13:待ちに待った冒険者登録
いちいち口を出してくるラルクを、私が煩わしく思っていると察してくれたのかしら。ギルド長は呆れた様子でラルクと向き合った。
「ラルクス。束縛の激しい男は嫌われるよ」
「そういうわけじゃない。冒険者なんかしなくても、こいつならいくらでも仕事は出来るだろうが」
「だが本人は冒険者をやりたいわけだろう? 違うかい、エル」
「はい、そうです」
確かにラルクの言う通り、子守や店員など他の仕事も出来ると思う。でもそれは嫌なのよ。
子守になったら子どもの事を、店員ならお客の事を考えて動かなくてはならない。だけど私は、イルネオの婚約者になってからずっと自分を抑えてきた。やりたい事は全部我慢して、ひたすらに良き婚約者、良き未来の妻を目指して生きなければならなかったの。
ようやくそこから解放されて自由に出来るようになったのだから、そういう他人を優先させるような事はもうしたくないわ。
その点、冒険者はちょうど良いのよね。どの依頼を受けるかは選べるみたいだし、魔物相手に戦うのに顔色を伺う必要なんてないもの。腕っ節ひとつで生きていけるというのは、とても魅力的だ。
だからラルクにどれだけ反対されても、引くつもりなんてない。第一、ラルクに決められる義理はないもの。悪気はないんだろうけれど、こんなに横から口を挟まれると正直ウンザリしちゃうのよね。
そんな本音を込めてギルド長に頷くと、ギルド長は微笑んだ。
「一時の気の迷いってわけではないようだし、この子なら大丈夫だろう。冒険者登録、私が許可するよ」
「リュメール!」
「ラルクス、あんたの気持ちは分かるがね」
怒気を上げたラルクを片手で制して、ギルド長は紅茶を飲むウルたちに目を向けた。
「ウル、キャティ。あんたらから見て、エルが冒険者になるのは無謀だと思うかい?」
「あたしはエルちゃんなら大丈夫だと思うよ!」
「俺もキャティと同じ意見かな。最初は苦労すると思うけど、素材を回収出来なくても討伐依頼で最低限は稼げるし」
「だそうだよ、ラルクス。二級冒険者が二人も太鼓判を押してるんだ。あんたはそれでもやらせないつもりなのかい」
二級冒険者というのが何なのかは分からないけれど、話の流れ的に信頼出来る人って事なのかしら。諭すように言ったギルド長に、ラルクは顔を歪めて答えない。
これは……冒険者登録しても良いって事よね?
「あの、ギルド長。お願い出来ますか?」
「もちろんだよ」
ギルド長はニッコリ笑うと、登録用紙を渡してくれた。
「名前と年齢、種族。あとはメインで使う得物……エルの場合は魔法だね。それを書いたら、下の受付に出せばいい。細かな説明はそっちで担当が話すからね」
「ありがとうございます!」
「ラルクス、どうしても心配だっていうんなら、時々様子を見てやればいいさ」
早速受け取った紙に必要事項を書いたけれど、結局ラルクは何も言わなかった。
そのまま出しに行こうと席を立つと、ウルとキャティも立ち上がる。でも、ラルクはそのままで。
「エルちゃん、行こう」
「ラルクのことはギルド長に任せておけばいいよ」
「……ええ」
黙り込んだままのラルクが少し気にはなるけれど、とにかく今は登録を済ませたい。ギルド長にお礼を言って、私たちは一階の受付へ向かった。
ギルド長と話していた時間は、それほど長くはなかったと思うのだけれど。先ほどまで奥の食堂で談笑していた男たちもみんな依頼に出かけたのか、一階は閑散としていた。
裏事情は問わないと聞いていた通り、本人確認なんて一切必要なく、用紙を出したらエルメの偽名であっという間に登録する事が出来た。魔道具だという冒険者カードを手にして心が弾む。
冒険者は全部で十のランクに分かれているそうで。登録したての私は十級スタートだ。数字が小さくなるほど腕の立つ冒険者という証らしいから、二級のウルとキャティはかなりの腕前という事になる。
一定数の依頼を受けると七級までは段階的に上がっていって。六級から三級までは特定依頼をクリアするとランクが上がるみたい。
そして二級以上は指名依頼を特定数こなした上で、ギルド貢献度でランクが上がるそうだ。
「とりあえず七級になるのが目標かしら」
「エルちゃんならすぐだと思うよ?」
「エルちゃん、こっちこっち。依頼はここに張り出されるからね」
受付カウンターの横には大きな掲示板があって、そこに依頼の紙が張り出されていた。
依頼は、いつでも受けられる常時依頼と町の人から持ち込まれたりする随時依頼に分かれていて、さらにそれが討伐依頼と素材採取依頼、護衛やちょっとした雑用のようなその他の依頼に分かれている。
魔法のコントロール訓練を兼ねるなら、討伐依頼を受ければいいわね。持ち帰った魔物素材はギルドで買い取ってもらえるそうだけれど、それは必須じゃない。討伐証明になる部位だけ提出すればいいそうだし。
「最初はこの辺から受けておいたらいいと思うよ。特に期限もないから」
「うん、そうするわ。ありがとう、キャティ」
これで今日から私も冒険者ね。まずアクセサリーを売って装備も整えなくちゃいけないから、明日朝にもう一度ここへ依頼を受けに来よう。
そうと決まれば、早速街へ行くわよ! 楽しみだわ!