一目惚れ
まひろが初めて教室に訪れた日。
その日は、高校の始業式の日だった。
「よかったー! 優と同じクラスで」
真也はホッとした表情を見せる。
「机の上に乗るな」
「別にそのくらい、いいじゃーん」
僕は真也の発言を無視して、今日提出の英語の課題を机に出す。
「あれ、英語って今日だっけ!」
「まさか」
次の言葉は予測できた。
「頼む!写させて!」
神にお願いをするように、真也は僕の前で手を合わせる。
「はぁ。ほら、早く写せよ」
僕は課題を真也に差し出す。しかし、真也はそっぽを向いて何も言わない。
「真也、聞いてるのか。お前が英語の課題見せてほしいって――――」
「あぁ」
真也は僕の方を見ずに、魂の抜けたような声で反応する。
僕も真也の見ている方向を、気づいた時には見ていた。
僕や真也だけじゃない。教室にいるみんなの視線は、今教室に入ってきた女の子に、集中している。
ふんわりとしている長い黒髪、穏やかな目、艶やかな唇。
ありきたりな制服ですら、ドレスのように輝いて見えた。
僕が真也の顔をもう一度見た時、真也の目が、まひろに一目惚れしていることなんて、僕にでもすぐに分かった。
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