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127:大婆様の話

投稿時間遅くなってごめんなさい!



 大婆様はエルフ族の中でも一際長命で、御年千二百歳の女性だそうだ。毛量は薄くなっているけれど長い白髪は見事なもので、顔も皺だらけなのに美人だと分かる顔立ちだった。

 実はエルマーとは血が繋がっておらず独身を貫いたそうで、大婆様の妹の血筋がエルマーたちらしい。


 そんな大婆様は高齢だからか、揺り椅子でうたた寝をしていたけれど、私たちが近くへ行くと長いまつ毛を震わせてゆっくりと目を開いた。


「ほぉ……やや子になって戻ってきたか」

「大婆様、それは」

「分かっておるよ、婆の戯言じゃ」


 エルマーもラルクもいるのに、なぜか大婆様は私をひたりと見据えて掠れ声を出した。

 やや子って赤ちゃんの事よね。確かに千二百歳の大婆様に比べたら十六歳の私なんて赤子のようなものかもしれない。

 それでもラルクはムッとした様子で言い返してくれて、大婆様は楽しげに目を細めた。


 何でも知っている大婆様だけれど、最近は年のせいかほぼ一日中寝ているらしい。ご本人もそれが分かってるからか、簡単な挨拶を済ませるとすぐに本題へ入るよう促された。


「それで今度はどうしたんじゃ。婆の知恵では倒せなんだか」

「いや、無事に倒せたんだが、アレが何なのかが分かったからもっと聞きたくて来たんだ。魔族と魔王について教えてくれないか」

「魔族……そうか、そうか」


 ラルクの話に大婆様は小さく何度も頷いたけれど、そう簡単に望む答えはくれなかった。


「人族に話すのは躊躇われるんじゃがのう」

「エルには精霊がこんなに懐いてるのにダメだっていうのか」

「まだ人の理から外れておらんからな。ラルクス、なぜまだ割命をしておらんのじゃ」

「それは……俺たち二人の問題だろうが」

「それもそうなんじゃがのう」


 やっぱり私がいると話してもらえないのかしら。席を外した方がいいのかと迷っていると、大婆様は笑った。


「まあ、良かろう。エルメリーゼを悩ませるつもりはないからのう」

「あ、ありがとうございます」


 どうもこの里の人たちに、私は好意的に受け入れられているみたい。まさか大婆様にまで気遣われるとは思わなかったわ。

 けれど大婆様は、私からラルクに視線を移すと優しい目をスッと細めた。


「じゃが、話すには一つ条件がある。ラルクス、お主と同じだけ強い者を選んで集めてくれるか」

「この里の者からか?」

「そう、四百歳ぐらいまでの独り身の者でな。見込みがありそうな者も含めて選んでほしい。話すのは、その者らも含めてじゃ」


 何を思って大婆様がこんな条件を出したのかは分からない。けれど魔族や魔王について話す相手を増やすのだから、エルフの里を挙げて対策を取る必要があるのかもしれない。

 どちらにせよ私たちには断れないから、ラルクは渋々ながらも頷いた。


「分かったよ。手合わせしないといけないから、少し時間がかかるが」

「お主には必要な時間じゃろうて」

「……余計な気を回しやがって」


 小さく舌打ちしたラルクに、大婆様はニコニコ笑っている。ラルクも子ども扱いされているという事なのかしら。色んなラルクの顔を見れて、楽しくなってくるわね。

 とはいえ大婆様も体力の限界が来たようで、うつらうつらとし始めたから、私たちは静かに部屋を出る事にした。


「エルマー。大婆様の言った年齢だと、今は何人ぐらい里にいる?」

「百人ってところかな。リーバルも含めてね」

「あいつもまだ結婚していないのか」


 リーバルというのは、ラルクたちと同世代の男のエルフだそうだ。かなり仲が良かった事が、話の端々から窺える。

 ラルクの昔の話も聞けそうで、すごく興味深かったけれど、残念ながらそれはラルクが聞かせてくれなかった。


「じゃあ、またな。エルマー」

「もっとゆっくりしていったらいいのに」

「変なことを吹き込まれたくないからな」

「エルメリーゼさん、君一人で遊びに来てくれてもいいからね」

「ありがとうございます」


 遊びに来たい気持ちはあるけれど、ラルクの顔が怖かったから無難に答えておいた。そんなに恥ずかしい過去があるのかと、かえって気になるわよね。後でお義母さんに聞いてみよう。


 そんな事を考えつつ、私たちは長老の家を後にしてラルクの実家へ戻る。

 すると先ほどはいなかった、ラルクのお父様が帰ってきていたのだけれど、そこにはもう一人男性がいた。


「ただいま」

「おう、おかえり。ラルクス」

「おっ、ラルク! ……って、うわっ! マジでエリーじゃん! 顔は違うけどそっくりだ!」

「リーバル!」


 にこやかに迎えてくれたお義父さんの隣にいたのが、どうやら先ほど話題に出ていたリーバルらしい。リーバルはなぜか突然私を指差してきた。

 エリーはエルメリーゼの愛称だけれど、顔が違うってどういうことなのかしら?

 私が唖然としていると、ラルクがその口を強引に手で塞いだ。


「何すんだよ、ラルク!」

「お前が余計なことを言うからだろうが!」

「ほらほら、二人ともケンカは外でやりなさい」


 いきなり始まった取っ組み合いのケンカは、お義母さんの一言……というか魔法での実力行使で収まった。ラルクとリーバルは強制的に家の外に放り出されたけれど、まだ外から喚き声が聞こえてくるからケンカは続いているみたい。


「ごめんね、あの子達は昔から血の気が多くて。先にご飯にしちゃいましょう」


 ニッコリ笑ったお義母さんの言葉に、お義父さんも頷いて酒を出し始める。その様からこれがいつもの事なのだとつくづく感じられて、私は思わず笑ってしまった。

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