第七話
七
田神、宮口、鳥井の三名は、しばらくその場で押し黙ってしまった。次は誰がしゃべるのか、そして何としゃべるのか。お互いの様子を窺うようにしながらのそんな時間が一、二分続いた。しばらくして鳥井が、何やら足元を気にするようにソワソワとしだし、やがてその場にしゃがみ込むと、周辺の床を一所懸命に何かを探し始めた。
「ん……、何や? 落としもんか?」
田神が床にへばり付くようにしている鳥井へと声をかけた。今気付いたが、足元は真っ暗である。田神は思わず上を見上げたが、もちろんその視線の先にある蛍光灯に灯は点っていなかった。
「あっ、踏んでる! 潰れてまうやんか!」
「えっ?」
鳥井に脚をバシバシと叩かれて、田神は叩かれた脚をさっと持ち上げた。鳥井は何やらブツブツと言いながら田神に踏まれていたそれを取り上げると、自分の足へと持っていった。それは革靴である。田神はどうやら踏んでいたことに気付いていなかったらしい。
「すまんな……。そうか、靴、履き替えてる最中や言うてたっけなぁ」
今まで鳥井の足には片方だけにしか靴がなかったのである。ようやく今もう片方を履き終えた鳥井は、その調子を確かめるかのようにつま先をコンコンと打ち鳴らした。その仕草その様子からは、先ほどまでの怯えきっていた頃に比べると、随分と落ち着きを取り戻した印象を感じ取ることが出来る。
「……もう、話してもええよな」
その鳥井の様子を横目に、田神は一度宮口にそのように同意を取ってから、慎重な面持ちで鳥井へと向き直ると、今度は自分たちの体験、この昇降口に至るまでに体験してきたことを、鳥井へと話すことにした――。