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扉の外16

     @


 イグナーツ王子は騎馬に乗れたわけで、そのお陰で次晴も騎馬に乗れるのだがなんだか不思議に得した感じだった。

 そんなわけで次晴は馬上で荒野を進んでいた。

 次晴が率いる騎兵は千騎。

 騎馬の一団が砂塵を蹴立てて街道を進んでいく。と言っても、次晴の周辺を走っているのは半分の五百騎で、残りは斥候として四方に散っていた。

 ビーチャム伯爵はハルザイに残した。自分がいないときも、自分がいなくなったあとも、彼にはハルザイを治め導く義務があるのだ。

 一方、荒野に出た次晴達の目的は敵の司令部を見つけ一か八か強襲することだった。

 つまり次晴にとって初めての本格的な戦闘行為だ。

 それを分かっているはずなのに、騎士達の次晴への信頼は篤かった。

 全員が次晴の指示通りに動いてくれる。もちろん作戦の目的はハルザイ、そしてナヴァール聖王国を守ることであり、彼ら自身の意にかなうということもあるだろう。だが、それ以上に、この数日の次晴の行動に支持が集まっていた。その輿望の強さに次晴はむず痒いような気持ちになった。

 四方に散った斥候は一定範囲の探索が終わったら戻ってきて報告してまた探索に赴くことを繰り返した。それによって情報は少しずつ集まってきていた。今回の場合、「何も見つからなかった」と言うのも貴重な情報だった。それによって、その方向に向かわなくてよくなるのだから、価値があった。

 もちろん、見つかった方が話が早いのは間違いないが、今のところ司令部の姿は発見できていなかった。

 もっとも、次晴達はそもそも司令部が「ある程度の規模を維持している」と言う前提で探索している。司令部も含めて一人単位までバラバラに行動していたら、見つけようがなかったが、そのことは考えないようにした。

 そもそもそのわずかな可能性にすがるしかない状況にナヴァール聖王国は陥っているのだ。

 一度だけ休み、そのあとはずっと探索を続けていた。

 そして気がつくと次晴は馬を止めていた。

 騎士達が怪訝そうな顔をしながらも馬を停止させた。

 騎士のひとり、中隊長のバランシュが、


「どうされました?」


 と次晴に尋ねた。

 だが次晴は返事ができなかった。

 空を見上げていたからだ。

 理由があったわけではなかった。

 だが空を見上げていた。

 自分でありながら何をしているのか分からなかった。もしかしてイグナーツ王子が身体を動かしているのだろうか、とさえ思った。とはいっても次晴とイグナーツ王子は完全に融合している。自分がイグナーツ王子である自覚もあるのだ。

 つまり、自分の意志とは関係なく、身体が勝手に騎馬を止め、天を見上げていたのだった。

 さらに、自然に口が開いた。

 喉の奥から声に似た何かがほとばしった。


 おおおおおおおおおおおおおあああああああああああおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。


 それは魂が引き裂かれた際の『音』に聞こえた。声ではなかった。声などと言う生ぬるいモノではなかった。魂を震わせ、空間を軋ませ、世界を砕く音だった。

 馬が一斉に騒いだ。

 騎兵達も得体の知れない何かを感じながら、馬をなだめ落ち着かせようと必死だった。

 『音』が終わった次の瞬間続けて破裂音がして、金属臭が漂うと同時に、次晴は神殻の中にいた。

 幸い、次晴が乗っていた馬も驚いて逃げ出したお陰で、神殻に潰されずにすんだ。

 一方、神殻エンリルを纏った瞬間、次晴は分かった。

 ひととびで行ける位置に敵がいた。

 それは敵以外何物でもなかった。

 倒すべき敵--。


「……ごめん。行かなくちゃいけないところがあるみたいだ」


 バランシュが馬を御しながら、首をねじ曲げるようにして遥か高い位置にあるエンリルの顔を見た。そして訊ねた。


「どこですか? 我らは殿下の部隊です。どこまでもお供いたします!」


 その言葉は、あくまで敬意と信頼に満ちていた。次晴の部下であることを心の底から確信し、揺るぎない忠誠心が感じられた。


「うーん。北というのは分かるんだけど、場所の説明はできないな。とりあえず、僕は行くよ」

「追いついてみせます、必ず!」

「うん。待ってるよ」

読んでいただいて有り難うございます。今日は連続で更新予定です。

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