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始まりの日5


「ああ、一個あったな。」

「なに? そこが重要よ。きっちり説明して」

「あーでも、王家の秘事なんだよね。言っていいのかな」

「いいに決まってるでしょ。そもそも王家なんてもう風前の灯火じゃない。消えた、くらいの気持ちでいいんじゃないの?」

「言う気を無くすなぁ。まぁ伝説でも語られているから、いいか」

「いいわよ」

「エンリルの着装上限は六百秒だ」


 ビアンカはいぶかしげな顔をした。ほとんどの神殻には着装上限があったから当然と言えば当然だった。確かに六百秒は短い。が強力な神殻ほど着装上限が短い事実もあった。


「ーーそれで?」


 次晴は続けて言った。


「六百秒を超えると、神性の逆流が始まる」


 ビアンカは今度こそ驚いた顔をした。


「じゃあーー」

「うん。エンリルの中でまだ神が生きている」

「……マジか」


 しばらくその言葉を噛みしめるように宙を見たあと、次に次晴を見て、ビアンカは頷いた。


「……伝説では『神殻エンリル』については、やけに登場回数が少ないし、その時、無謀みたいな突撃をして圧倒的な力で邪神を倒しているのはそのせいね」

「そういうことじゃないかな。万が一を避けているんだと思う」

「信じる。伝えてくれてありがとう」


 そう言った後、ビアンカ教皇代理は自分の世界に入り込んでいるようでブツブツつぶやきながら宙を見ている。


「継承権は奪われていない。向こうが簒奪を主張できる根拠は薄いわけね。とにかく相手がハルザイに入る前に進軍を止めて交渉に入れればなんとかなるか……交渉には当然私とガルヒン子爵は出るとして、念のためガルヒン子爵の息子にはハルザイに残ってもらいましょう。イグナーツ王子も参加させる? それはまずいか。それになんかこうどこか私がこの王子を助けなきゃって雰囲気あるし……」


 ちらっと次晴の方を見て、それから視線が合ったことに気づいたのかビアンカ教皇代理は愛想笑いを浮かべた。。

 だが、その様子に次晴は懐かしさを覚えた。そして懐かしさを覚えたことに戸惑う。


(あれ? なんで俺はそんなことを考えてる?)


 親しさであったり懐かしさであったり、我ながら自分の心の動きが不明だ。

 だが、ビアンカ教皇代理の次の言葉に次晴は驚愕した。


「こうめいならどう動くか……」


 え?


「ちょ、ちょっとビアンカさん? 今なんて言った?」


 ビアンカ教皇代理はじろりと次晴の方を見た。


「なによ?」

「いや、いま孔明って……」

「孔明様は孔明様よ! まー、知るわけ無いわよね、あの私の心の師匠、あの天才軍師様を……とにかく私はお兄ちゃんの半熟煮卵を食べれないままこちらに来てイライラしてるのよ! 黙っていて! あんたを保護するかどうか悩んでいるんだから!」


 それからとってつけたように


「あら。ごめんなさいね。ちょっと気が立っているのは事実なので、そっとしておいてくださいね」


 だが次晴はそれどころではなかった。

 驚愕の中、必死に頭を回転させ、


「いや、ちょっと待って待って、整理するから……っていや、おかしいだろ、この流れ。どう考えても孔明は諸葛亮孔明だし、半熟煮卵は俺苦心の小山内家バージョンだし」


 ビアンカ教皇代理が目を見開く。


「え? な、なに? 孔明様を知ってるの? それに小山内家って……」


 思わず二人で見つめ合った。


「まさかお兄ちゃん?」

「もしかして真由?」

「え? え? ど、どういうこと?」

「お、お前まさか死んだのか?」

「し、知らないよ。気がついたらここに、ビアンカの中にいて……ってお兄ちゃんこそどうしているのよ!?」

「俺も気がついたらここにいたんだよ」

「でもよかった……」

「本当に……」


 思わず近寄って抱きしめ合った。

 抱きしめたらハッキリとわかった。目の前にいるのは真由だった。たった一人残された家族だった。さすがにお互いに抱きしめ合うことは久しぶりだった。両親が死に、葬式のあとに哀しみが押し寄せてきて抱きしめ合った以来だ。

 しばらくして自然に離れた。

 沈黙が流れた後、次晴はため息をついた。


「……俺は自分が死んだと思ってたから真由一人を残しちゃったのかと心配してたんだけど、これは安心していい状況なのかそれともより心配な状況なのか、どっちなのかな……」

「……そんなの私だってわかんないよ」


 そして真由はハッとして


「って、お兄ちゃんが王子ならヤバいじゃん! この国もうすぐ滅びちゃうよ!」

「……あ」

「急いでナヴァール聖王国を乗っ取るって戦略を変えないと」


 真由は怒った顔で、


「もう、こっち来てるなら先に言ってよね!」

「無理言うな」


 突っ込みを入れてから、次晴は首をかしげ


「でもこの国を何とかするのは無理じゃないか? そもそも攻めてきているのはオルティガ王国だし、攻めてきた理由もよく分かってないんだから」

「でもオルティガ王国だってラテリア教徒でしょ。私は教皇代理なんだから、その権力で何とか和平に持っていけると思うのよ」

「うん。俺もそのラインしかないかなって思っていたけど、……俺の扱いが困るんだよなぁ」

「そうなのよね……普通、こういう場合この国は代官に治めさせて王様はオルティガ王国の虜囚になっちゃうのよね。そしてお兄ちゃんをオルティガ王国の女性と結婚させたあとその子どもをオルティガ王国で教育して傀儡にしてナヴァール聖王国の王座に就かせる。そして、邪魔になったお兄ちゃんを毒殺、的な流れなんだよね……でもそんなことは私が絶対にさせないから!」

「あ、ありがとう。でも困ったなぁ」


 兄妹二人があーでもないこうでもないと悩んでいると突然激しいノックの音が響くと同時に、許可が無いまま飛び込んできたのは侍女のサマンサだった。

 王の後継者と教皇代理の会談中に許可無く侵入してきたわけで普通なら考えられない無礼だが、


「どうしたの?」


 次晴が首をかしげて穏やかに聞くとその言葉の途中で、


「王都の外に大軍が出現。城門が攻撃を受けております!」


 次晴と真由は驚愕した。

 思わず固まり、それから、


「……えーっと、念のため確認なんだけど、王都ってどこか別の国の都のことではなくて」

「ハルザイです。」


 真由はうろたえたように


「ど、どういうこと?」

「想像もつかないな……」


 数瞬、宙に視線を彷徨わせた真由は、次の瞬間立ちあがった。


「こうしちゃいられないわ。すぐに動きます。お兄ちゃ--イグナーツ王子も一緒に来てください。この場合私の近くが一番安全ですから」

「あー、でも一応最高責任者だからやらなくちゃいけないことがいくつかあるので、それが終わったら合流って言う感じでいいかな?」


 真由は驚いたように立ち止まり、それからじっと次晴を見た。

 次晴は黙って、その目を見つめ返した。改めて見ればどこか見慣れた妹の気配がその目にはあった。

 真由はしばらくして、昔小山内家で二人が口論したときに納得したときの仕草で頷いた。


「どうしても?」

「うん。責任者は責任のある行動を取るから責任者なんだ」

「……分かりました。でも必ず来てくださいね」

「もちろん」


 それから身を翻して真由は立ち去った。

 軽やかな背中をたった一日ぶりだがひどく懐かしい気持ちで見送ってから、


「さて、やらなくちゃ行けないことはあれだよね……つまり国を守ること。うーん。大変だなぁ」


 そう言って次晴も立ちあがった。

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