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58:初めての指名依頼

 どうやって指名依頼を取る気なのかと思ったけれど、案外それはすぐに分かった。村長宅に着くとすぐに、ラルクが雑談を交えつつ()()()()を始めたからだ。


 人手の少ない小さな村では困り事が起きても解決出来る人材がいない。だから隠れた依頼の宝庫になっているけれど、町では気軽に冒険者に頼めるような事も、大きな問題に発展するまで後回しにしてしまう。

 というのも冒険者に依頼を出すには、ギルドを介さなくてはならないからだ。


 けれどギルドを介すのは、あくまでも依頼に適した人材を適した金額で雇うためだ。すでに依頼したい相手が決まっているなら、指名依頼としてその冒険者と直接やり取りも出来るらしい。

 報酬を不当に釣り上げられる可能性もあるから、普通は推奨されない行為だけれど、こういった町との行き来が難しい辺鄙な村では歓迎されるようだ。


 ラルクはそれを知っていたから、村長と交渉して指名をもぎ取っていた。


「いやあ、助かるよ。ワシらじゃ町まで行くのも一苦労だからね。それに三級冒険者様がいるなら、安心して任せられる」

「では、この依頼書にサインを」


 ラルクがそれとなく聞き出した所、最近森の奥に見慣れない魔物がいて村人たちが不安に思っていたそうだ。なので依頼は、その魔物の調査と場合によっては討伐という事になる。


 指名依頼になる場合、報酬とギルド使用料とは別に指名手数料がかかる。基本が自給自足の村にとって、指名手数料だって馬鹿にならない出費だけれど、そこはラルクがうまくやってくれた。

 魔物を討伐した場合、その素材を村に寄付すると言ったのだ。村にはちょうど行商人のデイビスが来ているから、素材はその場で現金化出来る。そのお金を使えば、指名手数料はもちろん通常の依頼料を支払ってもお釣りが来るだろう。


「もし素材が取れなかった場合は、すまないが」

「それは構わないさ。その申し出はあんた方の好意だってワシも分かってる」

「不服があれば、依頼達成後でもギルドに申し立てれば全額返金される。期限はないから、何かあればいつでも言ってくれ」

「その時はそうさせてもらおう。必要ないとは思うがな」


 きっとラルクはこれまでも、こんな風に小さな村の困り事を解決してきたのだろう。交渉の仕方がすこく手慣れてる。

 親身になって話を聞いたラルクに村長はすっかり気を許した様子で、朗らかに笑ってた。


 早速様子を見てくると村長に話して、私たちは村を出る。森へ入りつつ、ふと気になった事をラルクに問いかけた。


「ねえ、もしかして私たちが初めて会った時に戦ってた亀の魔物(スピトルガ)も、あの時の村で受けた依頼だったの?」

「そうだが、それがどうした?」

「あの時、私が素材をダメにしちゃったじゃない? 悪い事したなと思って」


 私が魔法で黒焦げにしなかったら、あの巨大なスピトルガの素材は村の収入になったのだろうか。そう思うと、あの時以上に申し訳なさが募る。

 すると、俯きながら言った私の頭を、ラルクがクシャクシャと撫でてきた。


「ちょっと! 急に何するの⁉︎」

「何ヶ月も前の話を掘り返すなよ。お前らしくない。それにあの時の素材はそもそも寄付するつもりはなかったから、気にするな」

「それ、本当に?」

「こんなことで嘘を言ってどうするんだよ。大体、終わったことに落ち込んだって仕方ないだろう。それより今度は黒焦げにしないように気をつけろよ」

「そんなこと言われなくたってそうするわよ!」


 一度払ったのに、また頭を撫でられたから睨み上げる。けれどラルクの目はとても優しく細められていて。何だか気恥ずかしく感じて、また手を払って先を急いだ。

 何なのよ、その笑顔は。意地悪なのは口ばかりで、こんな風に慰められたら胸がドキドキするわ。パートナーになってから、前よりラルクが優しくなったような気がして調子が狂う。耳まで赤くなってないかしら。


 無駄に速足になってしまったからか、気が付けばかなり森の奥へ入り込んでいたみたい。この旅でラルクに教えられてから、ずっと魔力で周囲を探査するようにしているけれど、不思議と魔物や大きな獣は引っ掛からなかったから、そんなに歩いた気がしなかった。

 さすがに奥まで来すぎたかと思って、そろそろ戻ろうと言おうとしたのだけれど。不意に異質な魔力を前方に捉えた。


「……ラルク」

「ああ、いるな」


 自然とラルクが前に出て、私はその後ろを気配を殺して付いていく。少しだけ進んだ先は崖上になっていたけれど、ラルクはそれ以上進まずに木の陰に隠れたから、私もそのすぐ隣の木に身を隠した。


 ズン……と微かな揺れと共に、ガサガサと葉の揺れる音が響く。崖下に広がる森から慌てた様子で鳥が飛び立ったのに釣られて目を向けて、思わず口を開いた。


「なんでまた、ここに……?」


 眼下に広がる森の中から突き出た棘のある甲羅は、ついさっき思い出していた魔物スピトルガの特徴だ。あの時のように広い湖があるわけでもなく、近くにあるのは川ぐらい。

 けれどなぜかスピトルガは、数ヶ月前に私が黒焦げにしてしまったものと同じぐらい大きかった。

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