18:念願の塩
さて、武器は調達出来たから、次は野宿や討伐依頼に持っていく品の準備ね。
これもラルクたちがよく利用しているという雑貨屋や食料品店が立ち並ぶマーケットに連れて行ってもらった。
まず必要なのは荷物を持ち運ぶための鞄。収納魔法を使うか魔法の鞄があればいいのだけれど、残念ながら今の私にはどちらも無理なので普通の鞄を二つ買う事にする。
一つは回収した素材や昼食なんかを入れて常に持ち運べるような肩掛け鞄。もう一つは着替えや毛布、ちょっとした調理器具などを詰めておける背負い鞄だ。この背負い鞄は野宿の時に使うものだから、遠方の依頼を受ける時以外は宿に置いておく事になると思う。
次に食器と小鍋。水袋とランタン、火打石も購入する。水と火、灯りは魔法で出す事も出来るけれど、魔力を温存しておきたい時のために持っておいた方がいいとラルクに言われた。
それからフルムの町周辺の地図とコンパス、包帯や軟膏、虫除けなどの衛生用品。干し肉などの保存食に、ラルクお勧めのハーブやスパイス類も買う。
そしてついに、私が欲しかった物も手にする事が出来た。
「塩だわ……!」
目の前にズラリと並ぶのは、様々な色味や大きさの岩塩だ。産地によって風味が変わるらしく、好きな岩塩を好きな分量で買えるらしい。
ある程度の大きさまでは頼めば砕いて売ってくれるそうだけれど、そこから先は調理時にミルで細かくして使う。
でも私にとって大事なのは、味よりも持ち運びの方法だ。ミルはもちろん買うとして、油などを入れておく小瓶も購入し、ミルに入る分ともう少しだけ追加して手頃なお値段の岩塩を買う。
「塩への食いつきがものすごいな」
「ずっと塩が欲しいってエルちゃん言ってたもんね」
「でもエルちゃん、それはさすがに買いすぎじゃないかな?」
ラルクとキャティ、ウルまで呆れたように私を見てくる。
三人とも甘いわね。それは塩に飢えた事がないから言えるのよ。
「買いすぎなんかじゃないわ。最低限これが必要なの」
店の片隅をちょっと借りて、購入したばかりの岩塩をミルに入れ、これもまた買ったばかりの綺麗な布の上に挽いていく。
ラルクたちは店の人と一緒になって怪訝な顔をしていたけれど、私にとってはこれが重要だから人の目なんて関係ない。
細かな塩の小山が出来た所で、先ほど買った小瓶に砕いた塩を移し替えて蓋をした。
「出来たわ!」
「……なぜわざわざそんなことを。すぐに使わないなら、湿気って固まるぞ」
「そんなの分かってるわよ」
いちいち口を挟んでくるラルクを無視して、ワンピースのポケットに小瓶を押し込む。すると黙っていた店員がおずおずと問いかけてきた。
「あの、お客様。ポケットに塩を入れるのは、何か意味が?」
「もちろんあるわよ。これはね、どんな時でも必ず塩を使えるようにしてるの」
「それはつまり……店などで味が足りない時に自分好みの塩味にするため持ち歩く、ということですか? ですがそれなら、ポケットではなくポーチなどに入れればいいのでは?」
胸を張って答えたけれど、どうしてか店員は不思議そうに目を瞬かせるだけだ。ラルクたちも意味が分からないと言いたげにしている。
まあ、そうよね。ポケットには普通ハンカチなんかを入れるわけだし。
「そのポーチも鞄も無くした時に必要になるのよ。裸でいることなんて滅多にないから、服のポケットにいつも入れていれば絶対に塩はあるでしょう? ある日突然身一つで何もない場所に放り出されても大丈夫なようにこうしたの」
「……はぁ」
私は魔法が使えるから、どんな状況でも大抵の事は切り抜けられる自信があった。けれど今回の事で、塩だけはどうにもならないと実感したのよ。
残りの岩塩やミルを鞄にしまい込みつつ、そんな実体験を込めて力説したのだけれど、店員からは気の抜けた返事しかもらえなかった。
ラルクたちはと見てみれば、キャティはキョトンとしているしウルは苦笑を浮かべている。そしてラルクは額を抑えていて。
「まずその想定がおかしい」
「別に理解してほしいなんて思ってないわよ!」
みんな塩の重要性を分からなすぎだわ。特にラルク、そんな事を言うあなたが塩がないって困ってても、絶対貸してあげないんだからね!




