79:ずっと一緒にいたい
本日、メインタイトルの後半を変更しましたが、お話の内容は全く変わりありませんので、どうぞよろしくお願いします!
ギルドで達成報告をすると、ラルクの言っていた通り本当に私は二級になった。昇格に必要な指名依頼達成数は規定より圧倒的に足りないはずだけれど、王家や政府からの指名依頼は特別なものだったらしい。
ギルド貢献度の方は充分過ぎるほど溜まっていたという事で、当然の二級昇格だとラルクだけでなくギルド職員からも言われた。
「フルムに帰ったら、みんな驚くかしら。私が二級になってて」
手続きに少し時間がかかると言われたから、今はギルドの二階でラルクとお茶を飲んでいる。城から結構な距離を歩いてきたから、一息つけてちょうど良かったわ。
運ばれてきたお茶を飲みつつ、つい口元を緩めて呟くと、ラルクは呆れた様子でため息を漏らした。
「わざわざ言いふらす気なのか?」
「そういうわけじゃないけれど、次は一級を目指すんだもの。ウルたちには分かっちゃうでしょう?」
一級に昇格するためには、二級の時以上にギルド貢献度も指名依頼も積み重ねなくてはならない。何年かかるか分からないけれど、絶対に叶えるつもりよ。
そう決意を固めていると、ラルクがふと視線を落とした。
「まあ、あいつらも一級を目指してるからな。いっそ協力することも出来るんじゃないか」
ラルクは淡々と話しているけれど、その目はどこか切なげだ。どうしてそんなに寂しそうな顔をしてるのかしら?
もしかして、本当に私をここに置いて一人で帰ろうとしているとか? 実はお父様が私に残るよう言うつもりだってラルクは知っていて、ウルたちにはもう会えないのにって同情されたりしているの?
お父様とラルクがどんな関係なのか、お父様の考えがどんなもので、それをラルクがどこまで知ってるのか。何一つ分からないから、何だか怖い。
でもそれを問い質しても、お父様が話すまではきっと教えてはもらえないだろうから。今はただ何も気付いてない顔をするしかない。
「そうね。協力というよりライバルになることもあるかもしれないけれど」
「ライバル? なぜだ?」
「だって私たちと依頼の取り合いになるかもしれないじゃない」
「取り合いって……。あいつらとパーティを組めばそうはならないだろう?」
ラルクはなぜか苦しげに言っているから、やっぱり何かあるんじゃないかしら。私と離れなければならない、何かが。
それが何かは分からないけれど、きっとラルクも本当は私とパートナーで居続けたいと思ってくれてるのだと思う。そうでなければ、こんな苦しそうに言わないはずだもの。
もしかしたら私がそう思いたいだけで、勘違いなのかもしれないけれど。それでも私はラルクとのパートナー関係を解消する気はないと、ちゃんと伝えておきたい。
「それはそうだけれど、私の目標は一級で終わりじゃないもの。一時的に組む事はあっても、ウルたちとずっと一緒にいるつもりはないわ」
「は? なら、お前は何を目指してるんだ?」
「決まってるでしょう? 特級冒険者よ」
「……はぁ⁉︎」
ラルクは唖然とした様子で目を見開いている。そんなに驚く事ないじゃない、失礼ね。
「何よ、私には無理って言いたいの⁉︎」
「いや、そういうわけじゃないが……。お前、意味分かってるのか?」
「分かってるわよ。だからこそ言ってるの!」
一番最初は、ただ対抗意識を燃やしてラルクと同じぐらい強くなりたかった。でも今の私はラルクの隣で戦えるようになって、背中を任せてもらえるようにもなっている。
だから次に望むのは、どこにだってラルクと一緒に行けるようになる事なのよ。だって好きなんだもの。一時だってラルクと離れたくない。
「今回みたいにラルクに指名が来る度に、拠点変更するのは面倒でしょう? でも私も特級になったら、どの国にだって冒険者として行けるわ。それにパートナーのあなたとランクが違うのは悔しいもの。だから協力しなさいよね」
好きだ、なんて正直な気持ちはまだまだ言えない。でもだからこそ、ラルクと一緒に戦えるこの立ち位置は誰にも渡したくない。
パートナーとして、と強調して言うと、ラルクは重い表情を一転させてフッと笑った。
「大変だぞ、特級になるには。複数の国で功績を上げなきゃならないんだからな」
「望むところよ。それにそう難しいことじゃないと思うの。アルターレで一つ実績は稼いだわけだし、あとはクラーロで活躍すればいいんだもの。クラーロ国内も色々見て回りたかったし、ちょうどいいわ」
「そこまでやりたいなら、まあ付き合ってやるさ。出来る限りな」
「そのうちあなたより有名になってやるんだから。覚悟しなさいよね」
「へえ。そりゃ楽しみにさせてもらうよ」
これできっとラルクは、私を置いて一人でフルムに帰ろうなんて思わないはずよね? 付き合ってくれるって、言質は取ったんだから。
内心でホッとしつつニッコリと笑みを浮かべると、ラルクは揶揄うような言葉に反して穏やかに目を細めていた。
そうこうしているうちに無事に手続きも終わる事が出来た。ギルドでやるべき事はやれたし、早速次の依頼を受けたい気持ちはあるけれど、まずは家に顔を出すべきよね。お母様も心配しているだろうし。
そう思ってギルドを出たけれど、困ったわ。やっぱり屋敷への行き方が分からない。
一度上空から道を確認するか、いっそそのまま飛んで行くか。そんな事を考えていたら、ラルクが振り向いた。
「何してるんだ、さっさと行くぞ」
「あの、それなんだけどね、ラルク」
「道なら俺が分かるから、ついて来い」
え? どうしてラルクが屋敷の場所を知ってるの?




