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16:みんなでランチを

 買ったばかりの新しい服に着替えて店を出る。ようやく年齢相応の装いになってホッとしたわ。いつまでも子ども扱いされたら堪らないもの。

 少し肩の力が抜けたら、何だか急にお腹が空いてきた。


「ねえ、キャティ。買い物を続ける前にお昼にしたいんだけど」

「うん、いいね! あたしもエルちゃんに教えておきたいお店があったんだ」


 キャティたちはここフルムの町を拠点にして冒険者をしているから、美味しいお店をいくつも知っている。その中でも一番のお気に入りだという食堂に連れて行ってくれた。


「ここはね、ポークジンジャーが美味しいんだよ」


 ニコニコと笑うキャティの視線を追って壁に掛けられているいるメニューを見る。肉料理がメインのお店らしく豚、牛、鶏はもちろん魔物肉まで色んな種類のお肉を使ったメニューが並んでいるけれど……。


「そういえば、豚の獣人はいたりしないの?」


 もしいたら、豚の獣人も豚肉を食べるんだろうか? 共食いになったりしない?

 ふと疑問に思って聞いてみたら、キャティがキョトンと目を瞬かせて、ウルが笑い出した。


「エルちゃんって面白いこと考えるね」


 よほどツボに入ったのか笑い続けるウルの横で、ラルクが呆れたようにため息を漏らす。


「いるわけないだろう。まあ、アルターレから来たお前は分からなくても仕方ないが」


 ラルクの話によると、獣人には肉食獣の種族しかいないらしい。そして同種の獣は獣人の眷属となるそうで意思疎通が出来るから、食べるなんてもってのほか。食用にされるのは草食獣だけなのだそう。


「牛も豚も鶏も、どこの国でも普通に食べられてる。妙なことを考えずにさっさと選べ」

「分かったわよ」


 何だか馬鹿にされたみたいで腹が立つけれど、空腹を満たすのが先だわ。キャティお勧めのポークジンジャーを注文すると、二人前はあるのではと思うような大きさの分厚いポークソテーにジンジャーソースがたっぷりかけられて、ドーンと運ばれてきた。

 信じられないけれど、これで一人前らしい。


「……キャティ、半分あげるわ」

「えっ、いいの⁉︎ ありがとう!」


 わーいと喜んで、キャティは半分お肉を持って行く。ここへ来る間も思ったけれど、やっぱりみんなものすごく食べるわよね。キャティは身長が高く細身でしなやかな体つきなのに、どこに入るのかと思うほどよく食べる。ザクザクと大きく切ってパクパク食べる姿はいっそ清々しい。

 周りを見てみれば、他のお客さんたちもペロリと平らげていた。そうよね、ここの人たちは体が大きいもの。これぐらい食べるのが普通なのよね……。


「エルちゃんには多かったかな。この辺はどこでもこんな感じだから、小盛りで頼むといいかもね」

「そうね。今度からそうするわ」


 そんな事を言いつつウルが食べているのは骨付きの魔物肉だ。ビッグホーンと呼ばれる大きな角を持った魔物で、とても美味しいからむしろ養殖されてる珍しい魔物なのよね。

 そしてラルクは鶏肉のシチューを口にしている。スプーンを運ぶ仕草が何とも綺麗でついうっかり目を奪われていると、ふいに目が合った。


「何だ、もう食わないのか? そんなだから小さいままなんじゃないのか」

「まだ食べるし、私は別に小さくないわよ! ここの人たちが大きいの!」


 まったくもう、失礼しちゃうわ。キャティほどではないけれど、私も大きめに一口分を切って口に運ぶ。うん、しっかり生姜が効いてて美味しい。


「それで後は何を買うつもりなんだ?」


 どうにか完食して一息つくと、先に食べ終えていたラルクが問いかけてきた。まだ買い物に付き合うつもりなのかしら? ラルクの考えがよく分からないけれど、別に隠す必要もないのよね。


「そうね、まずは塩を買うわ」

「……それだけか?」

「他にも野宿出来るように一通り揃えるつもりよ。魔物退治に出かけて町に帰れなくなっても困るし」

「まあ、森に帰ると言わなくなっただけ進歩だな。それで?」


 まるで野生児でも相手にしてるように言わないでくれるかしら? 本当に失礼ね。


「それだけで充分よ。あとは宿を探すの」


 少しムッとしつつも答えると、ラルクは顔をしかめた。


「何が充分なんだ。武器はどうする気だ」

「武器? 私は魔法で戦うのよ?」

「それは分かるが、咄嗟の時に使えるような近距離用のが必要だろう。それに素材を剥ぎ取るのにナイフだって必要だ」

「……やっぱり素材を取らなきゃダメかしら」

「ダメだな。上を目指したいなら特にだ」


 六級以上の冒険者になるためには特定の依頼をこなす必要があるけれど、そこに魔物素材の依頼が含まれているらしい。

 うーん、そう聞くと確かに練習していった方が良さそうね。


「それも魔法で出来たらいいのに」

「やろうと思えば出来るが、かなり細かなコントロールが必要だ。それにコツを掴むためにもナイフで出来るようになった方がいい」

「どちらにしろ必要なのね」


 ラルクってこういう所は本当に親切なのよね。渋々頷くと、ウルとキャティが慰めてくれた。


「まあ素材は取れた分だけお金になるから」

「それに美味しい魔物のお肉はこのお店でも買い取ってくれるよ。それにそうするとオマケで、一食分はタダで食べさせてもらえるの!」

「もしかしてそれでここを教えてくれたの?」

「それだけじゃないけどね。あたしたちはよく来るから、またエルちゃんと会えたら嬉しいなってだけだよ。もちろん、エルちゃんが獲ってきたお肉を食べてみたいって気持ちもあるけど」


 笑みを浮かべて機嫌良さげに尻尾を揺らすキャティを見てると、何でもしてあげたくなっちゃう。キャティに美味しいお肉を食べさせてあげるためって思えば、頑張れるかな。


「ありがとう、キャティ。頑張ってみるわ」

「うん、楽しみにしてるね」


 さて、そうと決まれば切れ味の良いナイフを手に入れないと。ラルクとウルが贔屓にしている鍛冶屋を紹介すると言ってくれたけれど、鍛冶屋に行くのは初めてだわ。

 いったいどんな所なのかワクワクしつつ、私は席を立った。

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