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123:船上で

投稿時間遅くなりました。ごめんなさい、お待たせしました!

 王妃様の話を聞いた時から、すでに心は決まっていたけれど。寿命の事は、これ以上考える必要なんてないだろう。

 だってこれだけ好きなんだもの。家族も友人も大事だけれど、何よりラルクと共にいたいと強く思う。


 キャティはもうウルに気持ちを伝えたかしら。私もすぐに話をしたかったけれど、護衛依頼を受けてしまったから二人きりになれる時間は今までなかった。

 だからこの船旅は、ちょうどいい時間だと思えた。広々とした船室は二人で話すのに誂え向きだから、そろそろ話してしまいたい。


 そう思っていたのに、事は簡単には運ばなくて。船が出港すると、私はすぐに船酔いに襲われた。


「おい、大丈夫か」

「気持ち悪いわ……」

「仕方ねえな」


 船ってこんなに揺れるものだったのね。不規則な揺れに翻弄されて、ただひたすらグッタリするしかない。

 見兼ねたラルクが魔法で体を浮かせてくれたりするけれど、それだって丸一日頼むわけにもいかない。せめて自分で魔法を使えたら良かったけれど、そんな余裕すらなかった。


「ほら、少しは食べろ」

「無理よ、無理。吐いちゃうわ」

「スープだけだ。文句言わずに口を開けろ」


 少しは外も見たかったのに船室から一歩も出れない日々が続き、ぐったりしたまま開けた口にスプーンが差し込まれる。甲斐甲斐しく世話をされるのは恥ずかしいやら申し訳ないやらで居た堪れない。

 ラルクは一度も嫌な顔をせず手を貸してくれるから、優しさに涙が出そうだったわ。もう、どれだけ惚れさせる気なのかしら。やっぱりラルクと一緒にいたいと思う。私が共に歳を重ねたいのは、ラルクなのよ。


 予定では早くて二十日、遅くて三十日で東の大陸の港に着く。そんなに耐えなくてはならないのかと思うと絶望すら感じられたけれど、それもいつかは慣れるというもの。

 航海も中盤を過ぎる頃には、徐々に体調が安定し始めて。行動範囲も少しずつ増えて、ようやく甲板に出られたのは何と航海が終わる前日だった。


「本当にありがとう。ラルクのおかげで、この景色が見れたわ」

「気にするな。俺が放っておけなかっただけだ」


 昼の景色は充分に堪能し、今は夜の海を眺めに出ている。月明かりと篝火に照らされる甲板は、乗客たちが数多くいた昼間と違って、少ない船員が見張りに立つだけだ。

 ラルクに肩を抱き寄せられて一緒に空を見上げれば、星が無数に輝いて見えて、月光の落ちる海の波音が耳に響く。昼の清々しい景色とはまた違う、何とも幻想的な景色にすっかり見惚れてしまった。


 もっと早くに見たかったと思うけれど、隣にラルクがいるだけで充分だとも思える。帰りだって見れるはずだし、寿命が伸びるならさらに機会は増えるだろう。

 そこまで考えて、ふと思い出す。そういえば、ラルクと話をしなければいけなかったのにすっかり忘れていたわ。どうしようかしら、ここで話すべき? それとも部屋に戻ってからにする?

 迷っていると、不意にラルクが口を開いた。


「そうだ、エル。少し耳を貸せ」

「耳?」


 何か秘密の話でもあるのかと思ったけれど、ラルクは私の右耳に触れた。少し冷たい硬い物が添えられたと思ったら、耳の縁を覆うように嵌められる。


「何、これ」

「イヤーカフだ。明日からまた陸に上がるからな。その前に渡したかったんだ。人族はプロポーズの時、揃いのアクセサリーを贈るんだろう? まだちゃんと渡してなかったからな」

「ラルク……」


 どうやらラルクは、プロトたちの実家の商会に行った時にこれを買っていたらしい。

 私は全く気にしていなかったのに、そんな事まで考えてくれていたなんて。感激に震えていると、ラルクはフッと笑った。


「まあ、それだけじゃなく、迷子防止でもあるんだがな」

「え? 迷子?」

「これは魔道具でもあるんだ。対になっているイヤーカフのある方向が何となく分かる、という程度だがな」

「……ずいぶん実用的なのね」

「俺の手作りだ。もっと喜べよ」


 せっかくの良い雰囲気がぶち壊しだと呆れてしまったけれど、もしかするとラルクも照れているのかもしれない。

 指輪のように小さな物に魔法陣を刻むのは、熟練した職人でも難しいはずだもの。どれだけの想いが込められているのかと思うと、胸が熱くなる。

 見知らぬ大陸で逸れてしまったら、会えなくなるかもしれないもの。その不安が解消されると思えば、最高のプレゼントだと感じられた。


「俺にも付けてくれるか」

「ええ」


 渡されたもう一つのイヤーカフは、細かな文字が刻まれた銀の土台に綺麗な赤紫色の魔石が嵌められていた。少し緊張したけれど、ラルクの長い耳にそれを嵌める。

 ここまでしてくれるのに、どうして寿命の事を言ってくれないのかしら。話を切り出すなら、今しかないと思えた。


「ラルク、ありがとう」

「ああ」

「でもね、私に言いたいことはまだあるんじゃないの?」

「言いたいこと?」

「エルフ族に伝わる古代魔法、割命の秘術(ビーダアクエルド)のことよ」


 そう口にした瞬間、ラルクの顔が苦しげに歪められた。

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