夜戦大好き市長
魔石動力。
歴史に深く残り、後世永遠に語られる発明である。
発明において、新しい物や仕組みを発見する事も重要だが、それをいかにして利用するかこそがより重要とされている。
なぜならその利用の及ぼす影響力こそが発明の価値と深さを作り出すのだから――
「回転していれば何かを動かすことができるだろう? で、その動きをなんやかんや考えて利用できる幅を広げれば良いということだ。たぶん!」
俺の言葉をBGMに真剣な顔で考え事をしているようなティアーヌとレベッカ。
二人そろって口元に手を当ててじっくりと考え事をしている。
「なんとなくでしか理解できないけれど、回転が有用ということは分かりましたわ……とりあえず今、私がやるべきことは魔石の回転運動化の原因の解明と強弱の調整方法、そしてなにより、その回転運動エネルギーの転用方法の確率ですね。」
「この人の話から利用方法の完成形として、陸海空の移動方法、工作とかの産業利用、遊具に至るまでの道はぼんやり見えている分、やり易いかもしれないわね……まだ完全に絵空事だけれど。」
「ええ。一歩一歩でも利用方法を確立していきましょう。価値がある事はなんとなくわかったのだから……ただ、考えるとして、まずは産業と移動方法での使用について優先して考えた方がいいと思うのだけれど……ここについてレベッカはどう思う?」
「はっはっは! どうした! 俺には聞かないのかい?」
「そうね……私は同時検討より産業を優先した方がいいと思う。
ティアーヌの案の通り同時進行させた場合、産業が改善して沢山の物が効率よく作られるようになったとしたら、それに合わせて運搬方法も確立する必要があるって事で、一気に市場を活性化させるってことを狙ってるんだと思うけれど……でも産業自体たくさんあるしさ……
それに移動方法は今現在馬車なんかが走り回ってるじゃない? その辺の人達を無視すると、さっきみたいな事になる可能性もあるんじゃないかしら? 反乱まで行かなくても割を食った人の嫌がらせとかありそう。」
「確かに一理あるわね。
「だからまずは産業を効率化させる方を優先検討して、どんどん物を作れるようにするの。
そして今、物を運んでる人達が『人手が足りない! 仕事が多すぎる!』と叫び声を上げ始めてから解決策として運搬方法を検討して追いかけるってくらいの方がいいんじゃないかしら? これだったら反感よりも好感の方が高いと思うの。」
「反感より好感の方が良いものね。ふふっ。
となれば、産業を優先、余力を少し運搬にという感じかしら……それにまだ産業でもうまく利用できるかも分からない段階ですものね。」
「そうね。肝心なところがね……」
「はっはっは。無視かい? 無視なのかい?」
レベッカは山賊から奴隷に落ちたとはいえ元上流階級。きちんと教育をうけて育ったお嬢様なのだ。
さらに市井などの庶民については山賊落ちした観点から色々見ており、よく知っている。
何故山賊レベッカが市井について知っているかといえば、農民の味方の山賊だっていたりするからだ。
農民の敵こと徴税官のポッケないないや過分徴税、私腹を肥やす特権階級を農民がとっちめる時には、農民自身が山賊化したりして戦うしかない。レベッカはその助力として共同戦線をはることがあった部類の山賊らしい。もちろん農民からの略奪だってしただろうがな。
まぁ、農民からみて天秤にかければ山賊の方が徴税官よりまだマシだったということだ。なにせモラルは中世レベルだからな。
そんなこんなで農民や市井絡みの知識はレベッカはティアーヌより貯えているからこそ、今回の反乱を踏まえてティアーヌのナチュラルボーン上から目線だけでは足りない点をレベッカが補填するというやりとりが繰り広げられているのである。
もちろんレベッカにしてみれば元上流階級といえど今はしがない奴隷。最下級かつ最底辺だからこそ自分の立場が向上する絶好の機会は見逃せない。だから色々な恨み云々は飲みこんで励んでいるのだ。これは女性ならではの切り替えだろう。ティアーヌの態度が柔らかいことも要因だろうが、俺だったらデヤァしてる。
「今レベッカと真面目な話してるから、ちょっと黙ってて。ちゃんと黙ってられたら何人でも好きなメイドと一緒にお風呂入っていいから。」
「うむっ! これは黙らざるを得ない!」
俺は夜の市長戦の為に黙る事にする。
ちなみに俺の待遇はこんな感じだ。
俗にいう貴族の『逃がさねーぞ』待遇である。
男だったら色、金、名誉欲で縛りあげて甘い汁につけこむというやつだ。俺はデヤァの関係でB級冒険者でもあるが、ティアーヌの下ではS級以上の扱いを受けているからなんの不満もない。
ぬるま湯。さいこうれす。
なにせ一般庶民では到底見ることすら適わないような素晴らしいメイドさん達と次から次へと市長戦を繰り広げることができるのだ。
さらにティアーヌもレベッカも貴族スキルで男はそんなものと納得しているからか、俺がどれだけメイドさんと市長戦を繰り広げようと呆れるだけで怒ったりもしないのだから不満などあるはずもない。故に夜も市長砲がデヤァし放題デヤァ!
「それに産業から始めるとして、どの分野から始めたら良いのかしらね?」
「衣・食・住、それに兵站、一口に産業と言っても色々あるし、どれも重要よね。」
二人がう~んと唸り始める。
俺はといえば夜の市長戦に思いをはせウッキウキだ。
これまで見かけたメイドさん達の姿を思い返す事に一生懸命にならざるをえない。
「ちなみに貴方はどう思うの?」
下半身がデヤァし始めた俺をチラ見したレベッカが口を開いた。
「――――――!」
「喋って良いから。」
ティアーヌの許可が出たので口パクをやめる。
「どれにでも誰にでも使える機械を作ればいいだけだろう。後はそれぞれで勝手にやってもらう! シンプルイズベストだ! ハッハッハ!」
呆れたような顔のレベッカ。
だがティアーヌは首を傾げた。
「機械というと……投石機のような仕掛けのことよね?」
「その道具が作れないから悩んでるんじゃない。」
「おう。あれもまぁ機械なのか。まぁそうか。
例えばの話だが回転する魔石でモーターが出来たとして、モーターに車輪をつければ移動する物が出来るだろう? 車輪じゃなくて歯車にしてなんやかんや考えれば産業機械の一つや二つできるはずだ!」
「……歯車?」
「ん? 輪っかにこう、ギザギザのついたヤツだな。
ギザギザがついているからしっかりとパワーを伝える事が出来る! おぉ、そう言えば『歯車が噛みあう』という言葉もあったな。小っちゃい歯車でも大きな歯車を動かすことができるから、なんかできるだろ!」
レベッカとティアーヌがハっと閃いた様な顔になった。
「おっ? なんだ? どうした?」
「そうか今気が付いた! 水車の原理と一緒だ。」
「そうね川のような大規模な整備が不要になって魔石だけでその役割を果たせるようになるってことね。」
「水車はその力で臼を回したり、杵で突いたり色んな利用方法に変換してる。それを知っている人間達を集めれば、もっと色んな利用方法を考えられる! 力作業が減る!」
「どの産業も必ず単純作業は存在しているはずだし、それを魔石で賄えるようになれば、大きな転換を迎えるわね。なんだか具体的に見えてきたわ!」
「おっ?おっ? なんだ? 役に立っちゃったのか? 俺は役に立っちゃったのか? ん?」
「うん立った立った。立ったから貴方はもう大丈夫。メイドと遊んできなさい。」
「うわぁい!」
即、退散。
こうして
メイドさんデヤァ。
メイドさんデヤァしている間にティアーヌとレベッカは魔石動力とその利用法についてを確立させていくのだった。
メイドさんデヤァ!