冒険者になりたい市長
ティアーヌに助けを求めるような視線を送るギルドマスターを目を閉じて無視するティアーヌ。
質問したのは俺なのだから俺に確認するのが早いだろうにという気持ちから親指で二度強く自分を指さすと、ギルドマスターは胡乱げに俺を見た。その視線を受けて口を開く。
「とりあえず俺は何も知らない、そして何も分からない人間だから、そこを踏まえた上で色々教えて欲しい。宜しく頼む!」
とりあえずニカっと頬を吊り上げて白い歯を見せるとギルドマスターは再度ティアーヌを見る。するとティアーヌが軽く息を吐いてから頷き、それを見たギルドマスターも諦めたように口を開いた。
「えぇと……それでは、何から教えたら良いでしょうか? とりあえずギルドについてとか利用方法とかで良いですか?」
「うむ! 宜しく頼む!」
「はぁ。では……当ギルドでは様々な依頼を冒険者の方に斡旋しております。
これはお上からの依頼や市民からの依頼などをギルドがまとめる事により分かりやすく、効率良く達成していく為です。」
「一元化してあると誰にとっても良いものな!」
「そうですね。
依頼主の方も頼みたい事と報酬を当ギルドに伝えるだけで手早く欲しい人手や品を得る事ができます。
冒険者にしても多種多様な依頼がある事で、自分に合った仕事を得ることができます。
報酬に関しても当ギルドが中間に挟まれる事により、どちらも面倒なやり取りをせずに済みますし、踏み倒される心配もなく安心感が得られるというメリットもあります。
もちろん中間手数料というデメリットも発生しますが安い物でしょう。」
「ちなみに現金のやりとりはどのような? 保証書の発行的な?」
「仕事の内容によりますね。
もし品物を手に入れて欲しいという内容であれば、ギルドに納品して査収後に現金で支払いますし、護衛任務などの場合は冒険者からの任務終了報告後にギルドが依頼主に齟齬がないか確認を取って遂行度合など査定を行いますので、支払までに日数がかかります。」
「物を納めたら即金。人が絡むものは収入までに時間がかかるんだな。なるほど。ちなみに冒険者の金はギルドが預かったりとかはしたりするのか?」
一瞬チラリとティアーヌを見てからギルドマスターは口を開く。
「いいえ。依頼人からの報酬の預りはしますが冒険者個人の金銭を預かったりなどはしません。
依頼人から預かった金銭だけでも手間なのに、冒険者個人の金銭管理までなんて面倒とトラブルを考えるだけで眩暈がしますからね。」
「それもそうだな。で、現金ってのはどんなのだ?」
「は? 普通に銀貨とかですが……えっ?」
「ほっほう。流石定番ファンタジー。あれかな? 明らかに金よりも価値があるだろうミスリルやアダマンチウムとかがあるにも関わらず、なぜかそんな重要金属が貨幣に使われずに金貨、銀貨、銅貨に鉄銭なんかの金本位制度が採用されている的な?」
「え? あ、はぁ。まぁ、はい。金貨、銀貨、銅貨に鉄銭ですね。さらに上の白金貨なんかもありますが。」
「でwたw 白w金w貨w」
「……」
おもわず膝を打ちながら笑う。なんでこの時代の利用価値が低いだろうプラチナが純金よりも高価な認識なんだよw
そんなことで一人笑う俺をティアーヌと騎士モブ、そしてギルマスが変な顔で見ていた。
「ん。すまん。ちょっとツボった。なんで謎金属の方を使ってないんだよ的な笑いだから気にしないでほしい。」
「はぁ。」
「では冒険者として依頼を受ける際に必要な事は?」
「そうですね。まずは当ギルドの冒険者として登録してもらう事になります。登録後会員証を発行しますが、これは本人しか使えない偽造防止のされた会員証なので無くさないように注意ください。」
「でwたw 偽w造w防w止w」
「……」
また膝を打って笑う。偽造防止技術が確立されているのに、なんで貨幣制度なんだよw
偽造できないカード作れるなら、それを紙幣にすればいいじゃんw 価値の高い他にも利用できる金属をわざわざ貨幣にする必要ないじゃんw
またクックックと笑う俺をティアーヌと騎士モブ、そしてギルマスが変な顔で見ていた。
「ん。すまん。なんでそっちに技術力磨いた的な笑いだから気にしないでほしい。」
「はぁ。」
「冒険者登録には試験がありますので、それをクリアする必要があります。
ギルドカードは身分証にもなりますし、ギルドへの貢献度によりランク付けがされていてランク上位者は優遇措置を受けれたりしますが一般市民からも尊敬されます。」
「身w分w証w ラwンwクw」
「……」
試験一つで後ろ盾ができちゃう異常地帯w
中世なのにw ここ中世レベルなのにww 即一般市民並みの力を持てるとかワロスwww
さらにラwンwクw ギルドはどんだけ都市に対して影響力もってんだよw
「んくくく」
笑いをこらえていると、ふとピンと閃く事があった。
「待てよ……ということは、力を持っている者が……より強い者が上に集まっているということか?」
真剣な顔でギルドマスターに問う。
「え、ええ。まぁSランクにもなれば貴族様と同等の権利を持つ冒険者と言えるでしょう。
実際に領主のように活躍する元冒険者もいます。」
俺の急な雰囲気の変化にギルドマスターは狼狽えながらもそう答えた。
なんということでしょう。
力を示し続ければ、街を支配できる可能性もあるという事。
つまりリアル市長になることも夢ではないということだ。
真・暴力市長へ至る道が開けたのだ。
俺はやる気に震えた。
「よぅし! 俺は冒険者になるぞ!」