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54:意外な誘い

 町へ帰った私たちはすぐに冒険者ギルドへ向かい、ダンジョンでたくさん手に入れた素材の換金や依頼の達成報告と共に、ダンジョン異変の報告を上げた。

 滅多にない話だからかギルド長直々に話を聞いてくれる事になって、その結果すぐにメンバーを集めて調査に向かうと言ってくれた。


「一級、二級を中心に十人ほど集めようと思うが、ウルとキャティは怪我もあるしやめといた方がいいね。エルは行くかい? ずいぶん倒してきたようだし、この報告もある。貢献度は充分溜まってると思うが」


 ギルド長から誘ってもらえるなんて嬉しいけれど、一ヶ月ぶりにようやく戻ってきたばかりでさすがに疲れている。

 それに思った通り報告そのものがギルド貢献度に加算されるらしいし、少しでも早いランクアップを目指すなら指名依頼を取れるように動くべきだろう。


「いえ、やめておきます。すみません」

「それもそうか。ひと月も潜ってたんだからね。まあ、戦力的には問題ないから気にしなくていいさ。私も出るつもりだからね」


 一級、二級冒険者の強さは、本気を出したラルクたちを見た事でよく分かった。その彼らを十人も連れてギルド長自らダンジョンへ降りるなら、半月とかからずに調査は終わるかもしれない。

 ギルド長の戦う姿が見れたかもしれないのに、断ったのは失敗だったかしら? でもきっとこれから先もそういう機会はいくらでもあるわよね。

 ここは諦めて、さっさと一級まで進みたいと思う。


「調査が終わるまで、ダンジョンは立ち入り禁止だ。私が不在の間、ギルドで手に負えない魔物が出たら頼むよ、ラルク」

「ああ。分かった」


 てっきりラルクも行くと思ってたのに、行かないらしい。まあでも上級冒険者が軒並み町を空けるわけだから、一人ぐらいは残った方がいいわよね。


 そんなわけで報告を終えると、自力で歩くのが辛そうなウルとキャティを宿へ送って行った。


「神殿で治してもらわなくて本当に大丈夫なの?」

「このぐらい平気だよ。ね、ウル」

「そうだね。三日も寝れば治るから」


 死なない限り、欠損を含めたどんな怪我でも治せる治癒魔法は、神官だけが使える神聖なものだ。

 足の怪我だけでなく、蔓に全身をかなり強い力で締め上げられていたから骨や内臓だってどうなってるか分からないのだし、念のため治癒魔法で治してもらった方がいいと思うのだけれど、あっさり断られてしまった。

 三日で治るって本当かしら? 獣人ってすごいのね。


 それでもやっぱり心配で、手持ちの薬を渡してきた。高価な魔法薬ではなく応急処置用の普通の薬ばかりだから、あまり意味はないかもしれないけれど、気持ちの問題よ。二人には早く元気になってもらいたいと思う。


「エル。夕飯食っていかないか?」

「いいわよ」


 あとは宿に帰るだけだから、ラルクの誘いに乗って店へ入った。ラルクのおかげでダンジョン内でも美味しいご飯を食べれたけれど、町で食べるのは安心するからか満足感が桁違いね。

 ダンジョン探索はかなり楽しんできたつもりだけれど、やっぱり私も緊張していたんだろう。ラルクも心なしか、ホッとしたような顔をしている。


 ある程度食べてお腹も落ち着いた所で、麦酒(エール)を飲みながらラルクが口を開いた。


「ダンジョンにはしばらく潜れなくなったが、これからどうするつもりだ?」

「護衛依頼を受けようかと思ってるわ。指名されないと二級になれないもの」

「護衛か……。なら、俺と組まないか?」

「え?」


 思いがけない提案に目を瞬いた。私がラルクと組む? なぜ?


「指名依頼を出してくるのは大抵商人だ。そして商人は、よほど大きな商会じゃない限り冒険者をペアで雇う事が多い。だからウルたちとお前じゃ一緒に受けられない。これは分かるな」

「ウルたちは怪我をしているし、そもそもチームを組んだのはダンジョン探索でだもの。元々、護衛依頼を受ける時は一人で受けるつもりだったわ」


 ラルクの言いたい事は理解出来た。三人になると受けられる護衛依頼が少ないって事ね。

 でもだからって、ラルクと組まなくてもいいと思う。ソロで活動している冒険者は私やラルク以外にもいるんだから、護衛依頼で一緒になったその人たちとやればいいだけだもの。

 けれどラルクは、私の話に頭を振った。


「お前の目当ては指名を受ける事だろう? たまたま組んだ奴が下手だった時を考えてみろ。依頼主からしたら、どちらも同じ冒険者だ。お前がどれだけ尻拭いをしてやったとしても、そいつが依頼主に少しでも不安を抱かせた時点で指名は取れなくなる。それなら、俺と組んだ方が確実に指名をもらえると思わないか」


 ラルクの腕が確かなのは、充分過ぎるほど知っている。経験だって豊富だろうから、護衛任務のコツだって色々知ってるだろう。

 でもラルクと組んだりしたら、ラルクだけが指名されるなんて事にならないかしら。


「あなたの引き立て役になるのは嫌なんだけど」

「何言ってんだ、お前は。通常の三倍はある巨樹の魔物(オスクアルボル)を派手に倒したのはどこの誰だよ」

「でもあんなのと護衛で戦うことなんてないでしょう?」

「俺が言ってるのはあの魔法だけじゃない。お前の力なら、充分に指名を取れるって言ってるんだ。それにな」


 ラルクはジョッキを置くと、じっと私を見てきた。


「俺が組みたいって言ったのは、お前を助けるためだけじゃない。お前になら背中を預けてもいいって思ったから言ってるんだ」

「え……」

「自慢じゃないが、俺もこの国に来てからはまだ一度も護衛依頼なんて受けたことないからな。冒険者の間とは違って、商人は誰も俺を知らない。先入観で見られることもないんだ。お前なら実力で指名を取れるだろう?」


 揶揄ったり茶化したり、何なら煽ったりするために言ってるなら、どれだけ良かっただろう。

 こんな真剣な眼差しで言われたら、本当に認めてくれてるのかなって思っちゃうじゃない……!


「そっ……それは、もちろんそうよ! 指名なんて簡単に取れるわ!」

「なら、俺と組めばいい。お前を見てると飽きないからな。暇つぶしにはちょうどいいんだよ」

「はあ⁉︎ 暇つぶしって何よ! 失礼ね!」

「互いに利はあるんだから、いいだろうが」


 ラルクは揶揄うように笑ってジョッキを傾ける。ちょっとでもドキドキしてしまった気持ちを返してほしいわ!

 けれど私がこんなに渋ってるのに、ラルクは全然引く気がなさそうなのよね。もしかして今のこれは照れ隠しで、本気で私と組みたいと思ってるのかしら。


「でもラルクは、ギルド長から町のことを頼まれてたじゃない」

「ギルドで手に負えない場合だがな。それだって連絡さえあれば、どこからでも駆けつけられる。別に国を出ようってわけじゃないし、お前だってこの近辺での依頼を受ける気なんだろう?」

「それはそうだけど……」

「それに俺と組むなら、もう一つの指名を取る方法を教えてやれるぞ」


 ものすごいグイグイ来るのは、一体なんなの⁉︎ でももう一つの方法っていうのも気になるわ。それにラルクと組んだら色々と楽なのも事実だし……。


「分かったわよ。仕方ないから組んであげるわ」

「そりゃどうも。ほら、乾杯するぞ」


 私は渋々ながら受けたのに、ラルクはビックリするほど嬉しそうに笑った。

 さっきの真面目な顔といい、今の笑顔といい、本当にどうしちゃったのよ。バクバクと鼓動が早くなって、顔が熱くなってる気がするわ。


「乾杯するなら私もお酒を飲むわ」

「は? いや、お前それは」

「すみません! 私にもエール一つ!」

「ちょっと待て。何も飲まなくても」

「うるさいわね。ほら、来たわよ! 乾杯!」


 ギョッとするラルクを横目に、運ばれてきたジョッキに口を付けた。久しぶりのお酒が疲れた身体に沁み渡るわ。

 きっとまた記憶を無くすぐらい酔っ払ってラルクに迷惑をかけるんだろうけれど、私を翻弄してくれたんだからこれぐらい引き受けてもらわなくちゃ。

 何せ私たちはもう、仲間なんだからね!

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