12:冒険者ギルド長
「おやまあ。ずいぶん可愛らしい子じゃないかい。むさ苦しい男共が、寄ってたかって虐めるんじゃないよ」
ギルド長と呼ばれたどう見ても同い年にしか見えない女性は、ものすごく貫禄のある感じで歩いてくる。でもまさかと思うけれど、ギルド長まで私を子どもだと思ってないわよね?
「あの、私は十六歳で大人ですからね?」
「そのようだね。服はずいぶん子どもっぽいが」
「これは、サイズが合うからって頂いただけなんです」
「お下がりか。私らだと良くあるよね、そういうことは。分かる分かる」
うんうんと頷くと、ギルド長のピンク色のツインテールが可愛らしく揺れる。ギルド長はいかにも魔法使いって感じの黒地に金の刺繍が入ったローブ姿だけれど、私の着てるフリフリドレスはギルド長の方が似合うかもしれない。
そんな事を考えていたら、男たちが怪訝な顔で見合わせた。
「ギルド長の場合はお下がりっていうかお上がりだよな?」
「身長だって縮んでる方なんじゃねえか?」
「見てくれだけの子どもだもんな。本当はババアなのに」
「誰がババアだい」
ヒソヒソと話していた男たちが、急にドサリと音を立てて昏倒した。そして倒れた男たちのすぐそばには、冷たい目をしたギルド長が杖を持って立っている。
いつの間に移動したのかしら。全然気づかなかったから、物凄く強い人なのかも。ギルド長をしてるだけあるのね。
「他に何か言いたい奴はいるかい?」
「い、いません!」
「なら解散!」
ギルド長の一声でビシッと男たちは背筋を正し、倒れた仲間を引きずって奥の席に戻っていった。同い年っぽいのにギルド長はすごいわ。尊敬しちゃう。
「さて。うるさいのはいなくなったし、ウルも終わったみたいだね。ここで話すのも何だし、あんたらちょいとついて来な」
ギルド長は私たちを一瞥すると颯爽と身を翻して階段を上っていく。ラルクが小さく舌打ちしてついて行った。
「話って何かしら」
「待たせてごめんね。でも悪い話じゃないと思うよ。ギルド長は面倒見がいいから」
「あたしたちも行こう、エルちゃん」
戻ってきたウルとキャティに促され、私も階段を上る。二階を素通りして三階奥へ向かうと、ギルド長の部屋だろう分厚くて大きな扉が開かれていた。
「そこ閉めて好きなところにお座り」
部屋の片隅でお茶を淹れてくれているらしいギルド長は、こちらを見もせずに言った。
大きな執務机の前にあるソファセットに、ラルクがため息をついてドカッと乱雑に腰を下ろす。私もキャティと二人並んで座りウルも席に着くと、ギルド長は紅茶を振る舞ってくれた。
「うちの馬鹿共がすまなかったね。怖かったろう?」
「いえ、そんな」
「口に合うかは分からないが、まあ一息つきな。砂糖はいるかい?」
「このままで大丈夫です」
お茶請けにクッキーまで出してくれたので、有り難く頂きつつホッと息を吐く。ウルは普通に紅茶を飲んでるけれど、ラルクは不機嫌そうな顔のまま腕を組んで一言も喋らない。
ギルド長相手に態度が悪すぎるんじゃないかしら。さっきの人たちみたいに怒られるんじゃないかと、ちょっと冷や冷やしちゃう。でもギルド長はのんびりカップに口をつけるだけで何も言わなかった。
そう、何も言わないのよ。用があってここに通されたはずなのに何も言われないし、ラルクは刺々しい雰囲気を纏っているからどうにも居づらい。一体これは何の時間なのかしら?
キャティがフゥフゥと息を吹きかけて紅茶を冷ましているのを横目に見つつ、話のきっかけにと口を開いた。
「ええと、ギルド長さんでいいんですよね?」
「ん? ああ、そうだね。挨拶がまだだった。ここフルムの冒険者ギルドを纏めているギルドマスターのリュメールだよ。マスターとかギルド長とか呼ばれてるから、あんたも好きに呼ぶといい」
「分かりました。私はエルメ、十六歳です。エルと呼んでください。ギルド長は同い年ぐらいに見えるんですけど……すごいですね。ここをまとめているなんて」
正直な気持ちを話したら、ギルド長は楽しげに笑った。
「そう思うかい? 嬉しいことを言ってくれるね。あんたみたいな素直な子は嫌いじゃないよ」
「ありがとうございます?」
誰でもそう思うと思うんだけど、この国では違うのかしら。不思議に思いつつも褒められたので一応お礼を言うと、ラルクが呆れたように声を挟んだ。
「揶揄うのもいい加減にしろ。エル、リュメールは五十年前からここのギルド長をやってるんだ」
「五十年⁉︎」
という事はつまり、私よりずっと歳上だという事だ。赤ちゃんではギルド長になれないし、最年少でなったとして成人は十六歳だから……。
「六十六歳以上……」
「ハッキリ言うんじゃないよ。あんたが男だったら引っ叩いてるところだ」
「ごめんなさい」
「まあいいけどね」
あははと楽しげに笑うギルド長は、やっぱりどう見ても可愛らしい女の子だ。美魔女とでもいえばいいのかしら。
「じゃあどうしてそんなにお若いんですか? 人族じゃないんでしょうか」
「人族だよ、あんたと同じ純血のね。でも若い理由は秘密なんだ。私は永遠の十六歳ってことにしておくれ」
「は、はい……」
ギルド長はニッコリと笑っているけれど圧がすごい。お父様より怖いかも。さすが五十年のベテラン……この迫力は年の功なんだろうけれど言わないでおこう。怒られたくないもの。
「それでエルは、冒険者になりたいんだって?」
「はい、そうなんです」
「待て、リュメール。まだその話は決まってない」
ようやく本題に入ってくれたみたいだと喜んでいたら、ラルクがいきなり話の腰を折ってきた。もう、どうしてこんなに反対するかなぁ。