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3:助けたつもりが怒られました

 飛翔魔法を展開し、誰かが戦ってるだろう森の奥へ向かうと大きな湖があった。

 その湖のほとりに、甲羅に無数の棘がある亀のような魔物スピトルガが見えたのだけれど……大きすぎない⁉︎


 スピトルガは水辺に棲息している魔物で、私も家族で魚釣りに出かけた時に群れに遭遇した事がある。でもその時に見たのはほとんどが犬や猫みたいな大きさで、大きくても人一人分だった。

 それなのに、眼下で暴れているのはどう見ても家一軒分はある。ずいぶん大きな湖だから、獲物をたくさん食べて大きくなったのかしら?


 そんな巨大なスピトルガと戦ってるのは、三人だけのようだった。男性二人と女性一人の彼らは騎士にも兵士にも見えないから、冒険者と呼ばれる人々だと思う。


 世界中どの国にもいる冒険者は、魔物退治や危険地帯での薬草採取などを請け負う人たちで、腕の立つ者は王国最強と言われるお父様と同じぐらい強いと聞いた事がある。

 こんな大きなスピトルガにたった三人で戦いを挑むなんて、どんな強者なのかしら。ちょっぴりワクワクしちゃう。このまま上空から、少し見学させてもらいましょう。


 ガッシリとした体躯の男性は盾を持ち、スピトルガの鋭い牙や爪による攻撃を一手に引き受け防いでいる。

 もう一人の長身の男性は魔法剣士かしら。一つに結んでいる緑色の長髪を靡かせながら、剣に炎を纏わせて攻撃を仕掛けていた。さっき私が見た煙も、きっとこの人が魔法で攻撃した時のものね。

 スピトルガは手足の皮が分厚いからなかなか傷を負わせられないみたいだけれど、魔法剣士も諦める気はないようで、弱点のお腹側から攻撃する隙を狙ってるようにも見える。


 そして女の人は撹乱役のようで、スピトルガの顔周りに弓を射っているけれど……あっ。


 ――グアァァァ!


 咆哮と共に吐き出されたブレスに吹き飛ばされ、女性はピューっと湖に落ちた。もしかして泳げないのかしら、溺れそうになってない⁉︎

 助けに行こうかと思ったけれど、盾役の男性が慌てた様子で助けに向かってる。という事は残りは魔法剣士一人になるけれど、あれを一人で倒すのはさすがに無理じゃないかしら? ああ、やっぱり。少しずつ押されてる。


 塩を分けてもらうためにも、ここは手助けして恩を売るべきね!


「手伝うわ!」

「なっ、お前、どこから⁉︎ 危ないから下がってろ!」


 空から急降下して地面に降りたから、魔法剣士は驚いたみたい。でも手伝うって言ってるのに下がってろだなんて、失礼しちゃうわ。

 湖にいる仲間を追わせないようにするので精一杯みたいなのに、何を強がっているのかしら。これでも攻撃魔法には自信があるのよ。お父様も認める私の魔法を見てなさい!


「天に轟く雷鳴よ、我が怒りに応えて罰を下せ。トルエノグリタル!」


 詠唱と共に空へ手を突き上げ振り下ろせば、上空から雷光が一直線に落ちてきて、スピトルガの甲羅ごと雷撃で包み込んだ。

 甲羅に隙間なく生えていた無数の棘が砕け散り、スピトルガは断末魔の叫びを上げて息絶える。


 ――ゴワァァァアァ!


 本気で撃ったのは久しぶりだから、どのぐらい威力が出せるか心配だったけれど、やっぱり私も成長してたのね。一撃で仕留められたわ!


「もうこれで大丈夫よ!」


 ニッコリ笑って魔法剣士へ目を向ければ、唖然として私を見るその顔立ちは、男らしくもあまりに綺麗だった。


 盾役の人ほどではないけれど、この人の体もしっかりと筋肉がついていそうですごく素敵なのに、さらに美形だなんて。顔の良さも重要視される近衛騎士でも、ここまで整った人はなかなかいないと思うわ。

 解けば腰までありそうな髪は新緑を思わせる鮮やかさでサラサラしてそうだし、宝石みたいな金色の目はスッと細められて……あら? 私、もしかして睨まれてる?


「何が大丈夫だ……!」


 気を取り直したのか剣をしまったその人は、顔を歪めて吐き捨てるように言った。まさかと思うけれど、助けたのに怒っているのかしら。獲物を横取りされたと怒る戦闘狂だったりする?


「ええと……どうかしましたか? 何か問題でも?」

「問題ありまくりだ! これじゃ素材が取れねえだろうが!」

「素材?」


 確かにスピトルガは焼け焦げて、プスプスと煙を上げている。何の素材が取れるのかは分からないけれど臭いも酷いし、この人の言う通り使い道はなさそうね。


「それはごめんなさい。でもあのままじゃやられてたでしょうし」

「誰がやられるか! こんな雑な倒し方なら、俺たちだって簡単に出来る。素材が欲しいからこそ気をつけて戦ってたってのに、余計な手出ししやがって」


 何なのかしら、この人。謝ってるのに舌打ちまでしてくるし、雑って何よ、雑って! 何だかすごく腹が立ってきた……!


「さっきから何よ! 余計だの雑だのと文句ばっかり! お礼の一つぐらい言ってくれてもいいじゃない!」

「勝手に手を出してきたくせに、礼なんか言うわけないだろうが! 俺たちはこれで稼いで飯を食ってるんだ。人の食い扶持を台無しにしておいて、勝手な事をぬかすな!」

「何ですって⁉︎ ……って、あなた、その耳……!」


 思わず魔法剣士に掴み掛かろうとした時、ふと違和感に気づいた。顔の綺麗さに目を奪われて全然気が付かなかったけれど、この人の耳は尖ってるわ!


「耳? ああ、俺はエルフだからな」


 皮肉めいた苦笑を返されたけれど、睨まれるよりずっといいわね。ちゃんと笑ってくれたら、きっともっと素敵でしょうに……って、そうじゃない。


 エルフは確か森の民とも呼ばれていて、古の時代から森に住む種族だったはず。外見的特徴は耳が長い事と美形が多い事で、魔力も強いと聞いているわ。

 それからものすごく長命で、寿命は千年とかじゃなかったかしら。とすると、二十台半ばぐらいに見えるこの人も、本当は何百歳も年上だったりして……。


「……おじいちゃん?」

「誰がおじいちゃんだ!」

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