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第七章:そして、いよいよ十歳、運命の転換期

第一の転換期が訪れました。キャサリンにとっての行幸です。彼女の中にあった恐怖が彼女の口から語られる。

  十歳の誕生日を迎えて、数日後に王宮から重大発表が出された。今年の王子の誕生祝いのパーティはなくなり、王子と婚約者のお披露目パーティが開かれることになった。そのニュースを聞いた直後、私はお父様にお願いして、婚約者の名前を何回も言ってもらった。 


  その名前は、私ではない、他の令嬢の名前だった。


 ”王子の婚約者の名前は、マリア・カスターニャだよ。” ”もう一度、お願いします。”


このやり取りを三回続けた後、私は泣き崩れた。みんなは慌てふためいていたけど、これは嬉し泣きだった。その後、泣きつかれ、ぶっ倒れた。三日間、熱が下がらなかった。その熱が下がったとき、私は清々しい気分だった。私の最大の恐怖は去ったのだった。


 あの極悪非道なヒロインは、確実に第一王子を狙ってくるのは分かっていた。そして、その婚約者が彼女の最大の標的であることも、分かっていた。その標的でありながら、彼女に対抗するのは不可能なことも分かっていた。だから、第一王子の婚約者には絶対になりたくなかった。でも、どう避ければ良いのか分からず、そうなった場合に少しでも対抗できるように、自分を鍛えるしかなかった。そして、この朗報。予測していなかっただけに、驚きであり、同仕様もないほど嬉しかった。神に祈りを捧げたくなるほどに。


 家族への説明は結構大変だったけど。婚約発表を受けて、私が泣き崩れ、ぶっ倒れたので、家族は私が王子の婚約者になれなくて、ショックで倒れたのかも、と誤解をしていたから。


  その家族も、私が熱が下がって起きたときの私の清々しい、極上の笑顔を顔に浮かべているのを見て、私が嬉しかったのだ、と思い直してくれた。理解が早くて助かります。


  しかし、お兄は、私の狼狽ぶりが常軌を逸していたので、その理由を眼力で聞いてきた。私は悩みに悩んだ結果、お兄に受け入れられるように、この世界の常識でも大丈夫なように話すことにした。


 ”お兄様、聞いて頂きたい事があるのですが、お時間を頂いても宜しいですか?”

私がそう切り出した、朝食後、おにいは全ての予定をキャンセルして、


 ”もちろんだよ。お前より大事なことなどないのだから。”



予知夢としてのシナリオの暴露


 ”五歳の時から、突然夢を見るようになったのです。それは、とても怖い夢でした。私は怖くて怖くて仕方がありませんでした。”


(この五年間、私は恐怖というものに飲み込まれそうになっていた。こんな恐怖は、前世では味わったことなどなく、どうすれば良いのか分からなかった。前世の私は、比較的、順風満帆な人生を送ってきた。優しい家族、友達、先輩、後輩、先生、とても良好な人間関係。自分が興味を持ったものには、何でも挑戦させてくれた。ピアノ、合気道、そろばん、習字。高校三年になってからの進路も、自分で決めて良い、と言われ、必要なら塾に行っても良い、とまで言ってくれた理解ある両親。乙女ゲームにハマっているが、家族や友人を大切にする妹、私にもとてもなついていてとても可愛い妹だった。残念ながら、恋愛には疎く初恋さえまだだったけど、大学に入って趣味が同じ人にあってからでも良いと思っていた。突然、事故にあって死ぬことになったけど、大事な妹を守れたのだから、後悔はしていない。とても、良い人生だったと思う。しかし、現世で五歳で記憶を取り戻してから、そして、あの鬼畜なヒロインのいる乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったと気づいてから、私は恐怖に取り憑かれてしまった。


何もしていないのに、いつの間にか悪役にされ、冤罪なのに私の知らない所で、勝手に積み上げられていく証拠の数々。そして、全ての人に見捨てられ、無実の罪なのに断罪され、一人で取り残される。家族も冷たい目で私を睨み、捨てた。そんな中、修道院に行くための馬車に乗せられ、道中、暗殺された。強盗殺人と見せかけていたが、あれは、あの鬼畜ヒロインの所業。相手を完膚無きまでに踏み潰し、そしてただ破滅させるだけではなく、命まで狩る悪魔。


怖かった。全てが敵だと思える程に。優しく、私を愛し支えてくれる現世の家族でさえ、完全に信じることができなかった。恐怖のせいで、常に疑心暗鬼の状態だった。年々、家族への信頼、愛情は増えてきたけど、それでも、最後には裏切られて捨てられる、という恐怖が私の心に重くのしかかっていた。


その恐怖が半減したのは、あのニュース。王子が別の人と婚約した、というニュース。私は歓喜した。それと同時に様々な感情に押し流された。恐怖の根源であった王子の婚約者=鬼畜ヒロインの一番の標的、これが取り除かれた。人生最大の僥倖であった)。


私の顔は恐怖に引きつり、体は小刻みに震えていた。お兄はそんな私を優しく抱きしめてくれた。先を急かせられることなく、優しく私が落ち着くのを待ってくれた。そんなおにいの優しさに、私の心は段々と落ち着いてきた。そして、私は続ける。


 ”夢の中、私は十五歳で、王立学院で婚約者である第一王子と学友たちと平凡な毎日をすごしていました。第一学期の途中で、一人の学生が転入してきました。その人は、女性で同じ十五歳、チェリーブロンドの髪と空色の瞳のとても美しい女性でした。その方は、その時は男爵令嬢でしたが、元々は、平民としてお母様と二人で暮らしていたそうです。男爵家の子供が流行病でなくなり、跡継ぎがいなくなってしまったので、突然男爵家に迎え入れられる事になったそうです。それが、一年前で、この一年で貴族令嬢としての立ち居振る舞い、礼儀作法、学業、ダンスなどを叩き込まれたそうです。この令嬢は、一気に男性からの支持を集め、学院での注目を一身に集めていました。婚約者のいる男性からも、好意を寄せられ、その婚約者たちからも反感を買っておいででした。私は殿下とは政略結婚ですので、そこまでも感情はなかったのですが、周りは騒いでおりました。そして、事あるごとに、私は彼女の嫌がらせの犯人にされてしまいました。私の否定の言葉を聞いてくれる人は一人もいませんでした。”


 ここで、悲しくなり、おにいを見つめ、涙しました。


 ”私もお前を責めたのかい?”


 私は肯定も否定も出来ずにただ涙を流すだけ。


 ”夢とはいえ、お前を泣かせるなど、自分が許せない!” と強く抱きしめてくれました。


 それは、このおにいがゲームの兄とは違うことを証明してくれた。何も言わずに私を理解してくれ、私の気持ちを思いやって抱きしめてくれる優しいおにいだったから。


 それに勇気をもらって、私は続けた。


 ”その一年後、私は皆の前で断罪され、殿下からは婚約解消と退学を言い渡されました。家に戻ると、両親が待っており、修道院送りを言い渡されました。その道中、侍女が一人だけついてきてくれました。私が修道院に到着することはありませんでした。私と侍女は野党に襲われ、殺されました。”


 ”この殺される瞬間の恐怖、体を貫く刃の冷たい感覚、痛み、血が溢れ出る感覚、徐々に冷たくなっていく体、全てが現実であるかのようでした。”


私はお兄に必死に縋り付く。まるで荒波に流されながら、一枚の板に縋り付くように。そんな私をお兄は強く抱きしめてくれた。私は滝のように後から後から流れてくる涙を流し続け、お兄にしがみついていた。お兄は黙って私が落ち着くまで私の背中を宥めながら待ってくれた。

このとき、私の中にあった恐怖の殆どが涙と伴に私の外に流れていった。お兄の愛情を真っ直ぐに受け止めながら。


恐怖とは厄介なもの。恐怖心のせいで、私はお兄や両親、その他の人たちの愛情を受け止めることが出来なかった。いつも疑心暗鬼で、真っ直ぐに受け止める事が出来なかった。いつも、”こんなふうに言っていても、所詮、最後には私を裏切り見捨てるのだ、だから信用してはダメ”と自分に言い聞かせていた。とても相手にとって失礼な話である。相手はきちんと愛情を注いでくれているのに、受け取らずに弾いてきたのだから。あの恐怖心が殆ど抜けた今なら分かる。本当に、恐怖というものは厄介な存在である。


  お兄が全面的に私を受け入れてくれたことに支えられ、お兄の勧めどおりに私は両親にも打ち明けた。お兄と同じように両親も受け入れてくれた。私の中から恐怖が涙とともに流れ出た。恐怖から開放された瞬間だった。私には私を受け入れ、支えてくれる家族がいる。この事は私を強くしてくれた。私はみんなにありがとう、ありがとう、と繰り返し頭を下げた。絶望的に見えていた未来に光明が射した。


キャサリン抜きの家族会議


  泣きつかれて眠ってしまったキャサリンをお姫様抱っこでラルフは彼女のベッドまで運び、静かに寝かせ、彼女の侍女に後を頼んだ後、両親のいる部屋へ戻った。


  三人とも意見は一致していた。キャサリンを脅かすその根源である少女を探し出し、その動向を探り今後の対策を練ることだった。キャサリンが言ったことが真実かどうかの話し合いなどなく、そのまま対策会議がスタートした。


  マリーザが優雅な微笑みで、”その少女を探しましょう。” と言うと二人の隠密が突然現れて、”先ほどキャサリンが描写した少女の情報をお願いね!” と言ったと同時にその二人が視界から消えた。


  ラルフが、”それにしてもおかしな状況です。まるで、その少女が中心に世界が動いているかのような感じでしたね” と少し眉を潜めて言う。


  ライアンが、”魔術省の長官に少し、’魅了’について確認しておいた方が良いかもしれないね” と呟く。


  三人三様やることが決まったので、”それでは、情報が集まり次第、家族会議を行おう!”ということで、その日の会議は終了となり、その場を後にした。

  三人ともやる気満々であった。


いよいよ、懲罰部隊の結成、対策本部の結成。ゲームではプレイヤーが名前の選択が可能な為、名前では割り出しが不可能。でも、外見とその他の情報を元にキャサリンの家族は、ゲームのヒロインを見つけられるのか?

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