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新月8
ナイジェルは一度、大きく息を吐いた。
「このまま戦場に行って、多分私はもう二度と戻ってこられないだろう。別にそれを怖いとは思わない。ただ、ふと思うことがある。何のために死ぬのか? 家の名誉のためか? 国王陛下のためか? 誰かに操られて、そして死ななければならない。君はもうすぐ自由になれると言ったが、あの家に生まれた時から私には自由なんてものは始めから無いのだ」
言いながらナイジェルは不思議に思った。何故私は今、こんなところでしゃべっているのだ。行きずりのただの酒場の踊り子に向かって。こんな事を言って何になる。今夜の私はどうかしている。さっきの酒のせいか?
娘は大きく首を振った。
「いいえ、あなたは死なないわ。あなたのようなたくましい方が、そんなに簡単に死ぬなんてありえないわ」
「ありがとう、なぐさめてくれて。でも本当の戦争はそう簡単なものじゃないのだ」
ナイジェルは洗った袖口を絞り、広げてみた。このまま着て帰れば、夜風に吹かれて屋敷に戻るまでの間には乾くだろう。
しばらくそれを見ていた少女は、突然独り言のように話し始めた。