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65:拗らせエルフとギルド長(ラルクス視点)

投稿時間遅くなりました。ごめんなさい!

ついでに今話は長めです。


 行商の護衛を終えて久しぶりにフルムの町へ戻ると、ちょうどリュメールもダンジョンの異変調査を終えて帰ってきた所だった。

 寝不足続きだったらしいエルは、指名依頼達成の手続きを終えるとすぐに宿へ寝に帰った。あの様子なら、きっと明日も一日寝て過ごすだろう。次の仕事は二、三日後からになりそうだ。


 時間があるのは俺としても丁度いい。帰還直後のリュメールは何かと忙しそうにしているが、早いうちにダンジョンの調査結果を聞きたいし、俺から伝えておきたい事もある。

 早速、職員経由でリュメールに約束を取り付け、翌朝改めて冒険者ギルドを訪ねた。


「せっかちな坊やだね。こっちはダンジョン帰りだっていうのに、休みをくれようって気にはならないのかい」

「あんたのことだ。どうせ大して疲れてもいないだろう?それに休みなしなのは俺だって同じだ」

「町のことを頼んだっていうのに、出かけてたらしいね。全く、何もないから良かったものの」

「飛べばすぐの距離だからな。そう目くじらを立てるなよ」


 俺がギルド長室のソファに腰を下ろすと、リュメールは文句を言いながらも慣れた手つきで紅茶を淹れた。久しぶりに口にした懐かしい味わいに、思わずホッと息が漏れた。


「まあ、早く話したいのは私も同じだから、助かったけれどね」


 リュメールは俺の向かいに腰を下ろすと、テーブルの上に黒く染められたガラスの破片のような物を出した。触れずとも分かる禍々しい気配に、自然と眉が寄る。


「いきなり出すなよ。せっかくの茶が不味くなる」

「面倒な話は早く終わらせるに限るからね。少しは我慢しな」

「で? これを最下層で見つけたわけか」

「分かってたなら、坊やが見つけて来てくれたら良かったろうに」

「あの時はウルたちが怪我をしていて動けなかったからな。人命救助が第一だろう?」

「そういえばそうだったね……。まあ、とにかくこれで、この異変はアレの仕業だってことが確定だよ。最下層からの出口も、きっとアレが作ったんだろう」

「証拠はそれだけじゃないさ。俺も見せたいものがあるって言っただろう?」


 俺は言いながら、リュメールの出した破片の隣に、薄墨色に染まった宝珠(オーブ)を出した。これは、今回の護衛任務の途中で倒したスピトルガの体内にあった物だ。赤児の頭部ほどの大きさのそれは、一見すると中身をくり抜いた水晶玉のようにも見える。

 だがこれがどれだけ危険なものなのか、リュメールは嫌というほど知っている。案の定、険しく顔を歪めたものの、傷一つない完璧な状態だと見て取ると口角を上げた。


「よくまあ、こんな綺麗なものを見つけたね。どこで拾ったんだい?」

「エルがうまく足止めしてくれたおかげだ。討伐報告は見ただろう?」

「森で見つけた巨大なスピトルガか……。とすると、半年前にエルが黒焦げにしたのも?」

「たぶんそうだろうな」


 魔物の巨大化とダンジョンの異変。これらは、百年前にも経験した事だ。その原因を探り突き止めた結果、俺とリュメールは最愛をそれぞれ亡くした。

 それ以降、俺とリュメールは二度と同じ事が起きないよう各地を巡り、これを引き起こした()()を追い続けている。

 それが俺たちに託された最愛の最期の願いであり、復讐であり、絶望の中で生き続ける理由でもあった。


「どうだ? これなら使えそうか?」

「やってみないと分からないけれどね。可能性は充分にある。エルはお手柄だね」

「エルが黒焦げにしなけりゃ、半年前には手に入ってたかもしれないがな」


 リュメールが見つけた欠片は、俺たちが闇のオーブと呼んでいるものの成れの果てだ。そして俺が見つけた薄墨色のオーブは、その闇のオーブの前段階となる。

 今、俺たちに分かっているのは、百年前の元凶が、何らかの目的で闇のオーブを魔物やダンジョンに埋め込んでいるという事だけだ。その目的をハッキリさせ、元凶を先回りして追い詰めるためにも、オーブそのものを調べる必要があった。


 とはいえ、これでまた一歩進める。これまでは、元凶の目撃情報を元に世界中を転々としてきたが、百年前に負わせた傷が大きかったのか動きが鈍かった。

 たった半年で三回も動くなら、もうその傷もだいぶ良くなったという事だろう。決着をつけられる日も近いかもしれない。


「これで坊やの仕事は終わりだね。そろそろ好きに動いてもいいんじゃないのかい?」

「何の話だ?」

「コレのことは、あとは私に任せなって言ってるんだよ」


 リュメールは一通り薄墨色のオーブを眺めると、収納魔法でしまい込んだ。雑談のように落とされた言葉に、俺は思わず眉根を寄せた。


「何を言っている。俺は降りる気はない」

「あの子は見つかったんだ。もう坊やが背負う必要はないだろう?」

「あいつとエルは違うと言ってるだろうが。代わりになんてならないんだよ」

「まだそんなことを言うのかい。あの子の気持ちが変わってることは、坊やも気付いてるんだろう? 無視する気なのかい?」


 行商の護衛をする中で、エルが俺を見る目が変わっていくのには気付いていた。それが嬉しくもあったが、同時にこれ以上変わらないでくれとも願っていた。

 だがそれも結局は叶わなかった。きっかけはたぶん、最後の村の村長の娘だ。あの女のせいで、エルは無意識に抱いていた気持ちに気付いてしまった。


 わざと揶揄うように接しても、エルは顔を赤くして避けもしない。それが可愛くて、憎らしい。本当なら、気持ちのままにエルを手に入れてしまいたかった。

 けれどそれをしたら、いずれ後悔するのは俺自身だと分かっているから、そうはしなかった。エルと俺は種族が違う。愛した女をもう一度失うなんて、俺には耐えられそうもない。


 百年前、あいつを亡くした時は、復讐心があったからどうにか耐えられた。だが今度、俺がエルを見送るのは寿命になる。復讐する相手もいないのに、エルを失ったらどうやって生きればいい?

 それなら最初から、手に入れない方がいい。少し離れた場所からエルの一生を見守る事が出来れば、きっとまたあいつの魂が巡る日を待っていられる。


 それに俺だって、エルより先に死なないとは言い切れないんだ。百年前のリュメールの旦那のように、俺だってなるかもしれない。

 だからこそ俺は、()()()()()()()は考えないようにしている。だがそれを言ったらリュメールを悲しませてしまうから、今の俺はただこう言うしか出来ない。


「とにかく、俺は降りる気はないからな」

「全く……坊やも頑固だね。けれど、困ったねえ。こんな依頼が来てるんだが」


 リュメールは小さくため息を漏らすと、一枚の依頼書を出してきた。それは指名依頼で、指名されているのは俺と……。


「エルメリーゼ・ガーシュ? しかも依頼主は、アルターレ王国第二王子だって?」

「まあ、こんな名前の冒険者はいないし、そもそもエルは特級でもない。指名依頼として機能するのは坊やだけだがね」


 冒険者は基本的に、拠点としている国で出された依頼しか受ける事は出来ない。指名依頼も同様だが、特級冒険者だけは国を跨いで指名を受ける事が出来る。

 最も、今現役で動いている特級冒険者は俺しかいないんだが。


「これとは別に親書ももらってね。エルに帰国を促すよう助力も頼まれてるんだよ。坊やにも来ていたんじゃないのかい?」

「確かに来ていたが……依頼の最中だったから後回しにしていた」


 護衛依頼を受けた直後、ガーシュ家から問題が解決したからエルを帰していいと連絡は受けていた。だが、せっかくパートナーになれたんだ。もしすぐにでも帰りたいと言われたらと思って、伝えるのを躊躇していた。手に入れられないのだから、少しでも近くにいたいと思ったっていいだろう。

 けれどまさか、リュメールに直接連絡がいってたとはな……。


「指名理由もそれなりだよ。ドラゴンの討伐だ。アレの件は私に任せて、エルと行ってきたらどうだい? エルの指名は、現地でもらえばいいしね」

「ドラゴンか……。指名でそれならどちらにせよ断れないな。それにエルなら、喜んで引き受けそうだ」


 深く息を吐き、覚悟を決める。こんなに早く離れる事になるとは思わなかったが、良い頃合いなのかもしれない。

 これ以上、エルを隣に置いていたら、いつか後悔すると分かっていても手を伸ばさないとは言えないから。


「分かった。五日以内に向かうと返答しておいてくれ」

「そんなに短くていいのかい?」

「緊急なんだろう? 面倒な話は、俺だって早く終わらせたい」

「言ってくれるね。……あまり無茶はするんじゃないよ」

「分かってる」


 指名依頼の話を持ち出しておきながら、リュメールは心配そうな顔をする。思わず苦笑が浮かんだが、紅茶の礼を言って席を立った。


 ギルドを出れば、まだ昼にもなっていない。酒でも飲みたい気分だがさすがに時間が早すぎる。違う事で気を紛らわせるしかないだろう。

 さて、どうやってエルに話を切り出そうか。悶々と考えながら山へ飛び、苦しさを紛らわせるべくひたすらに魔物を狩り続けた。

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