もちろん、冒険者として使える物でね」
「でも、お父様のお話がどうなるのかも分からないし」
そう、お父様のお話次第では、私はラルクと一緒にいられないかもしれないのよ。冒険者を続ける事を反対されるかもしれないし、次の縁談を言い渡されるかもしれない。
応援してもらえるのは嬉しいけれど、それを考えると震えが走る。
するとお母様が、安心させるように微笑んだ。
「ガドリルのことなら気にしなくて大丈夫さ。あいつも今回の件ではかなり悩んでいたから、無理強いはしないはずだ。それにもし何か言われたとしても、私が守るから」
「お母様……」
「もうお前は充分苦労した。これからは好きに生きて良いはずだよ」
お母様の優しい言葉に、思わず涙が滲んだ。お母様は立ち上がり、私をギュッと抱きしめてくれた。
こうしてお母様の胸に抱いてもらえるのは、何年ぶりだろう。いずれ公爵家に嫁ぐからとずっと気を張って自分を律してきたのに、自由になってからは感情の蓋が外れたままな気がする。
けれど不安に涙を流す私をお母様もお義姉様方も優しい目で見守ってくれて、「エルメリーゼなら大丈夫」と励ましてくれた。家族の温もりを感じて、帰ってきて良かったと心から思えた。




