39:仲間探し
ダンジョンでは色んな事があったけれど、依頼品を持ち帰ったしパーティ行動の重要性も学んだという事で、私は無事五級になった。
とはいえ、ラルクとの約束は第六層以降は一人で行かないというものだ。ダンジョンから帰還した翌日から早速五級の依頼を受けると、第五層までは地図を片手に何度もソロで潜った。
第四層はまた森のようになっていて、第五層には湖があった。動物や魚はいなかったけれど森には果実やキノコがあったから、昔ギルド長が一ヶ月ここに閉じ込められても無事だったのはこの森と湖のおかげなのだろう。多少の食料はマギアバッグに常備していただろうし、ギルド長ならもしかすると収納魔法だって使えたかもしれない。
とはいえ、ダンジョン自体が魔物だというラルクの話を思い出すと、この湖の水はあまり飲みたくない。でも他の人たちはみんな平気なようで、第六層へ向かう前に水を補給する姿を何度か見かけた。
ウルやキャティにも聞いたけれど、意外にもダンジョン内の水は美味しいらしい。元々あった地下水脈や地底湖がダンジョンに取り込まれたという説もあるんだとか。ただ、場所によっては毒水もあるから気をつける必要があるそうだ。
でもギルド長なら魔法で水を出せるはずだから、ダンジョン産の水は飲んでいないと思いたいわね。
ちなみにその話を聞いた際に、二人からは一緒にダンジョンに入らないかと誘われたのだけれど、さすがに実力差があり過ぎるから遠慮した。
五級の私が行けるのは第十層までだもの。二級の二人にそんな浅い場所へ付き合わせるのは申し訳なかった。
そんなわけで第五層までの探索を終えた私は、先へ進むべく情報収集をしながら一緒にダンジョン探索をする仲間を探している。
出来るならランクにあまり差のない相手がいいけれど、これがなかなか難しい。というのも、パーティメンバーを探している人の多くは深層へ潜る三級以上だからだった。
そういうパーティも五級や四級を受け入れているけれど、少しでも早く深層へ行けるようにとパーティぐるみで色々手伝ってくれちゃうらしい。きちんと実力をつけるために自力でランクを上げていきたい私とは、そこが合わないのよね。
そして私以外の五級や四級の冒険者にとっては、そうやって手助けしてもらえる事が嬉しいようで。大抵どこかのパーティに入っているから、個別に誘って少人数でチームを組むというのも難しい。
私と組みたがってくれているアッシュ君は、頑張っているけれどまだ九級だから誘えないし、私はすっかり困っていた。
だからといって、何もせずに毎日を過ごすつもりはないから、第五層までで受けられる五級の依頼を私は日々こなしていた。あっという間に二十日あまりが過ぎ、第六層へ行けないままに五級の依頼達成数だけ増えていく事に焦りが募る。
妥協して上級パーティに混ぜてもらうしかないかと考え始めたある日の事、いつものように冒険者ギルドの掲示板を眺めていると、見慣れない一行がやって来た。
三人組の男性は、ビックリするぐらい凶悪な顔付きで周囲を睨みつけていた。その威圧感に騒がしかったギルド内は一気に緊張が走ったけれど、それよりも私は彼らの筋肉に目がいった。
だってすごいのよ。鎧の隙間から見える首周りから胸元、腕まで綺麗に盛り上がっているの。
フルムの町へ来てから四ヶ月近く経つ間に町の冒険者のほとんどと顔見知りになったけれど、ここまで分厚く整った筋肉は滅多に見ない。この町でこの人たちに対抗出来るのはウルくらいなんじゃないかしら。
かなり大柄だからきっと獣人と人族のハーフなんだろうけど、だからって熊族に匹敵する筋肉とは恐れ入るわ。
これだけ強そうならランクも期待出来るわよね。見たところ大剣と斧、槍をそれぞれ持っているから三人共物理攻撃型だろうし、魔法で戦う私との相性もいいんじゃないかしら。
「おい、そこのチビ。何見てんだよ」
朝食でも食べに来たのか奥のテーブル席に座った三人組は、凝視していた私に気付くと眉を吊り上げてきた。
筋肉に見惚れるあまりついジロジロと見つめてしまったのは悪かったけれど、だからってチビはないんじゃないかしら。
「あなたたちの筋肉が凄かったから見ていたの。嫌だったなら謝るけれど、チビはやめて。私にはエルメって名前があるんだから」
「……は? 筋肉?」
腕を組んで睨み返すと、男たちは驚いた様子で目を瞬かせた。無闇に怒鳴る人たちでもないみたいね。ますます気に入ったわ。
「ねえ、あなたたち何級なの?」
「俺たちは四級だが……」
「なんだ嬢ちゃん。俺たちに依頼したいのか?」
「悪いが他を当たれよ。俺たちはガキが持ってくるような柔な依頼は受けないんだよ」
席に近づいて問いかけると、男たちは訝しげに眉を寄せた。子どもと思われている事には苛立つけれど、ここは我慢よ。貴重な仲間になるかもしれないんだから。
「私は依頼に来た子どもじゃないわ。十六歳で成人してるし、五級冒険者だもの」
「は? 五級?」
「んな馬鹿な……って、マジかよ!」
さっさとギルドカードを突き出したから、嘘じゃないと分かってくれたみたい。唖然として見てくる三人組に、私はニッコリと笑った。
「あなたたち、良かったら私と一緒にダンジョンへ行かない?」




