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11:冒険者になりたい

 冒険者ギルドは町の中心地から少し離れた場所にあった。近くには鍛冶屋や武器防具の店が多く、通りを歩くのもほとんどが冒険者なのだろう、男女問わず体格が良く帯剣した者が多かった。

 石造りのどっしりとした建屋は三階建てでかなり大きい。その入り口の前で、キャティとウルは私たちを待っていてくれた。


「遅いよー、二人とも」

「ごめんね、先に行っちゃって。エルちゃんには辛かったかな?」

「ううん、大丈夫よ」


 二人に見られる前に、ラルクは手を離してくれている。心配してくれたウルたちに答えつつチラリとラルクを見ると、ラルクはこちらを見ずに開け放たれた扉の奥を見つめていた。


「ウル。俺はエルと奥で待ってる」

「分かった。俺は報告してきちゃうね。キャティもエルちゃんと待ってて」


 ウルはラルクに頷くと、ギルド内へ入っていった。


 ギルドの一階は依頼のやり取りをするのだろうカウンターが入り口そばにあるけれど、さらに奥には複数のテーブルと椅子が並んでいる。美味しそうな匂いも漂っているから、食堂になっているのかもしれない。何人もの男たちが談笑しているそこで待つと、ラルクは言ってるのだろう。

 でも私は、冒険者として登録したいと思っている。どこで暮らしていくにしても、お金を得る方法はちゃんと作っておきたい。いま換金できるのは、身につけてるアクセサリーだけだから。


 それにこのフルムの町は国境に一番近い町ではあるけれど、アルターレ王国との行き来はないとラルクたちから聞いている。国境沿いには大森林だけでなく高い山があるから、この近辺からアルターレに繋がる道はないそうだ。

 冒険者になれば世界中どこででも稼げるようになるけれど、この町に追手が来る事はたぶんないだろう。だからもしお金に余裕が出来れば、森ではなくこの町に住めたらとも思ってる。せっかく自由になったのだから、やりたい事をやってみたいしね。


 すると私の気持ちを察してくれたのか、キャティが私の腕にくっ付いてきた。


「待つのはラルク一人でいいよ。エルちゃんはあたしが案内するから」

「案内? どこにだ?」

「冒険者登録の仕方を教えてあげるんだよ。ギルドの使い方も教えてあげなきゃ」

「ダメだ」


 キャティの申し出を有り難く思いつつ聞いていたら、突然ラルクが顔をしかめた。

 ラルクにはお世話になったけれど、どうして止められなくちゃいけないのかしら?


「ラルクの許可なんていらないわよ。キャティ、案内して」

「いいよ、行こう」

「おい、待て!」


 キャティと腕を組んだままギルドの扉を潜ろうとしたら、反対の腕をラルクが掴んできた。

 もう、一体何なの⁉︎


「離してよ!」

「離さない。冒険者になるって本気なのか?」


 思いの外、ラルクは真剣な目をしていたから驚いた。無視するつもりだったけれど一応魔法の師匠でもあるし、ちゃんと話しておいた方がいいかもしれない。

 心配そうに見てくるキャティの腕を大丈夫と叩いて離し、ラルクと向き合った。


「本気よ。私が魔物を倒せるのはラルクだって分かってるでしょう?」

「それはそうだが、お前の魔法でやっていけるわけないだろう。素材も取れないのに」

「訓練がてらやるから平気よ。それにコントロールの仕方は充分教えてくれたじゃない」

「教えたがまだ不十分だ。仕事なら俺が他のを紹介してやるから、冒険者はやめておけ」

「他のってどんな?」

「子守とか店員とか」

「そういうのは向いてないからいいわ。魔物を倒す方が性に合ってるの」

「だとしても危険すぎる」


 何を言ってもラルクは全然手を離してくれない。すると入り口を塞いで言い合っていたからか、奥のテーブル席で談笑していた男たちが集まってきた。


「なんだ、ずいぶん可愛い子を連れてきたな」

「迷子でも保護したのか?」


 失礼しちゃうわね。やっぱり子どもと思われるなんて。


「私は子どもじゃないわよ! 十六歳で成人してるわ!」


 ここクラーロ王国もアルターレ王国と同じく十六歳で成人の国だ。男たちを睨み上げると、面白がっているのかピューと口笛を吹かれた。


「へえ、人族の純血種か。それで孤高のエルフが手を貸してるのか」

「孤高のエルフ? ラルクが?」

「こいつはいつもソロで動いてて、滅多にチームを組まないんだ。ウルぐらいだぜ、こいつと絡むのは」


 そうだったのね、初めて聞いたわ。ラルクは意地悪ばかり言うから、付き合い難いのかしら。

 ラルクの様子をチラリと見上げたら、苦虫を噛み潰したかのように顔を歪めていた。


「余計な話をするな。それに俺たちは見せ物じゃない。さっさと席に戻れ」

「珍しいな。ずいぶんイラついてるじゃないか。もしかしてお前、こういう小さい子が趣味だったのか?」

「そういうんじゃない」

「なら別にいいじゃないか」


 ニヤニヤと笑う男たちを、ラルクが睨みつける。

 なぜかしら、このやり取りが妙に腹立たしいわ。きっとこれは小さいって子ども扱いされてるからよね?

 私も文句を言おうと、一歩前に出ようとしたのだけれど。


「そんな所で何してるんだい。邪魔だよ、退きな」

「げっ、ギルド長!」


 凛と響いた声に、男たちが慌てたように道を開けた。その先にいたのは……あら? 私と同じぐらいの年頃に見える人族の女性だわ。ギルド長って言われてたけれど、まさかこの人がそうなのかしら?

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