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4:エルフと獣人と

 失敗したわ。口に出すつもりなんてなかったのに、うっかり言っちゃったなんて!


 気まずくて仕方ないけれど、魔法剣士は優しい所もあったみたい。呆れたようにしつつもそれ以上怒ったりはせずに、話を続けてくれた。


「俺は二百六十歳だから、確かにお前より長く生きてる。だがな、エルフの中ではまだまだ若い。年寄り扱いはやめろ」


 寿命が千年あるエルフ族で二百六十歳なら、人族だと二十六歳ぐらいになるのかしら。どちらにせよ年上には違いないけれど、こんな若々しい人を相手におじいちゃんはないわよね。


「分かったわ。ごめんなさい」


 素直に頷きを返すと、魔法剣士はフッと笑った。


「ラルクスだ」

「え?」

「俺の名前だよ。仲間にはラルクと呼ばれてる。どうせなら名前で呼べ」

「ラルク……」


 不意打ちで見せられた笑顔が格好良すぎて、ドキドキしてくる。顔が良いってズルい!


「それでお前は?」

「……私?」

「いつまでもお前じゃ呼びづらいだろうが。俺は何て呼べばいい?」


 つい見惚れてしまったけれど、次いで言われた言葉に目が覚めた。

 そうよね。名乗ってもらったんだもの、私も挨拶を返さないと。


「私はエルメリ……エルメよ! 十六歳なの。エルと呼んで」

「へえ。エルメ、ね」


 危ない所だったわ。王宮を壊した犯人として追手をかけられているかもしれないのに、うっかり本名を名乗ってしまう所だった。

 うまく誤魔化せたかと思ったのだけれど、ラルクは訝しげに私を見てきた。


「それでエルは、何だってこんな所にいるんだ?」

「え? ……あ」


 そうよ、すっかり忘れていたわ! 私がここにいるのは……!


「塩よ!」

「……は?」

「塩を持っていたら分けて欲しいの。そうすれば私、ここで生きていけるから」

「いや、待て待て……。ここでって、エルはこの森に住むつもりなのか?」

「ええ、そうよ」


 この森にこだわってるわけではないけれど、もしすでに国境を越えているなら、大きな湖もあるしここに住むのもいいと思う。

 スピトルガがあんなに育つぐらい魚もいるんでしょうし、食べられる野草や果実だって採れるはず。他の魔物が出てきても私の魔法で対処出来るのも分かったから、あとは塩さえあれば生きていけるのよ。


 そう思って頷いたのだけれど、どうしたのかしら。ラルクったら頭を抱えてしまったわ。

 もしかして塩を持っていない? それとも分けられるほど塩がないのかしら。


「あの、無理ならいいの。譲ってもらえたら嬉しいけれど、町に行って買うことも出来るから。この近くに町ってあるわよね? 場所を教えてもらえたり出来る?」

「ああ、少し離れてるが町はある。案内するのは構わないが、それで塩を手に入れたらどうするんだ? ここに戻るのか?」

「ええ、そのつもりよ」


 良かった。町の場所さえ分かれば、着替えや毛布など他の細かな物も用意出来るわね。

 けれど私は真面目に話しているのに、なぜかラルクは呆れたような目を向けてきた。


「なぜ町に行くのが塩目的なんだ。訳ありなんだろうが、そのまま町で暮らそうとは思わないのか?」


 言われてみればそれもそうね。何も野宿しなくても、違う国なら町で暮らせばいいのよね……って、どうして私が訳ありだと分かったの⁉︎

 あっ、このドレスだわ! ドレス姿のまま森にいたら、どう見てもおかしいもの。何て説明したらいいのかしら。


「ええと、その私は……」


 どうにかして誤魔化さなければと焦っていると、遠くから声が響いた。


「おーい、ラルク。その子はどうした? さっきの雷は、まさかその子が?」

「ウル。そのまさかだ。お前たちは怪我は?」

「どうにか無事だ。キャティも水を飲んだだけだな」


 振り向けば、先程湖へ飛び込んだ盾役の男性が、弓使いの女性に肩を貸しつつ歩いてきていた。二人ともびしょ濡れだけれど、女性は自力で歩けているし大きな怪我はなさそうで良かったわ。

 でも……。


「耳と尻尾……?」


 泳ぐのに邪魔だったのだろう、兜を外した男性の黒髪には、動物みたいな丸い耳がついていて。女性の栗色の髪からも三角の耳が覗いている。そしてさらに、女性の腰下からは丸みを帯びた長い尻尾のようなものが垂れていた。


「お嬢ちゃん、もしかして俺たちみたいなのは見たことないか?」

「ええ、初めてよ」

「はは、そうか。俺は熊の獣人でウルゼフっていうんだ。ウルと呼んでくれ。それから」

「あたしは山猫族のキャルテだよ。キャティって呼んで」


 やっぱり二人とも獣人だったわ! 話に聞いた事はあったけれど、私が住んでいたアルターレ王国に獣人はいなかったから、見るのは初めてなのよね。


 獣人は私たち人族と違って魔力をほとんど持たないけれど、その分身体能力に優れていて、その血に混じる種族の特性もそれぞれ持っていたはず。熊族は怪力で、猫族は素早く体もしなやかだと聞いたような?

 もしかしてそれでキャティは泳げなかったのかしら。猫は水が苦手だものね。でも熊って泳げるの? 見た事がないから分からないわね。


 それにしても、時々ピルピルと動く耳とユラユラ揺れてる尻尾が可愛いわ。二人とも耳や尻尾以外は人族と同じように見えるけれど、キャティの瞳は猫みたいになってるのね。

 手足も毛だらけってわけでもなさそうだし、爪も人と変わらない。肉球もなさそうなのは残念だけれど……って、見入ってる場合じゃなかったわ。


「ウルとキャティね。私はエルメ。エルと呼んで」

「エルちゃんか。まだ小さいのに、あんな魔法を使えるなんて凄いね」

「小さい?」


 体の大きなウルと比べたら、確かに私は小さいと思う。同じ女性のキャティも、私より身長は高いものね。

 でもだからって、体の大きさは魔法に関係ない。魔法が得意じゃない獣人族だからそう思うのかしら、なんて思っていたら、キャティが心配そうに私を見つめてきた。


「エルちゃんは十歳ぐらい? こんな森の中にいるなんて、悪い人から逃げてきたの?」


 嘘でしょう⁉︎ まさかの子ども扱い⁉︎


「私は十六歳よ! この国ではどうか知らないけれど、私の国では立派な成人よ!」

「えっ、そうなの⁉︎ ごめんね!」

「大人なのか……。勘違いしてすまない」


 ウルとキャティは目を丸くして、必死に謝ってきた。本気で子どもだと思ってたのね。王国では平均的な身長だったし胸だってそれなりにあるのに、間違われるなんて失礼しちゃうわ。

 すると私たちを見ていたラルクが、突然噴き出した。


「ちょっと、何笑ってるのよ!」

「いや、悪い。でも十歳とか……ククッ!」

「そんなに笑うことないでしょう⁉︎ またおじいちゃんって呼ぶわよ⁉︎」

「へえ。俺が老人ならお前は赤ん坊になるが、それでいいのか?」

「何ですって⁉︎」

「まあまあ、落ち着いて」

「そうだよ、喧嘩はやめよう?」


 掴みかかろうとした私を、ウルとキャティが止めてきた。ラルクは声に出して笑うのをやめたけれど、目だけは未だに笑ってる。

 さっきは優しい所もあるなんて思ったけれど、やっぱりラルクは性格が悪いわ! ラルクなんて、大っ嫌い!

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