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ヒロイン論争の行きつく先


「いやいや! どう考えても『処女』って嘘ついてるだけでしょう!?」


 ティアーヌの絶叫が響き、俺はレベッカに手渡した優勝トロフィーが砂のように崩れていく錯覚を覚えた。

 なぜならティアーヌの突いた点は、分かっていても無視した点。敢えて見ないように目を逸らした点だったからだ。


 『嘘として十二分にあり得る』


 熊のような男が『処女でない方は死ぬが良い』とでも言わんばかりに拳を振るっているのだ。

 嘘であったとしても叫ばずにはいられない事くらい心情として察して余りある。


 ただ……嘘でもいい。

 騙し通してくれるのであれば嘘でも構わないのだ。


 気持ちの良い嘘を……それが見抜けない嘘であれば、それは真実と違いはしない。

 だが、この心とは裏腹に、どこかで心が冷め始める。


「う、嘘なんかついてない……です……」


 上目遣いのレベッカがそう呟いた。


 嘘でもいい。

 嘘でも嬉しい。

 花いちもんめ。


 だって、ここに『カワイイ』があるのだから。


 実際、処女・非処女かどうかは、おせっせの相手としてその段階まで進まなければ確認のしようがないのだから。


「嘘おっしゃいっ!」

「嘘じゃないしっ!」


「もし本当に処女だというのなら……そうだわ! ウチのメイドに確認させればいいのよ!」

「は、はぁっ!?」



 ティアーヌが馬車の扉を開くと、その奥からおずおずとメイドが顔を覗かせた。


 その手があったか!


 なるほどと納得し拳を握りしめる俺。

 レベッカは動揺したような声を上げながらも、俺の挙動から何かを悟ったのか慌てながら言葉を続ける。


「い、嫌よ! いきなり股を開けとか! あんたバカじゃないの!?」

「はっはーん。やはり嘘でしたのね! 見ました? この焦りようを。」

「あ? 女同士でも見られるのは嫌に決まってんだろうが! お貴族様と違って普通の人間は無暗むやみに肌を晒したりしねーんだよ! 変態か!」

「んまっ! 貴族は下賤な庶民よりもずっと肌を晒しませんよ! 撤回なさい!」


 どこか必死さを感じる二人の言い合い。

 その言い合いはどんどん熱を上げ、苛烈になってゆく。

 そんな中、熱を上げる二人に反して、どこか冷ややかな目で眺め始めていた俺は、ふと気づく。



 ヒロインかもしれない程にヒロインりょくの高い二人に……俺は一体、何をさせているんだ?




 もし、この二人のどちらかが真にヒロインであったとしたのなら、そもそもこんなヒロインらしからぬ処女云々だのの論争を繰り広げるはずがない。

 いや、この二人も普通であれば、こんなやり取りをするはずもなかったはずだ。

 一体だれがヒロインだっただろう二人をこんな所業に走らせたのか。


 ……俺だ。


 こんなやり取りをさせている原因は『俺』だ。

 俺が勝利条件となっているからこそ普通であればしないだろう論争を繰り広げているのだ。

 なぜならこの論争に負ければデヤァが待っている。全滅フラグデヤァだ。

 論争に勝つことが勝利になるからこそヒロインらしさを捨ててまでして必死に戦っているのだ。


「俺は……何をしていたんだ……」

 

 悔恨の念から小さく呟く。


 ヒロインだっただろう貴族令嬢、淑女のティアーヌ。

 ヒロインだっただろう女だてらに山賊をまとめあげるレベッカ。


「いいからさっさとこっち来て脱ぎなさいよ!」

「やだっつってんだろうが! つーかお前も本当に処女なのかよ! 嘘なんじゃねぇのぉ?」


 失敗した。

 失敗した。


 俺は失敗した。


 ヒロインが崩壊してしまっている。

 コレは俺の失敗だ。

 失敗の原因は全て俺にある。


 そもそもにして俺はなぜ自分を主人公だと思っていたのだろう。

 主人公とはヒーロー。ヒロインと並び立つヒーローだ。ヒーローなのだ。

 ヒロインと苦難を共にし、愛を育んでこその主人公!

 ヒーローは処女論議などしない! するはずもない!


 では俺はなんだ?


 破滅都市暴力市長じゃないか!

 破滅都市暴力市長が主人公になれるのは『暴力破滅都市』のみなのだ。


 今の俺のしていることは力の恐怖により人を動かす悪役の親玉そのもの。

 暴力の力で人を動かしている悪役だ。


「と……いう事は」


 自問自答から、ある事に気づき戦慄が走る。

 素早く現状を見まわし確認する。


 言い合いをする貴族令嬢と女山賊。

 うろたえるメイド。悩む騎士・傭兵モブ3人。

 そして山賊側についている騎士・傭兵モブ3人を瞬殺できる熊のような大男こと俺。


『ヒーロー登場の絶好のチャンスじゃないか!』


 ここは定番ファンタジー世界なのだ。

 ピンチにはヒーローがやってくる可能性が高い!


 その事実に気づいた瞬間。俺はすぐに踵を返してその場を離れ始めた。



「えっ?」

「えっ?」

「「「「 えっ? 」」」」



 俺は破滅都市暴力市長。

 チート主人公には敵わない。

 俺にあるのはデヤァのみ。


 戦いのある場にこそ主人公として咲ける道があり、そしてそこに俺にあったヒロインも存在するはずだ。

 多分アレだ。俺のデヤァで主人公になれる線を考えれば冒険者ギルドで活躍パテーンのヤツに違いない。


 なんせ悪役ポジションの事実に気づいてしまった以上、ティアーヌかレベッカ、どちらかとおせっせできるシチュエーションに至ったとしても、なんとなく悪役が凌辱するシーンに変換されてヒーローが来そうな気がする。

 この二人は俺のヒロインではない。


 つまり、俺の居場所はここじゃあない。




 背に突如場を離れ始めた俺に対する全員の疑問の声を感じながらも、俺はその声を気にすることなく、ただ道を歩み始めるのだった。

 道の先にはきっと街があるはず。


 まってろ。俺のヒロインよ。

 まってろ。冒険者ギルド。



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