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貴族をデヤァするだけのお仕事市長

 金の成る木の周りには、いつも人が寄ってくる。


 ティアーヌは魔石動力を発表し、その利用方法の周知に努めた。


 一定の回転運動を作り出す魔石動力が、一体どのように使えるのかという具体例を用いた周知は、貴族であるティアーヌの発表ということも相まって都市内の人を使う立場の権力者達の感心を大いに集めることに成功し、街は魔石動力を使用した仕掛け作りに沸きはじめる。


 なにせ人を使う立場にいる人間達は『利益』に敏感だ。そして人を使う事のコストの高さを知っている。


 奴隷を買おうとも、買った奴隷は飯を食わせなければ死ぬし、住む所を用意せずに放置すれば死ぬ。着る物が不足しても冬に死ぬ。

 つまり衣食住を最低限整えなければならない。折角買った奴隷をすぐに死なせてしまい採算が取れないし、できるだけ長く使いたいからこそ衣食住を整えるが、一人だけに対して整えるより大勢を賄えるように一括して整えた方が結果として安上がりと気づく。そして権力者たちは何十人という奴隷を飼い、施設を有しその労働力を確保していた。

 一括運用で奴隷一人当たりにかかるコストが少なくなったとはいえ何十人のコストは馬鹿にならない。そこで盲点なのは労働力の質だ。


 奴隷達は人間であり意思があるから『真面目にサボる』

 そう、いかにして楽をするかを考えるのが奴隷。それが奴隷の正しい有り方。だからこそ怠惰を取り締まる必要が生まれ、監督官を新たに雇う必要が出てくる。

 そして雑事が増せば増す分、それに比例して真面目に働く高い質の労働力を提供してくれる人間も雇わなくてはならない。もちろんコストは高い。だが必要になるのだ。


 故に更に人件費が増し、どんどんと利益は減ってゆく。だからこそ人に食わせる為に事業をしているのかと思う権力者たちも多かった。


 それがどうだ。魔石動力を使用すれば、初期投資とメンテナンス、そして魔石動力が切れた時の交換費用はかかるが、それだけでコンスタントに最大値の結果を出し続ける機械が作れるのだ。サボることも無くコストも読みやすい。これまでのデメリットを消し去る存在に権力者であればあるほど飛びつかないはずもなかった。


 そして権力者が注目すれば、その周りも活発に動く。


 誰かが便利な道具を作り出せば、誰かも負けじとさらに便利な道具を作り出す。

 権力者に気に入られて自身の権力を強める為だ。

 そういう競争が起きはじめると、より賢い者はその作り出した道具その物が商売になり、自分が権力を得ることができると気づき始める。


 ――魔石動力の需要が高まることとは、既存の権力や体制の変異・変換が進むということだった。



 そんな、これまでの基盤体制が大きく揺れ動く中でも、ティアーヌの立場は揺らぐことはない。

 なぜならティアーヌの土台、収入源が、その大本たる魔石動力そのものなのだから。

 ティアーヌは、ただ動力を提供し市場に任せてさえいるだけで利益が膨れ上がってゆくのだ。


 街全体もバブル景気のように膨れ上がってゆく利益で誘蛾灯のような光を放ち人を吸い寄せる。

 どこかしらから金の匂いを嗅ぎつけやってくる商人。商人たちの他にも詐欺師に盗人。望む者、望まない者、街は清濁併せ呑むように迎え入れてゆく。


 人が押し寄せれば、沸き立つ街は更に沸く。

 成功する者は成功し、失敗する者は失敗する。これまで利益を掴んでいた者は、より大きな利益を手にし、堕ちる者は堕ちてゆく。街の放つ強い光は、光に照らされる人間と、影に落ちる人間をはっきりと分け始めていた。


 そんな人のドラマが日夜繰り広げられ街の利益の規模が膨れ上がる中、華々しい利益の光に、他の貴族や王族が気づかないはずも無い。


 貴族は階級社会。

 一番上に位置する王が命令すればそれに逆らう事などできるはずはない。

 ティアーヌは一言告げられるだけで権力の大半を失うのだ。


 故に。



「デヤァ!」

「グワー!」


 力自慢と思わしき男をデヤァする俺。

 そしてその男を連れてきた貴族を指さし宣言する。


俺の開発した魔石動力(・・・・・・・・・・)は、お前には使わせてやらん! 協力もしてやらん! 絶対にだ!」

「そ、そんなぁ!」

「ふん! 不愉快だから俺は帰る!」


 俺が権力闘争の矢面に立っている。


 何故俺が貴族相手にデヤァしているのかといえば、要はティアーヌが取り仕切っている魔石動力というのは

 『実のところ俺が開発していて、ティアーヌは後見し支援しているだけでしかなく全ての決定権は俺にある』

 という事にしてあるからだ。

 だからティアーヌが上位者から権力を差しだせと言われても、できることは俺を差し出す事しかできない。


 そして俺は王政とか知らん!

 貴族とか知らん!

 お前嫌いっ!


 と、デヤァしてティアーヌの所に戻れば良いだけ。


 なにせ俺に脅しはきかんからな。

 ティアーヌにしても『なにしろ非常に無礼な男ゆえ会わせる事が出来ないのです。ウチもコイツが来た初日に門が大破し衛兵が……オヨヨ』という言い訳もできる。


 ん?


 俺が無礼なのか?

 まぁ知らん!


 一度、俺にキレた貴族がA級冒険者をけしかけてきて魔法で火だるまにされたが、グワー! っとダウンしたら火が消えたから、そのまま全員デヤァしてやった。結果としてデヤァできたから問題ない!

 それにピンチの時はダブルラリアットしてれば大抵の場合は何とかなる事も分かった!


 だから俺は帰る!

 なにしろレベッカが待っているからな!


 俺がティアーヌの所に戻る理由はメイドさん及びレベッカだ。

 膨れ上がる利益を見てティアーヌがレベッカに命令して、お風呂でレベッカデヤァした。

 やはりヒロイン力の高いレベッカはデヤァだった。

 ちゃんとヒロインだったデヤァ!


 もちろんティアーヌも、今している対応は、ただの時間稼ぎであることは理解している。

 だからこそ魔石動力の活躍により職にあぶれた者達。主に権力者たちに追い出された労働力でしかない者達を兵力として受け入れている。

 隅に追いやられ、あぶれた者達に対する受け皿をティアーヌが用意しているのだ。


 この世界はルールやモラルの低い力が物を言う世界。利益が多分にあるのであれば、それを自衛に回すのは当然のこと。


 それに街に来る者達にしても、挑戦に失敗しても食っていける職があるというのは保険になる。

 だから誰しもが新しい事に挑戦したくなり、さらに新しい技術も生まれやすくなる。

 ……まぁ結局は兵士が増えることの方が多いのだが、幸いな事に大量の兵士を養う金をティアーヌは持っているのだ。



 ティアーヌが兵力を集める理由は単純だ。

 なにしろ、日々、魔石動力を利用して権力を肥え太らせてゆく市井の人間達が居て、そして、それを指をくわえて見ている事しかできない貴族達が居るのだから、何が起こるかは俺にだって分かる。


 一般市民が権力を持ちはじめ、貴族の権力が薄くなる。

 そうなれば遠からず起きるだろう。


 『革命』が。

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