第三話
三
「せっ、先生、なんかおかしいと思いません?」
田神は不意に、中水がまだ教室から出てきていなかったことを思い出すと、教室内に向けて、そのように問いかけた。
…………。
しかし返事は無く、代わりに答えたもの、それは無音。
「……せ、先生?」
今度は宮口が問いかける。その語尾が震えていたように田神には聞こえたが、おそらくそれは気のせいではなかっただろう。
……………………。
だがその問いかけにも再び無音が『饒舌』に答える。
開け放たれたドアから垣間見える教室内は、ここ廊下よりもさらに暗いように思えた。だが、暗いとはいえ全く見えないというわけではない。もし教室内に誰かいたならば、当然それは確認できるはずである。そう、誰かいれば。しかし、再度注意深く3年2組の教室内を探る田神の目には、もはや誰の姿も映ることはなかったのである。
「……おっ、おい、おらへんぞ!」
その異変に対し、田神は鋭く叫んだ。
「……なっ、なんでやねん!?」
同じく教室内を探っていた宮口も焦ったようにそう応える、危うく舌を噛みそうになった。
彼らは恐る恐る教室内へと入って行くと、さらに注意深く周囲を見渡してみる。だが、そこにあるのは机と椅子と教卓ばかりであり、中水の姿はどこにも見当たらなかった。教室にはドアが前と後ろに二つある。田神、宮口らが出て、そして再び入ったのが後ろのドアである。ちなみに前のドアはぴったりと閉まったままであり、もし仮に中水が前のドアを使用したならば、その開閉音に気付くはずである。中水は確かにまだ、この教室から出てきていないのである。しかし、その姿はどこにもない、そう、それはまるで忽然と消えてしまったかのように。
「どっ、どないなってんねん……!?」
噛んで掃き捨てるように言う田神。宮口は徐々に激しくなるその鼓動に思わず右手を胸へと押し当てた。彼らは未だ目の前で起こったその出来事を理解し難い思いでいた。ひょっとして中水が自分たちを驚かそうと、どこかに隠れているだけではないか、とも思ったりした。だがその考えは間違いであったとすぐに判る。それは何故か? それは、聞こえたからだ。悲鳴が。どこか遠くからではあったが、確かに彼らの耳に悲鳴が、決してふざけて出しているのではない、恐怖に打ち震える女性の悲鳴が聞こえてきたのだ。
「なっ、なんや!」
田神は大きく目を見開くと、教室内から飛び出した。その悲鳴は遠く小さいものであったが決して聞き間違いではない。その証拠に間もなく、また再び聞こえる悲鳴。そして今度は悲鳴と共に何やら言い叫ぶ声までが聞こえてきた。遅れて廊下へと出てきた宮口に田神が言った。
「これ、鳥井やで……!」