輪廻迷走婿要らず
ももの花言葉「わたしはあなたのとりこ」
「はぁ……」
「いーなーりちゃん。なんかお疲れ?」
「……糸か」
「いかにも! 稲荷ちゃん専属癒し部隊隊長の宮澤糸君でございますよーん」
「……妖怪が人間と生きて行くことは出来るのか、それを考えていただけ」
「あ! それなら俺、いい話持ってるよ!」
「何」
「□□霊園にいたがしゃどくろに、なんと酒飲み友達ができましたー! いえーい!」
「……そうか。もう余った甘酒を飲まなくて済むんだな」
「その割に俺の自家製だからってちゃんと飲んでくれるとこ好きよ」
「はいはい」
「俺が図書館でよく見かける人なんだよなー。偶然ってすっげーよ、本当に」
「……」
「あ、稲荷ちゃん桃食べる? 八百屋さんでね、冬桃っていうのが売ってたんだー」
「いやいい。……今日、福猫に逢ったんだ。人間のもとで、姿を明かして暮らしているやつだ」
「あー、あの黒猫さん」
「喧嘩ばかりしていると、不運ばっかり遭遇してきたせいで気難しい主人なのだと、笑っていた」
「へぇ」
「……なのに、あの人間は泣いていたんだ」
「ん? どゆこと?」
「喧嘩ばかりで、融通の利かない性格。あんまりにも福猫が可哀そうだったから、一言何か言ってやろうと思ったんだ。でもその前にあいつは福猫のことを探していて、見つかったら涙していた」
「……そりゃ、寂しかったんじゃねーの?」
「……寂しい」
「うん。大切なものに気が付いて、感極まって泣いた。良かったんじゃねーの?」
「君、見ていたように言うな」
「えっ」
「……ほう?」
「いやいやいやいや怪しいことはなんもしてねーよ!? ……一週間くらい前さ、痴漢冤罪見ちゃってさ」
「ああ」
「その被害者、だから冤罪かけられた男の人の方とばったり商店街で会っちゃって」
「……証言者か何かだったのか」
「そうそう! スマホ両手持ちしてんのに痴漢できるわけねーよな。……俺はゆっくり買い物してたんだけど、その人さっさと帰っちゃってさ。まあその時は気まずい思いしなくていっかーってなったんだけど」
「その男が戻ってきたんだな。……家からいなくなった黒猫を探しに」
「さっすが稲荷ちゃん。そのとーり!」
「……もうやめないか」
「……え?」
「ワタシは、妖怪の長とも呼ばれる天狐だ。妖怪たちが好きなように生活できるように整備するのもワタシの仕事だ」
「……うん」
「でも君は人間で、まだまだ若い身だろう?」
「そりゃ稲荷ちゃんと比べたら俺の爺さんだって赤ちゃんだろうけど」
「話をそらさない」
「はい」
「……頼むから、余計なことに首を突っ込むな」
「俺、稲荷ちゃんの役には立てない?」
「……ああそうだ。人間ごときが引っかきまわすな、迷惑だ」
「俺は稲荷ちゃんが好きだよ。稲荷ちゃんと関わってて「余計なこと」なんてあるもんか」
「……」
「だから、稲荷ちゃんが迷惑なことはしたくねーし、やめろって言うならやめる」
「じゃあ」
「だからさ、俺が大人になるまで見ててくれよ」
「……は?」
「俺、多分何年たっても稲荷ちゃんが好きだよ」
「……へえ、名前も顔も偽物のワタシをずっと愛するとでも?」
「俺、最初っから稲荷ちゃん人じゃないって分かってたし」
「む……」
「だからさ、俺が稲荷ちゃんに見合う男になるまで待っててよ。まあさすがに転生したら記憶はなくなっちゃうだろうけど……生まれ変わっても好きになると思う!」
「証拠も何にもないくせに」
「恋の証明なんてあってないよーなもんだろ?」
「あーはいはい、分かった分かった」
「あーっ! 子どもだと思って馬鹿にして……」
「はいはい分かってるよ」
「見てろよ? 絶対いい男になってやるんだからな!? 手始めに花屋で売ってたこの花をプレゼントしてやる!」
「ああ、ありがとう。……見ててあげるよ、今世も」
了
ウインターコスモスの花言葉
「もう一度愛します」