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ギルドに突入市長

「デヤァ!」

「グワー!」


 バックドロップ。


「デヤァ!」

「グワー!」


 バックドロップだ。

 距離感皆無掴み投げを繰り出しまくる。



「あああ! もうっ! わかった! わかりましたから止めなさい!! ギルドにさえつければいいんでしょう! 貴方たち! 責任は私が持つからそこをおどきなさい! これ以上無駄に怪我をする必要もないわ! どいて!」


 ティアーヌの声に『助かった……』とばかりに衛兵たちが割れて道が開かれてゆく。

 こうなってしまってはもうデヤァもできない。流石に無抵抗な人間をデヤァして楽しむほど嗜虐的な性格ではないからだ。


「ふむ……門番ご苦労さまです!」


 今日一番の笑顔を作る。

 笑顔を向けられた衛兵の顔はヒクついている顔しか見当たらない。ティアーヌの顔も胃でも痛そうな表情だ。

 とにもかくにも場が収まった事でティアーヌが大きくため息をついた後、口を開いた。


「……この大男の事は私に任せて貴方たちは、もう業務に戻りなさい。

 あ。そうだったわ。街道沿いで山賊に襲われたの。とりあえず沈静化しているけれど至急援軍を送ってちょうだい。それに壊れた門の手配も。」

「はっ!」


 門番たちの中で上官だろう男が返事をし下の者達に次々と指示を出してゆくと、降って沸いた大量の仕事から衛兵全体がバタバタと動き出し、あっという間にこの場から衛兵たちの姿がなくなった。


「ほう。指示を受けてのキビキビとした行動。中々の練度の高さを感じるな。素晴らしい。」

「そうでしょうね……私からは貴方から逃げたい一心で蜘蛛の子を散らすように動いている風に見えないでもないけれどもね。」


 ティアーヌの白目を剥きかねない程に上を向いた視線をチラ見しながら、今ティアーヌから放たれた言葉を思い出す。


「しかし『沈静化』か……レベッカはどうしたんだ?」

「あら? 興味を無くして立ち去った人間とは思えない口ぶり。あの山賊女のことが気になるのかしら?」


 打って変わってティアーヌの品定めをするような目。

 ここでの回答によって様々な価値観を計られているような気がする。


 ティアーヌの様子からも、あの後ヒーローがやってくる事は無かったように思える。

 ということは俺が抜けた分、傭兵・騎士モブが3人多いから戦力的にレベッカは不利になったことだろう。そして立ち位置が山賊だからレベッカを助けるヒーローが現れる可能性は限りなく低い。現にティアーヌと傭兵・騎士モブが一人ここに居ることからも、それは理解できる。となれば貴族を襲った山賊がどうなったかくらいはお察し。


 もし、あの不明な存在の言うようにここが『定番のファンタジー世界』であれば『鉱山送りだー』的な刑で拘束されて生かされている可能性があるが、普通に考えればその場で斬首だろう。なんせ貴族に楯突いた下民だからな。ん? たしか中世では処女の死刑は違法で許されないことだったから殺される前に強姦されているのかもしれない。なんということだ。


 まぁ……そんな事を言っている俺もまた貴族に楯突いた立場で危うくはあるのだが、ティアーヌの一定の評価は得ているし、それに転生者というステータスも持っているから、普通の者と違ってちょっとは特別なはず。なにせ俺はデヤァ。暴力市長なのだから。山賊などと一律の扱いにはならないのだ。たぶん。


 そんな事を考えている間もティアーヌの値踏みの視線は続いていた。

 色々面倒なので無視する事にする。


「さて、道も開かれたしギルドに向かうとするか。」


 歩きだしながらチラリとティアーヌを伺えば、動く事も無く値踏みの視線のまま表情に何の変化も無い。


「貴方……ギルドの場所は分かってますの?」


 俺の返答や行動を気にする素振りも無いティアーヌの言葉にピタリと歩みが止まる。


「うむ。わからん。

 だが、とりあえず歩いていれば辿りつくだろう。」

「貴方……なんとなく分かってきたけれどバカでしょう?」

「失敬な。」

「その『失敬』が『礼や敬意を欠くこと』を言っているのなら、礼や敬意をつくされる行動をとっていたか胸に手を当てて振り返ってごらんなさい。」


 サッカー日本代表のように胸に手を当てて目を閉じる。

 振りかえればそこにデヤァがあった。

 だが俺はこれまでのデヤァを通して気づいてしまったのだ。


 好き勝手することは楽しい。

 そして楽。


 内心で色々と考えてはいるけれど、その時の思うままに適当に動く事のなんと愉快で快適なことか。

 これに気づいてしまった以上、俺はバカと言われようが、この生き方を貫く。

 なにせデヤァという力を持っているのだ。これを最大限有意義に利用してこの世界を楽しみ尽くしてやるのだ!


「うむ問題無いな! よしギルドに行くとするか!」

「はぁ……野放しにもできませんからね。

 仕方ありませんから案内してあげましょう。」

「ほう! 助かる!」


 ティアーヌの申し出は好都合なので案内してもらった――




「デ――」

「開きなさいエイブリー! コイツがドアを壊す前に!」

「はっ!」


 ギルドらしい建物に到着し、そのドアを前にして開こうとしたところ、ティアーヌの声が響きすぐさまエイブリーと呼ばれた傭兵・騎士モブがドアを開いて俺を迎え入れてくれた。


 どうやら道中、俺が進むのに邪魔になっていた豪華な馬車をフライングデヤァで飴細工破壊したことがティアーヌの意識に刷り込まれてしまっているらしい。

 なにせ俺は自分の進む道にある障害物はパンチ一発で破壊できてしまうのだ。楽しい。



「ちっ!」

「なんですのその舌打ちは!」

「別に舌打ちなんてしていないが?」

「なんとなく私、もう貴方の行動が読めてきましたわ。」


 ぶっちゃけ今回は普通に開ける気持ちもあったのだが、いざギルドの建物を前にすると扉を飴細工破壊して、とんでもないやつ登場パターンをやりたくなったのだ。

 なにせギルドのドア破壊登場はそれなりの定番だからな!


 しかしその望みは敵わなかった。さぞ普通の入場になるだろう。

 だがいざ入ってみれば傭兵・騎士モブにエスコートされ貴族令嬢を伴っているせいか、ざわざわとこちらの様子を伺うような視線だらけ。


 これは定番ファンタジーのノリで絡まれるパターンのヤツだろうか。

 よぉし誰でもいい! かかってこい! デヤァしてやる!


「……あれ貴族じゃねぇか?」

「ギルマスに用件とかじゃね?」

「いやそれなら家に呼びつけるだろ?」

「ってことは軽いクエストとかでも受けて暇つぶしにきたのか?」

「いやいやお貴族様がそんなことするか?」

「しねぇな。」

「しかし、あのでけぇの護衛かなんかだろうが見たことねぇ顔だ。」

「ひぇー怖い怖い。あんまじろじろ見るなって。」

「だな。目つけられたたまったもんじゃねぇよ。くわばらくわばら。」


 ざわざわと話声が聞こえる以外、誰も絡んでくることが無かった。ほんと特に何も無かった。


「ほら。ギルドにつきましたわよ。

 ここで稼ぐのが目的なんでしょう?」

「んむぅーーー」


 ティアーヌの催促に、ついへの字口で鼻息を吹き出す。

 ちょっとランクが上っぽい冒険者相手に定番デヤァをしたかったのだが、くそうくそう! そんな空気がまったくない。


 まぁだが少し考えればそれも当然だろう。

 よくよく考えてみればテンプレの冒険者絡まれパターンの方が異常だ。


 なにせギルドのシステムというのは、大抵の場合が依頼人からクエストを委託され、それを冒険者にまわす形を取っているはず。であればギルドには依頼人も顔を出すという事だ。


 だからギルドに入ってきたのが弱そうな人間であったとしても、その人間に因縁つけて絡むような冒険者がいたら普通は排除されてしまう。排除は軽くてもギルドからの受注停止措置。もし絡んだ相手が悪ければそのギルドに所属する先輩達から愛の鉄拳ならぬ憎の鉄拳で私刑を受け再起不能にされるのがオチだろう。

 なぜなら、もし『あのギルドに行ったら絡まれる』とか悪い噂が立ってしまえば依頼人が近づかなるからだ。もちろんギルドには外商部隊のような依頼を聞いて回る部隊もいるだろうが、そういうのは高額依頼に限定されることが多いだろうから、一般市民の『近所の薬屋さんの薬草採取依頼』だの地域密着型依頼は、本人がギルドにやってきて依頼をするはず。

 だからこそ『あのギルドに行ったら絡まれる』なんて噂が立てば、依頼が無くなり、おまんまを食い上げるハメになりかねない。死活問題だ。


 さらにそういった依頼主は、冒険者を志した者の誰しもが初心者の頃にそういった依頼をこなした経験を持つだろう。つまり誰もが世話になった恩がある相手ということ。

 そういった相手に絡む同業者は心情的にも許せるものではないだろう。


 自問自答を繰り返し、現状に納得してからへの字口を直して受け付けに進む。

 受付には何人かの人間が自分が自分の番を待っていたが、その人達は皆ざざざっとどいた。

 若干悪い気がしないでもないが少し申し訳ない。だが貴族令嬢がいるのだからある意味当然の対応なのかもしれない。


 俺の巨体を見た受付がヒクっと口を歪ませる。なにせ10代の少女のように見えるから、それも当然だろう。兎さんは熊をみれば怖がるものだ。

 俺はニッコリと笑顔を作る。


「このギルドに所属したら依頼を受けたりして金を稼げるだろうか?」

「は、はぁ。はい。か、可能です……ちょ、ちょっとお待ちください! ま、マスター! マスター!」


 返答を切り上げバタバタと声を上げながら奥へと走ってゆく少女。

 耳を澄ませば


「マスター! ちょっと! 貴族っぽい方がいらしてます!」

「はっ!? えっ!? マジかよ!? えっ? ダレ?!」

「ななな、なんかでっかい男を連れた、可愛い女の子なんですけど!」

「名前は!? 聞いたんだろ!?」

「あ、あええ、あ、聞き忘れました」

「何やってんだよ! あーくっそ、なんなんだいきなり! とりあえず会議室にお連れしてくれ! ちょっと準備するから!」


 小さくやり取りが聞こえてきた。


 どうやらティアーヌの居るせいで、色々スキップしてギルドマスターと対面コースになったようだ。やるなティアーヌ。いきなりギルドマスター対面コースとは……まぁ冒険者テンプレ的には絡んだ上級冒険者をブッ飛ばしてギルマスに目をつけられて面会パターンが多いから結果的にはオーライだ。

 今回は、ちゃんとテンプレ主人公コースに乗っているようで、つい、ぬっふっふと笑いが漏れる。


 笑ってしまった事で、チラリとティアーヌを見てみれば、なんとも訝しげな眼で俺を見ていた。


「おおお、お、お待たせして申し訳ありません! と、とりあえずコチラにお越しくださいませ!」

「うむ!」


 案内に従い部屋に入ると、程なく男が額に汗を浮かべながらやってきた。

 その服はよそ行きの上等な物だが、急いで着たのだろう事がありありとわかる雰囲気だった。


「こ、これは、ティアーヌ様ではございませんか!」

「えぇ。急にごめんなさいね。」

「とんでもございませんとも! しかして本日は一体どういったご用件で?」

「用があるのは私ではないの。」


 ティアーヌの視線がこちらを向く。

 するとギルドマスターの顔も俺に向いた。


「とりあえずここのギルドのシステムを教えてくれ!

 なんかモンスターとかブッ飛ばしたら金が手に入る感じのヤツか?」


「……はぁ?」


 ギルドマスターの眉間が皺だらけになった。


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