14『モブ』って何なんでしょうか?
頭の上に浮かんでいる文字は、その人の職業や状態を示す文字に、余計なひと言がくっついている場合が多い。
例えば、目の前を今通り過ぎた教師は『学園教師(薄毛克服中)』と浮かんでいる。
先生、苦労されているのね。
その中でも、大多数の人に共通する文字があることに最近気が付いた。
それは『モブ』とだけ浮かんでいる人たちだ──。
モブの意味は分からないが、目立たず、努力家で、穏やかな人に多くみられる。
余計なひと言がついてない、それが注目すべき所だ。
『問題を起こさない優良物件』!!それが『モブ』!!
この結論に全身が歓喜で震えた。
すばらしいわ!!破滅もしないし、変態でもない!!
この『モブ』が浮かんでいる人たちこそ救世主なのよ!!
むしろ…『攻略対象者』とついている人たちは要注意人物なのかもしれない。
そんな人たちが傍に居るから、ルノー様は変態に目覚めたのかもしれない。
さあ、『淑女物語』の序章が始まるわ!!!
「ちょっと…これは一体どういうことよ!!」
「何ってお茶会ですわ。」
まさに…『モブ』と頭の上に浮かんでいる方たちの中でも一押しの彼に参加してもらっています!
『モブ』こと、ジル・アーノルド子爵令息ですわ。ルノー様とお家柄も釣り合いますし、アーノルド領は自然溢れる豊かな領地ですし、アーノルド様は穏やかで優しい好青年です。
アーノルド様には悪いような気がしますが、ルノー様には『問題を起こさない優良物件』の方とお付き合いすることで、如何に自分が変態なのか気が付いてもらう必要があります。
「アーノルド領では、サクラという花が有名なんですってね。」
「…え…、さくら…ですか?」
私の言葉に、先ほどまで怒りを浮かべていたルノー様の表情が変わる。
「ええ。ジュノバン様、良くご存知で。丁度ルノー嬢の髪の色と良く似た、綺麗な桃色の花が咲く木でございますよ。」
「さくら…この世界にもあったんだ…。」
アーノルド様とルノー様はサクラの花の話で盛り上がっている。
うんうん。いい雰囲気じゃない。
変態発言も、突拍子な行動も起こさず、お茶会を楽しんでいるルノー様を見ると、やはりいつもは背伸びをして無理をしていたのではないかと思う。
それがストレスとなり、変態になってしまったのね。
『モブ』であるアーノルド様は本当に凄い方だわ。緊張しない穏やかな雰囲気。庶民だった頃の彼女はきっと今みたいな只の明るくて可愛い御嬢さんだったのでしょうね。ああ、お茶が美味しい。
お茶会が終わった後、ルノー様は怖いくらい静かだった。
「どうして…。ジル様と会わせてくれたの…?」
「あなたの『(淑女)物語』に必要だと思ったからですわ。お気に召しました?」
私の言葉に彼女の瞳が揺れる。
「そう…。そういう事だったの。彼が…」
ルノー様は意味深長に呟いていましたが、風の音で聞き取ることはできませんでした。
ああ、変態発言じゃありませんように!!




