27:昇格依頼の見届け人
初めて依頼を達成した日から、あっという間に二ヶ月近くが経った。あれから依頼をたくさんこなしたおかげで、今の私は七級になっている。
始めは何度も迷子になって空を飛んで帰るしかなかったフルムの町周辺も、今では庭のように行き来出来るようになった。
最初にピーコネッホと格闘した南の草原だけでなく、色んな場所で様々な魔物と戦ってきたのよ。町の図書館で調べたりウルやキャティに聞いたりして、魔物の縄張りや生態についてもかなり詳しくなった。
こなした依頼のほとんどが日帰りで行ける場所の物だったけれど、中には夜間に出る魔物を倒す依頼もあったから、一人で野宿も経験したわ。
ただ不思議な事に、なぜか行く先々でラルクの姿を見かけるのよね。もちろん毎日というわけではないのだけれど。
私が行くのは低ランク冒険者向けの依頼がある場所ばかりなのにラルクがいるなんて、一体どんな特殊な依頼を受けているのかしら。気にはなるけれど尋ねている暇があったら少しでも強くなりたいから、ラルクの事は無視して依頼をこなす毎日だった。
この二ヶ月で得た経験はかなり濃密だったと思う。魔法制御はもう余程の事がなければ失敗しなくなって、魔物の傷も最小限で仕留められるようになったから素材取りも始めたの。かなりの数の魔法が無詠唱で撃てるようになったし、一部は短縮詠唱も出来るようになったわ。
この調子で行けば収納魔法を使えるようになる日も近いはず。だいぶお金に余裕も出来てきたけれど、魔法の鞄を購入するなんて夢のまた夢だもの。やっぱり収納魔法を使えるようになるのが一番早いと思う。
二ヶ月間休みなしで朝から晩まで魔法と向き合っていたから出来た事なんだろうけど、急成長に自分でも驚いてしまう。
そしてそれは私だけではなく冒険者ギルドとしても同じだったみたい。たった二ヶ月で七級になったのは、フルムの町では初めてだと言われたわ。
その時たまたま居合わせたウルとキャティには驚かれて祝ってもらったけれど、それってつまり世界の他の場所には私と同じような速さで七級になった人もいるって事よね。別に勝負をしているわけじゃないからいいのだけれど、何となく悔しく思うのはなぜかしら。
こうなったら世界で最も速く一級になった冒険者と言われるように頑張ってみる? そうしたらラルクの鼻も明かせるかもしれないし、良い目標になるかも。うん、頑張ってみよう。
そんな事を考えつつ、私は今日も依頼を受けるために冒険者ギルドへやって来た。新しく受ける依頼には、すでに目星を付けている。
今日は六級昇格に関わる特定依頼を受けようと思っているの。七級にランクアップした時に特定依頼を受けるための条件―― 七級相当の依頼を百件達成する事――を聞いていたのだけれど、それをようやく昨日クリアしたのよ。
この昇格に関わる特定依頼は、失敗しても何度だって受けられる。けれど連続で受ける事は出来なくて、一度失敗すると半年間は再挑戦出来ない。そして受けるための条件もまた一からやり直しになってしまう。
最短で一級になりたい私としては、絶対に失敗出来ない依頼になる。昨夜一晩考えた上で覚悟を決めて受けたいと話したけれど、どんな内容なのかもまだ分からないから、ちょっとドキドキするわ。
緊張を感じつつ受付で話すと、奥の食堂で少し待つように言われた。昇格に関する特定依頼には見届け人が付くそうで、六級昇格の場合は五級以上の冒険者が呼ばれるらしい。
ウルかキャティだったらいいのになと思ったけれど、選ぶのはギルド側と決まっているそうだ。一体どんな人が見届け人として来てくれるのかしら。
手の空いてる適任者がいない時には、ギルド長直々に見届け人になる事もあるそうだけれど、さすがにそれは緊張するから違う人だといいわね。
「お待たせしました。エルメさん、こちらへどうぞ」
受付に再度呼ばれて行ってみると、そこにはなぜかラルクがいた。
「ラルクがなんでここに?」
「お前の見届け人だからだが?」
「えっ、嘘でしょ⁉︎」
信じられないわ! まさかラルクが見届け人だなんて!
「何だ、俺じゃ不服か? まあ、失敗したら恥ずかしいだろうからな」
別にラルクが嫌なわけじゃない。ただ、特殊な依頼を受けていると思ってたから、見届け人として出てくるのが意外だっただけ。
でもだからって、揶揄うように言われると腹が立つわ。
「失敗なんてしないわよ! 一発でクリアしてみせるわ!」
「へえ。まだ内容も聞いていないのに、ずいぶんな自信だな」
「当たり前でしょう⁉︎ 前までの私だと思わないでよね!」
「そうか。楽しみにしてるよ」
ムッとして言い返したら、小さな子でも見るようにフッと笑われた。年寄り扱いするなとか言ってたくせに、こういう所で大人な所を見せつけてくるのが苛立たしい。
この二ヶ月の間ラルクの事はよく見かけたけれど、私がどれだけ成長したかはまだ知らないはず。
良い機会だから、どれだけ魔法が上達したか見せてあげるわ。もう子ども扱いなんてさせないんだから!