第四話:事前準備の最終確認と役割設定。
さあ、王様たちと最終確認と役割設定をすませるぞ。王宮生活を快適に暮らせるように手を打たなきゃ。王子様に会う前に、きちんとしておかなきゃ、治療にも影響がでるからね。
翌朝、目が覚めると、私はベルを鳴らして、侍女達を呼んで、着替えと朝食を済ませた後、外で警固していた、ノフマンに昨日のメンバーでの会合を申し入れてもらった。ノフマンは、 折り返し、会合の場所への案内役&護衛として、私を会合場所へ連れて行ってくれた。
会合場所に到着すると、既に昨日のメンバーが集まっていた。初めは、王様も含めて皆さん、リセットされたように、神様に対する態度で、私に接してきたので、私は優雅に微笑みながら、王女然としてさり気なく釘を刺しておく。
“嫌ですわ、お父様も皆様も。お忘れですか?私は、シュナイダー王の娘で、皇女です。神やその眷属ではないのですよ。(もちろん、お分かりですよね!)”
さり気なく、目力を加え、一人一人を見ながら、ゆっくりと強調するように言った。
すると、
“そうであったな。ありさ。すまなかった。我等の不調法を許してくれるか?”
さすが、一国の王。切り替えが早くていらっしゃる。助かります。私は普通に笑みを深めると、
“もちろんですわ、お父様。昨日は色々あって、混乱してもオカシクナイ一日でしたものね。それでは、混乱をなるべく最小限に抑えるための話し合いを致したいのですが、宜しいでしょうか?”
昨日の要約と今後について促すと、
“それでは、皆のもの、席に着いてくれ。ありさは私の隣に座ってくれ。皆はいつもどおりにかけてくれ。”
王は合いの手を打ってくれた。円卓のテーブルに、其々腰を下ろした。
役割分担と設定
話し合いと言いつつ、これは、私がみんなにして欲しいこと、役割を伝えるもので、完全な一人舞台であった。
“お父様は、妻は亡き王妃唯一人と公言されるほどの愛妻家でいらっしゃいますよね。”
“その通りだ。”四十くらいの金髪碧眼の美丈夫さんは、年甲斐もなく、初心な感じではにかんで、でも誇らしそうな笑顔で答えた。(本当に、王妃様の事、愛してたんですね!というか、今でも愛しているんですね。ご馳走様です)。
“それなのに、突然、王妃以外から生まれた子供が現れたら、オカシイですよね”
“そうだな...”王様は、首を傾げ、少し遠めになる。
“そこで、お父様には妖精の妻を娶って私を授かったと言うことにして頂きます。そうですね...お父様は、日々弱っていく妻にも、自分の魔力の扱いに苦闘している子供にも何もしてやれず、日々悩んでいらっしゃった。そんな時、一人になりたいと訪れた湖の畔で後に私の母になる妖精に出逢った。何かに縋りたかったお父様は、突然現れたとても美しく賢く慈悲深い妖精に心惹かれ、恋に堕ちた。しかし、お父様は、妻を裏切った事に酷く罪悪感を感じていらっしゃった。そして、その妖精も人との隔たりがある現状では、人との共生は不可能なことを感じていた。二人は愛し合っていながらも、別れる決意をして、別れた。その後、妖精の世界で女の子と一人産み、楽しく平和に過ごしていたが、この度、その妖精は病で死に、一人残された女の子は父に会いたくて人の世界にやってきました。これで、どうでしょう?”
王様は、少しぎょっとした顔をして、私を繁々と見つめてきた。
“お父様、大丈夫ですか?何か、問題ありますか?”
“いや、問題というか......なぜ、余がどのように苦悩していたのか、一人になりたくて、宮殿を抜け出したことを、その場にいなかったそなたが知っているのかが、不思議なだけだ。”
“お父様、ご心配なく、私は人の心が読めるわけでも、遠見ができるわけではありませんから。ただ、人や状況から情報を得るのが得意なだけですから(一を知り、百を知るみたいな)。
“そうなのか?それなら、どういう風に、どんな情報から、その結論になったのか、教えてもらえるか?”ここで、王様は、やっと王様らしく、抜け目なさそうな、相手を見極めようとする目で、私を捕らえた。
“それなら、簡単ですわ!昨日のお父様との話で十分な情報が得られましたから。”
“昨日の話とは、十五分にも及ばぬような話からか?”
“そうですよ。お父様がお母様とお兄様について語っていた時の声の調子や、表情から、彼らをどれ程、大事に思っていた、いえ、思っているかは、十分伝わりましたから。”
ここで、お父様だけでなく、他の人々からの視線を強く感じた。
“お父様は、亡き王妃様を唯一人の妻として愛していて、それは、王妃様が亡くなってから五年経った今でも変わらない。臣下に新たに妻を娶るように言われても、王妃様を裏切る事など出来ないお父様は断固拒否。(普通の立場なら純愛で済むけど、一国の王様で、王子一人しかいなくて、その王子様が問題を抱えていたら、もう少し自分の立場を振りかって欲しいところだけど、今はそれを言及する時ではないので、後回しでOK)。愛する妻にも子供にも幸せでいて欲しい、苦しんでも悲しんでも欲しくない、それなのに、一国の王としても、一人の男としても、それを可能にする事が出来ない。そんな自分が不甲斐なくて、情けなくて、でも、どうする事も出来ない。特に、王妃様が、目に見えて弱ってこられた十年前、その母親が自分のせいで弱っていく現状を目の当たりにして日々落ち込んでいく子供、それをどうする事も出来ず、何を言えば、すればいいのかも分からずに立ち尽くすだけの自分。誰にも言えず、でも、王としの責務は休む暇なく日々押し寄せる。どうにもならなくなって、一人になりたくなって、夜、城から抜け出し、現実から逃げ出して一息吐く。そして、朝はまたやってきて、同じ事の繰り返し。と言ったところでしょうか?”
“その通りだ。”王様は、複雑そうな顔をしながら、でも、少しだけ、安堵したように、長い息を吐きつつ、声を絞り出した。
他の皆さんは、知らなかったのか、驚いた顔で、王様を見ていた。(弱みを見せずに、強い王様を演じてきたんだろうなぁ。よく、重荷に潰されなかったよね。よくがんばりました!もう、大丈夫!一人じゃないし、王様や王子様や、この国を大事に思っている人はたくさんいるみたいだし。王様と、多分、王子様は、一人で頑張り過ぎちゃうタイプみたいだから、もう少し、他の人に頼れるようにならないとだね。)
と心で思いつつ、王様を見つめていると、私の意図することがわかったのか、
“ありがとう、ありさ。本当に、ここに来てくれてありがとう。”
と満面の笑みを浮かべてお礼を言ってきた。私は、それを了承するようにゆっくりと頷いた。
そして、数秒後には、王様は普段の王様の顔に戻って、私の提案した設定に話を戻した。
“先ほどの設定なら、影で側室を迎え、実は子供一人設けていた、と言うよりは受け入れやすい。”
“お父様、ご了承ありがとうございます。これから、私をお兄様にご紹介して頂きますが、私とお兄様を見るとき、両方に対して‘母を亡くして不憫である’という憐憫を示して頂きたいのです。宜しいですか?”
“それは、必要な事なのだな!”
“はい、とても重要で必要不可欠でございます。”
“了解した。”
そして、私は、他のメンバーに向かって、
“それから、皆様方、私は、この国の王様であるお父様と妖精であるお母様の間に生まれた混血児です。この度、母が亡くなりましたので、父親である王に会いに参りました。人間の世界の 常識には疎く、理解できないことをするかもしれませんがそういうことですので、ご理解頂けたら、幸いです。”
と微笑みながら目で (そういうことなので、皆さんも他の人に聞かれたら、宜しく!)確認と了承を取っていった。
“もう一つ、重要な事がございます。私は、ここに永遠に滞在するわけではありませんので、なるべく関わる人の数を最小限に抑えたいと思っております。その点、皆様のご協力をお願いしたいのですが。”
皆が、一斉に了承の意味で力強く頷く。
“ありさが望む通りにしよう。”
“ありがとうございます。一先ず、護衛の方がお一人と、世話をしていただく侍女もしくは、女官が一人か二人、後、こちらでの常識を教えて頂ける教師をお一人、ぐらいですね。”
“それだけで十分なのか?”
“はい、十分です。”
“あっ、もう一つ、王女としての外交、社交、などはご遠慮させて頂きますね。”
“もちろんだとも。そなたは、母を亡くして喪に服しておるのだ。なるべく、人とは会わずにいてもおかしくはない。よう皆の者もよいな、王女は母を亡くしたばかりなのだ。そっとしておくように。”
“はっ!御意!”皆さん、声を揃えて一斉に。さすがです。
王様は、視線を騎士の方々に向け、
“護衛に関して、其の方らに頼めるか?”
それを受けて、三人は目で語り合い、ノフマンが立ち上がり名乗りを上げた。
“その事に関しましては、私、ノフマンが拝命したく存じます。”
“分かった。これより、ノフマンが、我が王女ありさの専属護衛とする。”
ノフマンは、私の下に来て跪いたので、私も立ち上がり彼のほうを向いた。そして、彼は、私の右手を取り、彼の額をつけ、私に中世の誓いを立てた。私はそれを受け、
“ノフマン、これから、宜しくお願いしますね。”
“はっ!”彼は深く頭を垂れた。そして、私が座りなおすと、彼は私の後ろで直立不動で控えた。
“世話役については、昨日から世話をしていた二人に継続して貰うことにするとして、教師には、...そうだな、カウンゼル、其方に頼めるか?”
“はっ!そのように手配致します。”
“それでは、皆のもの、ありさの事、頼んだぞ!”
こうして、最終確認、役割設定が終わった。
さあ、いよいよ、王子様、いいえ、お兄様との対面ですね。